夜道にご注意
「うわ~、おそくなちゃった~。」
ケイコはぶつぶついいながら、駅からの帰り道を歩いていた。ケイコは今、自宅から電車で少し行ったところにあるブティックで働いている、20歳。お客さんや同僚からの人気は高く、いつも質の高いファッションでお店に行っている。今日は、冬の寒さも和らいできた3月の下旬。ケイコは、春色のワンピースにジャケット、白いレース地のソックスにヒールの高いパンプスを履いている。まだそんなにヒールには慣れていないケイコは、歩きづらそうに、ゆっくりと家路をいそぐ。もうすでに夜10時を回っている。今日は商品の搬入が夜にあり、今まで時間がかかってしまった。家までは後15分ほど。お父さんとお母さん、妹2人の5人で住んでいる。
家までは住宅街が続き、街灯は結構少なく、暗い道が続く。歩いていると、後ろから誰かが歩いてくる音が。近くのサラリーマンであろうか、いや、それにしては、歩く早さが遅い。ケイコと同じほどの速さで近づいてくる。20歳のケイコは、やはり恐怖を覚え、スピードを上げて歩こうとする。しかし、慣れないヒールに足がとられる。そうしているうちに、足音はどんどん近づいてくる。ためしに止まってみたが、足音もそれにしたがって止まった。いよいよ自分をつけていると思い、必死で歩く。そうしていると、側溝の穴に挟まり、片方のヒールが脱げてしまった。抜こうとするが、深く挟まってしまっている。足音も近づいてきた。仕方なく、そのまま歩くことに。しかし、片足靴下で歩くのは、より歩きにくい。そこで、片方のヒールも脱ぎ、両足靴下で走り出した。そのまま5分ほど走り、ようやく我が家へたどり着いた。急いで鍵をあけ、すぐに閉める。尋常でない彼女の様子に、お母さんと妹も飛び出してきた。
「どうしたの?なにかあった?」
「うん、誰かに追いかけられて・・・。」
「うそ・・・、あれ、靴はどうしたの?」
「途中で捨ててきた!もうヒールあるのいや!靴下も真っ黒だし・・・。」
そしてその場で靴下を脱ぎ、お風呂へと向かった。その後、彼女が追いかけられることはもうなかった。
おわり