表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車男短編集  作者: 車男
45/54

靴なしで踊ってみた

 「ホノカ!違うよ、ここで上げるのは、左手!」

ウミちゃんが言った。また、ダンスが止まる。

「ごめんねえ。いつも私ばっかり…」

「いいよ、楽しいし。さ、また最初から!」

「うん!」

私たちは早朝、家の近くの駅前で、ダンスを踊っていた。観客はおらず、私たちの目の前には、一台のカメラが置いてある。私のお父さんから借りた、ライカのカメラ。動画も撮影可能で、画質がすごくいい。その代わり、ダンスも細かいところまで撮られてしまうから、ちょっとのミスも許されない。NGを出してはいけないと、気をつかうけれど、やっぱりダンスは楽しい。

 撮影した動画は、ある世界的な動画サイトに公開する。すでに十数本の私とウミちゃんのダンス動画が投稿されており、結構な再生回数を誇っている。すごい踊り手さんには、全く敵わないけどね。

「じゃあ、テイク18、いきます!」

ウミちゃんがカメラを撮影開始させ、スマートフォンから音楽を流す。私はカメラに背を向けた、最初のポーズで静止。やがて音が聞こえ、ステップを踏み、手を回しながら振り返る。ここから怒涛の連続ステップが続く。でもそれは大丈夫。何回も練習して、体が覚えている。これまでと同じように、足を前後ろ右左…ピョンピョン…。

「あ!」

「ホノカ!大丈夫?」

またしても私の失敗。ステップに耐えられなかった私のヒールが脱げて前方に飛び、カメラを直撃していた。片足だけソックス姿になったまま、私は呆然と立ちすくむ。

「ごめん!また私…」

NG18回目。いつも私が間違えてしまう。振りのミスや、今回のように靴が脱げてしまったり。対照的に、ウミちゃんはいつもカンペキ。私も見習わないと。

 この日のダンス衣装は、前日の土曜日にウミちゃんと二人で、ファストファッションのお店で買った、色違いのワンピースに、リボン、靴下専門店で買った、レース付きの白ソックス、それとおそろいのパンプス。足にぴったりサイズを選んだけれど、どうしてもスニーカーと違って脱げやすい。

「どうしても脱げちゃうなあ」

私はソックスのまま歩いて靴のところまで行くと、振り返って、言ってみた。

「いっそ、靴なしで、やっちゃう?」

私は冗談のつもりだったけれど、目を丸くしていたウミちゃんが、やがて、にっこり笑って言った。

「うん、それもいいかも。少なくとも、ホノカのNGはもうでないよね?」

「あはははは…」

かくして、私とウミちゃんは、履いていたパンプスを脱いでカメラの横に揃えておくと、白ソックスのままで地面の上に立った。タイルの敷かれた駅前広場。日曜の朝方で、まだ人はそれほど多くないけれど、靴を履かないって、ちょっと恥ずかしかった。動画として、ダンスを公開するけれど、面白くなって、いいんじゃないかな?靴は心の綺麗な人にしか、見えません、とか言っちゃったりして。

「じゃあ、このままテイク19、いきますね!」

ウミちゃんが先ほどと同じ操作をして、私の隣に立つ。

「次こそ、成功させよ!」

「うん!がんばる!」

私は一つ深呼吸して、音楽の流れるのを待った。やがれ聞こえる第一音。振り返って、ステップ開始。ソックスだけだから、ちょっと痛いけどやっぱり動きやすい!ソックス足を地面で滑らせ、回って、ジャンプ。いける、私、いけてる!いままでのNGポイントを楽々通過し、いよいよラストのサビ。ここが一番の難関だ。サビの前の休息から、飛び上がって回って、ステップ。

「ぐへ!」

足がもつれた!そのまま倒れこむ私。

「ホノカ!おしい!」

「くっそー!あとちょっとだったのに!」

服を払って、立ち上がる。ソックスは地面の埃やチリを集めて、真っ黒になっている。

「ホノカ、大丈夫?また、最初からだね」

「ほんとごめん、私ばっかり…」

「ドンマイ。ちょっと休憩して、始めよっか。あそこの売店、今開いたみたいだよ」

「ほんと?私、あんまん食べたい!」

「はいはい。お金、持ってる?」

「うん、ポケットに入ってる」

「じゃあ、いこうか」

私たちはダンスポイントの反対側にある売店へと入った。開店したばかりで、まだ人もいなくて、しいんとしている。日曜の朝って、みんなおねぼうさん。

「あ、ウミちゃん、あったよ、あんまん!」

「飲み物は、どうする?」

「あ、そうだね、私は、お茶にしよう」

「じゃあ私はコーヒー!」

「ウミちゃんもなにか食べる?」

「私?うーん、じゃあ、ホノカとおなじ、あんまんを」

「わかった!すみません、あと、あんまんふたつ、ください!」

店員のお兄さんは、なにか言いたそうな顔をしながら、ちゃんとにくまんやぴざまんと間違えることなく、あんまんを2個、入れてくれた。お金を払ってお店を出ると、雲に隠れていた朝日が私たちを照らした。

「まぶし!でも、あったかいね」

「うん。っていうか私たち、靴履かずに買い物しちゃってたね…」

「靴?」

そういえば、なんかいつもと違うなあと思ってたら、靴脱いでたんだった。すっかり忘れてた!店員さんも、おかしいなって、思ったよね、多分。

「ま、いいか。はやくあんまん食べて、成功させよう!」

「ホノカがNG出さなければ、きっと成功するよね」

「う…。がんばります」

それから私たちはリテイクを重ね、人の姿が見られるようになった午前10時、34テイク目で、ようやくカンペキな撮影に成功した。その頃にはソックスの足裏には穴が開き、ウミちゃんはとうとうソックスを脱いで踊っていた。前を行く人たちの視線が恥ずかしかったり、足が痛かったりと大変だったけど、二人での満足する作品ができたと思う。

「ウミちゃん、お疲れ様!」

「ホノカも、よく頑張ったね!」

「結局ウミちゃんいつもできるんだもん。もうちょっと間違っていいんだよ?」

「ホノカは間違えないように、頑張ってね」

「はあい」

「さて、どっかで足を洗って、早速投稿しないとね!」

「いつものように、ウミちゃんのおにいちゃんに、頼もうね」

「うん!」

私たちは荷物をまとめると、汗を拭き拭き、おそろいのパンプスを手に持って、1人はソックス、1人は裸足で、駅前広場を後にした。次は、NG、出さないぞ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ