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車男短編集  作者: 車男
37/54

夏祭り

 「今日は、楽しかったね」

「そうだな。また、行きたいな」

「あ、そうだ。はい、これ」

「なんだ?・・・ああ、金魚か」

「あたし、10匹もとっちゃったからさ、半分、あげる」

「サンキュ。金魚って、金魚鉢で飼うんだよな?うちにあったかなあ」

「別に、金魚鉢じゃなくても、普通の水槽でいいんだよ。おじいちゃんの家に、コイみたいに大きな金魚がいてね、大きな水槽で、優雅に泳いでるよ。あたしが5歳の時に、すくったやつなんだ」

「それって、もう10年くらい生きてないか?すごいなあ」

「でしょう?まだまだ元気でね、あたしも餌をやってるの」

「お前、動物好きだもんな」

「うん!」

「・・・花火、綺麗だったな」

「そうだね。いろんな色があって・・・」

「最後のはすごかった」

「うん・・・」

「・・・どうかした?」

「え?う、ううん、なんでもないの・・・」

「もしかして、鼻緒が当たって、痛いんじゃないのか?見せて」

「あ、違うの・・・」

「ほら、真っ赤になってる。痛いだろ?我慢しなくていいんだよ、こんなの。むしろぼくの方が、不安になるだろ」

「ごめんなさい・・・」

「しょうがないなあ。お前は昔っから。ほら、乗りなよ」

「え?」

「オンブ。するから。ほら。」

「でも・・・」

「そのままじゃ歩けないだろ?ほら、早く」

「だ、大丈夫?」

「ぼくはいつも部活で鍛えてるから、足腰には自信があるんだ。だから、きっと行ける」

「じゃ、じゃあ、お願い、します・・・。よいしょ」

「うんしょ・・・。お前、思ったより、軽い」

「あ、あたりまえでしょ!?あたしそんなに太ってないよ!」

「ごめんごめん。じゃあ、いくよ。きつかったら、言って。下駄も、持つから、ちょうだい。しっかり首につかまっててよ」

「うん。はい」

「よし。ほんじゃいくぞお」


 「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・重くない?」

「・・・うん。軽い」

「本当?」

「本当」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ねえ、ユーキ」

「ん?」

「また来年も、二人で来れたらいいね。夏祭り」

「・・・きっと、来れるよ。いや、絶対、行こう」

「うん!」

「だから、お前も、我慢するなよ。いろいろと」

「う、うん・・・」

「大丈夫。なんかあったら、いつでもぼくに、言ってくれたらいいよ」

「・・・ありがとう」

「・・・にしても、ちょっと、きついな。く・・・」

「ユーキ?どうしたの?あたし、重くなった?」

「いや、なんでも、ない」

「もう、ユーキ!おろして!ユーキも、きついんなら、言ってよ!我慢しちゃダメだよ!」

「マナツ・・・。ごめん。ちょっと、ぼくも、靴擦れしちゃったみたいなんだ。下駄って、履くの、初めてだから」

「ウソ、ユーキも靴擦れって、するんだ!」

「そりゃするよ。・・・降ろすよ。よいしょ」

「・・・どう?」

「・・・うん、痛い」

「あたし、絆創膏、持ってるよ」

「それは自分に、使いなよ」

「あたしは怪我してないよ。ちょっと赤くなってるだけ。ユーキは血が出てるじゃない。ほら、貼って」

「・・・サンキュ、マナツ」

「・・・二人で、ハダシで、歩こっか」

「・・・そうだな」

「ハダシって、気持ちいいね。」

「・・・うん」

「あたし、ハダシって、小学校以来ない」

「ぼくは、家ではハダシだ」

「そりゃ家ではね、誰でもそうだよ、きっと。あたしのパパって、服も着ないもん」

「そうなのか?ぼくのパパは、・・・そうだな、かろうじて上は着てるな」

「みんなそうなのかもね、パパって」

「そうだな。・・・足、大丈夫か?何か落ちてるかもだから、気をつけろよ」

「ユーキもね。・・・家帰ったら、すぐ足、洗わなきゃいけないね」

「・・・そうだな。ぼくの足も、真っ黒だもんな」

「・・・ねえユーキ、ユーキって、なんで、"ぼく"なの?」

「ん?そうだな、気がついたら、そうなってた。"私"より、"ぼく"のほうが、自分に合う気がするんだ」

「確かに、知らない人が、Tシャツに半ズボンのユーキ見たら、オトコノコだと思うよね」

「そうかあ?別に、男になろうとしてるわけじゃないぞ」

「うん、知ってる。浴衣姿のユーキ、すごくかわいい」

「そ、そんな面と向かって言うなよ・・・。恥ずかしいじゃないか」

「あはは、照れてる」

「そ、そういえば、マナツのそれは、自分の浴衣か?」

「これ?ううん、ママのお下がり」

「そうなのか?ぼくのも、ママのお下がりだ」

「みんな、そうなのかな?ママね、着付けも上手なんだ。ぱっぱっぱって、やってくれたの。ほら、あたし、遅刻しそうだったからさ、助かったよお」

「まあ実際、30分ほど遅れたけどな」

「ご、ごめんね」

「いいんだよそれは。・・・ちょっと、休むか。あそこにベンチがある」

「うん。あ、そだ。これ、食べよう」

「なんだ?それ」

「金平糖。おいしいよ」

「知ってる。けど、食べたこと、無い」

「うそお。じゃあ食べよう!砂糖の味がするよ」

「ただ甘いのか?なら大丈夫だ」

「ユーキ、甘いものには目がないもんね」

「そんなこと、ないぞ」

「さ、座ろ。あー、足が疲れた。足の裏がジリジリするね」

「うん。うわ、やっぱり汚れてる」

「ユーキ、綺麗好き?」

「ぼく?うん、確かに、そうだ」

「やっぱりかあ。あたし、特に気にならないもんなあ。ユーキ、はい、あーん」

「あーん」

「どう?」

「うん、おいしい」

「よかった。いっぱい、食べてね」

「いいのか?いただきます!」

「すっかり気に入ったのね」

「うん、おいしい」

「・・・こうして、ハダシのあたしたちの夏祭りの夜は、更けていくのであった・・・」

「なにか、言ったか?」

「ううん、なんでもなあい」

「そうか」

「・・・ユーキ、ダイスキ」

「ん?」

「ん?」

「・・・ぼくもだよ、マナツ」

「なあに?」

「ううん、なんでも、なあい」


おわり

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