夏祭り
「今日は、楽しかったね」
「そうだな。また、行きたいな」
「あ、そうだ。はい、これ」
「なんだ?・・・ああ、金魚か」
「あたし、10匹もとっちゃったからさ、半分、あげる」
「サンキュ。金魚って、金魚鉢で飼うんだよな?うちにあったかなあ」
「別に、金魚鉢じゃなくても、普通の水槽でいいんだよ。おじいちゃんの家に、コイみたいに大きな金魚がいてね、大きな水槽で、優雅に泳いでるよ。あたしが5歳の時に、すくったやつなんだ」
「それって、もう10年くらい生きてないか?すごいなあ」
「でしょう?まだまだ元気でね、あたしも餌をやってるの」
「お前、動物好きだもんな」
「うん!」
「・・・花火、綺麗だったな」
「そうだね。いろんな色があって・・・」
「最後のはすごかった」
「うん・・・」
「・・・どうかした?」
「え?う、ううん、なんでもないの・・・」
「もしかして、鼻緒が当たって、痛いんじゃないのか?見せて」
「あ、違うの・・・」
「ほら、真っ赤になってる。痛いだろ?我慢しなくていいんだよ、こんなの。むしろぼくの方が、不安になるだろ」
「ごめんなさい・・・」
「しょうがないなあ。お前は昔っから。ほら、乗りなよ」
「え?」
「オンブ。するから。ほら。」
「でも・・・」
「そのままじゃ歩けないだろ?ほら、早く」
「だ、大丈夫?」
「ぼくはいつも部活で鍛えてるから、足腰には自信があるんだ。だから、きっと行ける」
「じゃ、じゃあ、お願い、します・・・。よいしょ」
「うんしょ・・・。お前、思ったより、軽い」
「あ、あたりまえでしょ!?あたしそんなに太ってないよ!」
「ごめんごめん。じゃあ、いくよ。きつかったら、言って。下駄も、持つから、ちょうだい。しっかり首につかまっててよ」
「うん。はい」
「よし。ほんじゃいくぞお」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・重くない?」
「・・・うん。軽い」
「本当?」
「本当」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ねえ、ユーキ」
「ん?」
「また来年も、二人で来れたらいいね。夏祭り」
「・・・きっと、来れるよ。いや、絶対、行こう」
「うん!」
「だから、お前も、我慢するなよ。いろいろと」
「う、うん・・・」
「大丈夫。なんかあったら、いつでもぼくに、言ってくれたらいいよ」
「・・・ありがとう」
「・・・にしても、ちょっと、きついな。く・・・」
「ユーキ?どうしたの?あたし、重くなった?」
「いや、なんでも、ない」
「もう、ユーキ!おろして!ユーキも、きついんなら、言ってよ!我慢しちゃダメだよ!」
「マナツ・・・。ごめん。ちょっと、ぼくも、靴擦れしちゃったみたいなんだ。下駄って、履くの、初めてだから」
「ウソ、ユーキも靴擦れって、するんだ!」
「そりゃするよ。・・・降ろすよ。よいしょ」
「・・・どう?」
「・・・うん、痛い」
「あたし、絆創膏、持ってるよ」
「それは自分に、使いなよ」
「あたしは怪我してないよ。ちょっと赤くなってるだけ。ユーキは血が出てるじゃない。ほら、貼って」
「・・・サンキュ、マナツ」
「・・・二人で、ハダシで、歩こっか」
「・・・そうだな」
「ハダシって、気持ちいいね。」
「・・・うん」
「あたし、ハダシって、小学校以来ない」
「ぼくは、家ではハダシだ」
「そりゃ家ではね、誰でもそうだよ、きっと。あたしのパパって、服も着ないもん」
「そうなのか?ぼくのパパは、・・・そうだな、かろうじて上は着てるな」
「みんなそうなのかもね、パパって」
「そうだな。・・・足、大丈夫か?何か落ちてるかもだから、気をつけろよ」
「ユーキもね。・・・家帰ったら、すぐ足、洗わなきゃいけないね」
「・・・そうだな。ぼくの足も、真っ黒だもんな」
「・・・ねえユーキ、ユーキって、なんで、"ぼく"なの?」
「ん?そうだな、気がついたら、そうなってた。"私"より、"ぼく"のほうが、自分に合う気がするんだ」
「確かに、知らない人が、Tシャツに半ズボンのユーキ見たら、オトコノコだと思うよね」
「そうかあ?別に、男になろうとしてるわけじゃないぞ」
「うん、知ってる。浴衣姿のユーキ、すごくかわいい」
「そ、そんな面と向かって言うなよ・・・。恥ずかしいじゃないか」
「あはは、照れてる」
「そ、そういえば、マナツのそれは、自分の浴衣か?」
「これ?ううん、ママのお下がり」
「そうなのか?ぼくのも、ママのお下がりだ」
「みんな、そうなのかな?ママね、着付けも上手なんだ。ぱっぱっぱって、やってくれたの。ほら、あたし、遅刻しそうだったからさ、助かったよお」
「まあ実際、30分ほど遅れたけどな」
「ご、ごめんね」
「いいんだよそれは。・・・ちょっと、休むか。あそこにベンチがある」
「うん。あ、そだ。これ、食べよう」
「なんだ?それ」
「金平糖。おいしいよ」
「知ってる。けど、食べたこと、無い」
「うそお。じゃあ食べよう!砂糖の味がするよ」
「ただ甘いのか?なら大丈夫だ」
「ユーキ、甘いものには目がないもんね」
「そんなこと、ないぞ」
「さ、座ろ。あー、足が疲れた。足の裏がジリジリするね」
「うん。うわ、やっぱり汚れてる」
「ユーキ、綺麗好き?」
「ぼく?うん、確かに、そうだ」
「やっぱりかあ。あたし、特に気にならないもんなあ。ユーキ、はい、あーん」
「あーん」
「どう?」
「うん、おいしい」
「よかった。いっぱい、食べてね」
「いいのか?いただきます!」
「すっかり気に入ったのね」
「うん、おいしい」
「・・・こうして、ハダシのあたしたちの夏祭りの夜は、更けていくのであった・・・」
「なにか、言ったか?」
「ううん、なんでもなあい」
「そうか」
「・・・ユーキ、ダイスキ」
「ん?」
「ん?」
「・・・ぼくもだよ、マナツ」
「なあに?」
「ううん、なんでも、なあい」
おわり




