ふたり
「ほら、見えた!天の川!」
マイが空を指差す。リンは遅れて辿りつくと、空を見上げた。真っ黒な空に、キラキラと、星の川ができている。リンが見ることを願ってやまなかった、天の川だった。リンは声も出せず、ただただ見とれていた。そんなリンを、マイは手を引っ張って、フェンスの近くへ連れていく。
「今日、七夕だよね。もう、お願い事は、書いたんでしょ?」
マイが訊く。
「うん」
「なんて書いたの?リンは」
「そんなの、言えないよう・・・」
「当ててあげよっか?」
「どうして?」
「だってマイたち、親友だよ。リンのことくらい、全部分かってるつもりだもん」
マイは学校で着る、夏仕様の制服に、真っ白なハイソックスを履いていた。建物の中で履かなくてはならないスリッパは、彼女の足元にない。足音で気づかれたら、いけないからだった。リンも同じく、スリッパを部屋に置いてきていた。足元は、白いスニーカーソックスだけ。
「リンのお願いごと。・・・早く病院が、よくなりますように」
マイは優しげな笑みを浮かべ、そっと呟いた。リンは目を見開き、マイを見る。
「違う?」
「・・・正解。よく、分かったね」
「だって、これ、マイも思ってることだもん。マイたちは、いつでも同じこと、考えてるんだよ?」
ある総合病院の屋上で、高校2年生の女の子2人は、天の川があたりを照らす空の下、黙って向き合っていた。
「早く良くなってよ。リン。絶対、負けちゃダメだよ?」
「分かってるよ。わかってるん、だから・・・」
「もう、泣かないの!ほら、星が、綺麗だよ!」
マイはリンに背を向け、フェンスに駆け寄った。それから星の数を数え始める。
「マイ・・・、ありがとう」
「・・・ん、リン、なんかいった?」
「・・・ううん、なんでもない」
リンもまた、フェンスにヨタヨタと近づいた。近くの街並みは、闇に覆われている。
「・・・マイね、もうひとつ、お願い事があるの」
「もう一つ?」
「うん」
「なに?」
リンはマイの顔をじっと見つめている。マイは息を大きく吸い込んで、叫んだ。
「東条蓮くんと、両想いになれますようにー!!」
その声は、澄んだ町の空気に、ゆっくりと溶け込んでいった。マイははあはあと息を吐いている。
「・・・マイ?」
「これが、もう一つのマイのお願い」
リンはマイの、得意げな顔を見て、自らもフェンスにしがみついて、声の限り叫んだ。靴下だけの足元が、フェンスに食い込む。
「私も、蓮くんと仲良くなって、付き合えますように!!」
そういって、リンもマイの顔を得意げに見返した。
「いつでも2人は、同じことを考えている、ものだもんね?」
マイは笑って、リンに言った。
「マイ、いつまでも、待ってるよ。リンのこと。それまでは、この思いは、心の中に、とどめておく」
「え、でも、それじゃあ・・・」
「いいの。それでいいのよ」
「マイ?」
「じゃあ、帰ろっか?寒くなってきたし。体冷えたらダメでしょ?」
「・・・うん、そうする。・・・今日は、ありがとね、マイ」
「こっちこそ。ありがとう」
マイはリンに肩を貸しながら、屋上を後にした。天の川を織りなす星々はそれでもずっと、輝き続けていた。
おわり




