メリー、クリスマス
「楽しみだね。」
「でも、ホントにこんなとこでいいの?もっと、ほら・・・。」
「いいの、私、一度こんな時に来てみたかったから。」
「誰もいないね。」
「当たり前よ、だって、冬だもん。海になんて、だれも来ないよ。」
「入って、みる?砂浜。」
「うん、いこう。」
高校生の都は、ボーイフレンドの潤とともに海に来ていた。都の提案だった。季節は冬、そして明日は、クリスマス。
この日、海は静かだった。そして彼女たちの住む街ではこの日、花火が打ち上げられる予定になっていた。天気もよく、きっと素敵な花火が見られるだろう。
2人は砂浜に足を踏み入れた。かわいたさらさらとした感触が、靴の裏を伝う。
「あ、見てよ、あそこ。」
「わあ、きれいだね。もう夕焼けだ。」
海の向こう、水平線上に、夕焼けが大きく浮かんでいた。もう間も無く、辺りは暗闇に包まれ、花火も空に舞い上がり始めるだろう。
少しの間砂浜を歩いていると、都がおもむろに靴を脱ぎ始めた。
「砂が靴の中に入っちゃうね。私のローファー、ぶかぶかなんだ。」
「でも、タイツだろ?」
「いいの。また新しいの、履けばいいし。」
都はそう言うと、ローファーを手に持ち、黒いタイツのまま、砂浜を歩き始めた。
「わあ、なんか、変な感じ。裸足だけど、そうじゃないみたい。」
「寒くない?大丈夫?」
「うん、ありがと。」
そうしている間にも、太陽はだんだん沈んで行く。そしてとうとう、辺りに暗闇が訪れた。
「早く上がらないかなあ、花火。」
「あ、あそこ。あっちだ。」
「え?どこどこ?」
「ほら。」
「わあ、すごおい。大きいね。」
海と反対側の空に、幾つもの炎の花が咲いていた。それと同時に、どん、どん、ヒュー、というあの音がかすかに砂浜に響きわたる。
「あそこ、すわろ。」
「うん。」
2人は砂浜にあったベンチに腰掛け、寄り添いあってそのショーを見ていた。いつまでもこうしていたいと、都は願った。
「寒く、ない?」
「うん、暖かい。」
都は下ろしていた足を、椅子の上に上げた。
「でもちょっと、足が寒いな。」
「えっ、でも・・・。」
「いいよ、そんなに慌てなくても。ほら。」
そう言うと都は、潤の手を自らの足に載せた。
「暖かい。」
「そう?」
「うん。」
「じゃ、よかった。」
そしてそのうちに、打ち上げ花火は終わった。
「メリー、クリスマス。」
「メリー、クリスマス。」
2人はぎゅっと、だきしめあった。
おわり




