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車男短編集  作者: 車男
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rainbow

 ああ、ゆううつだなあ。ゆううつってどんな漢字書くんだっけ。まあいいか。今日は明け方からずっと雨。それも結構強い。6月で、梅雨時期なんだから仕方ないんだけど、やっぱりこうも毎日続くと嫌になってくる。そこいらで鳴いているカエルや、田んぼではびこる稲たちにとっては、重要なものなんだと思うけど・・・。

 私は、大野マドカ、13歳。中学1年生。2か月前に中学生デビューしたんだけど、小学校のころから学年の子は一緒で、あんまりかわりばえしない。小学3年の時からずっと一緒の女の子もいるし・・・。でもその子とは昨日ケンカしてしまった。原因は他愛もないこと。おかげで全然しゃべってない。それに、今日は宿題もうちに忘れてきてしまった。取りに帰るのも面倒だし、今はあきらめた。気づいたのが家を出て20分経った時だったし・・・。私は登校に40分はかかるの。

 きゃっ!ああ、しまった。ボーっと歩いてたから、水たまりに気づかなかった・・・。ああ、もう、靴も靴下もびしょびしょ・・・。なんでこんなに深いのよ・・・。もう、なんて最近はこんなについてないんだろう。

 学校に向かう坂道。やっぱりここも、水没。坂の上の方から際限なく水が流れてくる。もう仕方ないなあ。靴と靴下は諦めよう。といっても、もうぐしょぐしょだけど。足を道につける度に靴の中に水が入ってくる。どうしても、足が濡れちゃう。何とか校門の前にたどり着いた時には、くるぶしあたりまで足はビショビショだった。あたりには私とおんなじ状態になった子が、ちらほら。ああ、長靴でも履いてきたら良かったなあ。

 なんとか靴箱についたんだけど、やっぱりこんなに濡れた靴下じゃあ、上履きなんて履けない。それに靴下脱いでも、足はびしょびしょ。ああ、タオルまで忘れた。もう最悪。どうしよう。乾くまで待つか。上履きは履きたくない。水没した靴と靴下は昇降口の端っこに中敷を出して干して、私は上履きを手に持って、裸足で校内へ。なんか不思議な感じ。ひんやりして、ザラザラ、ツルツル。ちょっと汚いけど、上履き履くよりマシだよね。

 教室に入ると、やっぱりまだ誰も来てない。けっこう早く家を出たから。自分の席について、濡れた道具の整理をしていると、誰かが教室に入って来た。何の気なく入り口の方を見てみる。ケンカした、友達がいた。私と一緒、上履きを手に持って、裸足でここまで来たみたい。私は話しかけようとして、やめた。今ケンカ中。悪いのは向こうだ。改めて、濡れた教科書を机の上に出していく。ほとんど濡れてる・・・。

 突然、窓の外から日差しが差し込んだ。私の席は窓際だ。あまりのまぶしさに目が眩む。雨はあがったのだ。たった今。もうちょっと遅く家を出てたら・・・。失敗した。でも、

「わあ、すごい」

窓の外、はるか遠くの住宅街に、とても鮮やかに、おおきく7色の虹がかかっていた。高台の校舎の3階。それはよく見えた。私は思わず友達の名を呼んでいた。

「シオリ!!ね、ね、来て!すごい!」

「うん、見てるよ。きれい・・・」

私は窓の外を見ていてわからなかったけど、シオリは私のすぐ横にいた。ちょっと驚いて、私はシオリの顔を見上げた。いつもの、穏やかな顔のシオリがいた。

「・・・マドカ、ごめんね。私が悪かった」

そう言って、シオリは頭を下げた。

「ううん、私も・・・。ごめん」

「うん。じゃ、仲直り。ね」

「うん」

それからまた、私たちは外に目を向けた。それはもう、薄くなり始めていた。もうすぐに消えてしまう。

「終わっちゃったね」

「私たちだけだよ。見てたの」

「そうね。良かった。早く来て。マドカに会えて」

「お互い裸足だけどね」

「えへへ。でも気持ちいい」

「うん」

再び外を見た時には、虹は消え、青空が広がっていた。数分後、クラスメイトがぞくぞくとやってきた。けっきょく、靴と靴下は学校が終わっても乾かなかった。


つづく

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