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車男短編集  作者: 車男
11/54

 「ふい~、ちょっと休もうかな・・・」

わたしはある田舎の駅に勤めている者です。今日は休み明けの月曜日。朝のラッシュもすぎ、一息つこうとしているところです。ラッシュといっても、いつもは2両編成の列車が3両編成になり、人が少し増えるだけ。特に学生が多いです。そのラッシュは30分もすると過ぎ去ります。

 さて、一服しょうと駅員室からホームに出ると、誰もいなくなったそこに高校生と思われる女の子がせわしなく動いています。ラッシュ時でも15分に1本しか来ない列車、その時間を過ぎると、30分に1本しか来ません。今は朝の8時30分頃。次は9時少し過ぎた頃に来ます。おまけにその子は片方の靴を履いていません。ベンチの下を探す時、膝を地面に付け、その足の裏が見えました。白いハイソックスをきっちり履いていましたが、足の裏はすすや埃で足形に真っ黒に汚れていました。顔は可愛い方なので、そのギャップにドキドキしました。あ、ちなみにわたしはいま28歳です。元は中心部の駅にいましたが、片田舎に飛ばされてしまったのです。もうここで過ごして3年目です。

 さて、何故靴を片方しか履いていないのか、駅員のわたしにはなんとなくわかります。未だにあちこち探している女の子に声をかけてみましょう。

「あの、なにかお困りでしょうか」

「え?ああ…あの…さっきの電車で来たんですけど、降りる時に片方靴が脱げちゃって…いま探してたんです」

その顔に似合った、可愛らしい声で答えました。

「あらら…それは大変でしたね。誰かに踏まれたんですか?」

「いえ、えと…靴、今日は少し大きめの新しいの履いて来ちゃって…電車を降りる時に脱げちゃって、人が多くて、流されて、なんとか戻ったら、どこにもなかったと…」

「なるほど…わかりました、一緒に探しましょう」

「ありがとうございます」

「でももう大体探しましたよね。では、あなたは階段の方を探して下さい。わたしはなんとなく、当てはあります。

「はい…お願いします」

そういうと、女の子は階段の方へ歩いて行きました。靴を履いていない方の足も、靴を履いているのと同じように地にぺったりつけて歩いています。見た目によらず、汚いとかは思わないのですかね…。

 当てがあると言ったのは、ホームの下、線路のところです。よく、列車とホームの間から落ちる事象が起こります。ホームの下を見てみると、はたして、ありました。今時らしい、革靴です。列車が来ないことを確認して、線路に降り、拾ってすぐまたあがります。田舎だからこそできることです。

「おーい、ありましたよ!」

わたしが呼びかけますと、彼女はすぐに振り返って、駆けてきました。靴下、結構ひどく汚れが…

「わあ、ありがとうございます!助かりました。どこに?」

「線路に。多分隙間から落ちたのでしょう」

「なるほど…。ありがとうございました!」

「じゃあ、学校がんばってね」

「あ!!完全に遅刻だ!!失礼します!」

「うん、さようなら。」

わたしがあいさつを言う頃には女の子は改札を抜けるとこでした。靴はいつの間にか履いていました。汚れが靴に…、まあ、いいでしょう。では、一服しましょうか。おっと、もう次の列車が来るようです。ホームにも人が2、3人。アナウンスをしないと。


以上、駅員の古川健三郎でした。また、いつか。


おわり



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