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ホワイト〜少女と龍の約束〜  作者: やまき たか
一章『少女と少年』
8/10

少女と少年7

 シセを残した武具店を後にして、アイナとソラの二人は街路へ再び繰り出した。

 日も真上に昇りきった時間帯のせいか、街は賑やかさを目立たせる。


 より一層に様々な音で溢れかえっている中、アイナの真横でも先程から、防具と武器を新調させたソラが少しだけ気を高陽させた様子でどこかそわそわしていた。鞘に納まっている剣をカチャカチャと鳴らし、袖を伸ばし、胸当てに触れ、足下を確認して、最後にはニヘっと顔を綻ばせる。彼はそんな一連の流れを、もう既に四度ほど繰り返していた。


「さっきまで食費がどうのこうの言ってた割りには、随分と嬉しそうじゃない」


「いやぁ、そのつもりだったんだけどな。いざこうして身に付けてみると興奮せざるを得ないというか」


「あっそう。別にどうでもいいけど」


 ソラの装備に改めて目を向けてみるが、初心狩人にしてはこの武具揃えは十分すぎるだろう。昨日の彼の見てくれがあまりにも酷過ぎただけであって、この格好が素人の狩人として普通な訳ではない。たった一日で随分と贅沢な装備になってしまったようだ。


 予算内で出来るだけ防御力を重視した防具。その中でも、魔法付与のコートは高級品であり、一丁前に腰にぶら下げた剣だって、値段はそれほどでもないが使い方によっては十分戦える代物だ。他の同業者達が、こんな装備を着けているのがただ素人だと知れば、生意気に思うに違いない。


 しかし、それもこれも希少種を討伐し、その鱗をソラに譲ってやったアイナのおかげではある。


 ――もう少し感謝して貰いたいところね。


 そう思ってみたが、今ソラの装備を中途半端に誉めるような言葉を口にするのも、余計に彼を調子にのらせてしまう気がしたので控えておくことにした。


「それで」


 と開口したソラが問い掛けた。


「今日はこの後どうするんだ?」


「別にどうもしないわよ。このままホームに帰るだけ……って、何よその顔」


 質問に答えつつふと視線をやると、ソラは露骨にがっかりとした表情を浮かべていた。


「……なんだよ、ギルドいかないのか」


「さっきも言ったでしょ、今日はアンタの装備揃えるだけで終わりなのよ」


「お前、見かけ実力に似合わず案外怠惰なやつなんだな」


 はっ、と鼻で笑うソラに対して、アイナはぐっと怒りを押さえながら切れ長の瞳を彼に当てる。


「あのねぇ、私だって何も怠けたくて言っているわけじゃないのよ。ただ、今日はリズさんからも仕事頼まれていないし、もう三時間もすれば日も暮れ始めるから時間的にもギリギリなの」


 それに、狩りの経験がほぼ無いに等しいソラを暗い中で戦わせるのも出来るだけ避けたい。


「とにかく! 夜間の討伐にアンタみたいな素人連れていくなんて危険過ぎるわ」


 アイナはソラの胸元に人差し指を突き付けながら念を押すが、そんな彼女の注意も虚しく、「いけるだろ」とソラはけろっとした反応を返してくる。ここまで実力の伴っていない自信表明は初めてだわ、とアイナは彼の反応にうなだれてみせた。


「昨日の今日でよくそんな軽々しい返事出来るわね。アンタ死にかけていたの忘れたの?」


「でも結局生きてるし、あの希少種とかいうのも倒せただろ?」


「だって、それは私がいたからで……」

 

「だから、今回もアイナが一緒なんだったら大丈夫だって。お前強いから時間だって多分そんなにかからねーよ」


 呆れ混じりに答えようとしたがソラの言葉によって遮られてしまい、アイナは彼の方に目を向けた。視線を受けたソラが「どうかしたか?」と聞いてきたが「…別に、なんでも」と若干歯切れの悪い返事をしてしまう。


 昨日の討伐を見せたせいなのか随分とこちらの実力を高く見てくれているようで、先程からの彼の自信ありげな言動の理由がこちらにあることが分かると、頼られている分悪い気がしなかった。

 不意討ち気味に褒められて僅かに浮かれてしまっていたが、我にかえってひとつ咳払いを挟む。


「……ま、まぁ、そこまでいうなら仕方ないわね。さっさと行って終わらせましょ」


 そう言ってアイナは少しだけ歩く速度をはやめると、後を追ってソラは隣に並んだ。


   *


 ギルドの中はいつも通りだ。

 様々な衣装や装備を身に付ける同業者達で溢れており、それ相応のざわつきが辺りに散らばっている。それに加えて隣の彼の方も街にいた時の興奮した雰囲気を未だに持ち合わせたままのようで、少々浮き足立っているみたいだ。


「ほんと、アンタは落ち着きがないわね。そんなんじゃ田舎者なのがバレるわよ」


「流石にまだ人の多いところは慣れなくてね……。それにしてもやっぱり都はすげーな、人が邪魔でなんねーよ」


 というわりには彼の表情はさっきからにやけっぱなしである。


「そ、私はもう慣れたわ」


 生まれた頃からこんな光景をざらで見ている自分にとっては、逆に彼の異様なまでの反応は不思議なくらいだ。「ほら、さっさと依頼を決めちゃいましょ」と促すアイナの後ろを「おう」と応えながらソラが続く。


 そしてそのまま受付と掲示板のある方へ二人は進んでいくが、どうしてか周囲から視線を感じたアイナは横目で確認をとった。


 ――なにかしら、この空気。


 そう思いながら首を傾げていると、ちらほらと声も聞こえてきた。


「……おい、あれアイナ・エルヴィアだろ」「……まじかよ、例の希少種討伐者じゃねぇか」「……ああ、実力者だけあって高級な装備ばかりだぜ」「……女であんなスゲーのなかなかいないぞ」


 自分を称賛するいくつもの声に対してアイナは得意気な顔で、ふんっ、と上機嫌に鼻を鳴らした。

 すると、


「……じゃああの横にいる男は何者だ?」「……あいつもなかなか良い防具付けてるな」


 というソラに対する言葉もぽつぽつと耳に入り、彼はなんだか自慢気に胸を張って調子に乗り始めていた。予想通りな彼の反応にアイナは苦笑う。

 しかし、


「……おまえ、あれ誰か知ってるか?」「……いや知らないな」「……なんだ無名のガキかよ」「……確かに、よく見ると全く雰囲気が無いな」「……ああ、ありゃ完全に脇役顔だぜ」


 と外野たちはソラが無名な狩人なのだと気付くと、すぐさま手のひらを返してしまった。そんなにぎやかしの言葉を受けてか、彼はわかやすく落ち込んでいるようだった。


「何を露骨にガッカリしてるのよ。アンタが知られていないのなんて当たり前じゃない」


「そんなこと言ったって……。というか、昨日の討伐でアイナの名前があがるなら俺だって少しくらい誉められたっていいと思うんだが」


「なら私が仕方なく誉めてあげるわよ。アンタはよくやったわ、囮としてね」


「おい、まがりなりにも共闘だったんだぞ。パーティ討伐したんだぞ」


 なんかずるい、とソラは拗ねて文句を垂らしながら頭の後ろで腕を組んだ。

 しかし希少種の狩りがここまで影響があるとは思っていなかったが、自分がこうも注目されてしまうと、昨日の討伐がどれだけ困難だったのかが分かった。


 シセに言われた通り、今後ソラを庇いながら狩りを行うとなると多少は自分への負担も増えるのかもしれない。だが、結果としてこの男も魔法が使える分、ただの木偶の坊ではないわけだから役に立てないこともないだろう。


「ま、これからも私のサポートに上手く貢献できたら、それなりに認めて貰えるかもしれないわね」


「ほう。立場をわきまえろ、と」


「……ちょっと、その解釈じゃ私がすごい威張ってるみたいじゃない」


「悪いけど、強ち間違えじゃないぞ」


 ぼそっと呟かれたソラの言葉にアイナは頬を膨らませて彼を睨むが、彼は知らぬふりで目を反らした。

 そんなことをしてるうちに掲示板にたどり着くと、めぼしい依頼がないかと順に張り紙を眺めていく。


 「翼竜討伐。報酬、銀六十枚」


 「翼竜の巣の探索。報酬、銀十枚」


 「翼竜討伐。報酬、金一枚 ※希少種の疑い有」


 「飛竜ヴルム希少種討伐。報酬、金百枚」


 どうにもめぼしいものが見当たらず、目につくのは翼竜に関する案件だらけだ。


「手頃なのないかしら……」

 

 そう漏らす隣でソラも一応は探してみたようであったが、


「へー、この飛竜希少種ってのはずいぶんえげつない報酬くれるんだな……。これにするか?」


 とまあ、このように、前日と同じように報酬額のみで決めようとしているあたり学習能力もないみたいだった。


「アンタ、本当に何も知らないのね……」


 飛竜の手強さといえば昨日の翼竜に匹敵するほどなのだが、そのところソラは全くの無知であるようだ。


 ――まあ、その辺も含めて後々説明でもしようかしらね。


 成り行きだがこの男とパーティを組んでしまった以上、狩りの実力も知識も身に付けてもらわなければ困る。

 そう考えてはみたものの、隣の彼は「またなんか間違えたか?」と難しい顔をして首を傾げている。それを見てアイナも、困ったと言わんばかりに分かりやすく息を吐いた。


 ――まあ、それでも昨日の翼竜討伐では助けてもらったと言えないこともないこともないこともない場面もあった訳だし……。


「……これにしましょう」


 今一度ソラにたいしての借りがあることを確認してから、なるべくポジティブにいこうと改めたアイナは、一枚依頼の張り紙を剥いでみせる。


「ほら、とっとと行くわよ」


 そう促して踵を返したアイナの後へソラは続いていった。

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