裏切り
「これは一体……?」と奏は、腕に律太を抱えながら辺りを見渡した。それに気づいた律太も泣くのを止めて、深呼吸して前を見た。そこには2人の知る緑豊かな住宅街の姿は、なかった。
「なんで……こんなことに!」律太は、声を震わせながら奏の腕を振りほどき、地に足を付けた。
ゆっくりと歩き出し……改めて現状を確認した。
建物は崩れ、電柱は折れて住宅の1つに突き刺さっている。 律太の顔がどんどん青ざめていくのに気づいた奏は、律太のいる所まで歩みよった。
「律太。大丈夫か?」と声をかけた奏も、混乱で普通にしては居られなかった。
「奏。僕は前を向くよ。だから僕に協力して欲しいんだ!」と強く願い出た律太の顔を見ていた奏は、一瞬違和感を覚えた。
「律太……?」
「奏?どうしたの?」
「今、お前の目の色が……。」と奏は、好奇心で律太に聞いた。
「あー 初めてなんだっけ……?」ととぼけるように律太は、下を向き話を続けた。
「奏も知っていると思うけど…僕は、母さんと同じ華守家の血を引いています。」とここまで言っても分からない?と言ったような顔で、奏を見た。少しムッとした顔で奏は、こう言った。
「ごめんな。アホで。」
「僕こそ説明が足りなかったね。」と律太は、説明を再開した。
「だからね。僕には、特殊能力があります。つまり、さっき目の色が変わったように見えたのは、奏の見間違えなんかじゃなくて、僕が能力を使った証拠なの。」分かった?と言いたげな顔で奏を再び見た。
「これは、人それぞれだと思うけど僕の場合は、能力を使う時に目が赤くなるんだよ。」
「そう…なのか。で、その能力って具体的にどんなものなんだ?」この奏の問いに対して律太は、深いため息をついた。
「あのねぇ!危機感って言葉は、奏には存在しないの!?」と目を大きく開くと、また目が赤く輝いた。
「今、何したんだ……?」と奏は、驚いたが自分には、なんの変化も見られない。
「ばーか。まだ何もしてないよ。今から実際試してあげるから黙っててね。」と律太は、手を奏の顔の前に広げた。淡い光が奏を、包み込み暖かい気持ちになり、とても安心出来た気がした。
「どう?これが僕の力。魔王って言うんだけど、名前みたいに強い力じゃないよ。」
「すごいな!なんか安心したよ。これをさっきは、自分にかけていたんだな。」とようやく奏は、理解したようだった。
「でも、なんで魔王って言うんだ?」と曇りのない瞳で奏は、弟に尋ねた。
「えっ……。なんか僕の記憶がそう言ってたから…?僕の記憶?」と少し考えて律太は、話を続けた。でー
「精神を操れる能力なんだけど、いざとなれば相手を壊すことくらいはできるだろうね。」と律太は、笑ってみせた。
「揺れも収まったし、家に入ろうか。母さんの葬式を開いてあげなきゃいけない。」
「あぁ……そうだな。だけどこんな世界になっちまったんじゃ葬式を開くのは、難しいかもな。」
「大丈夫。おじい様に頼んでみるよ。」
「本当に大丈夫か?4歳の頃から、1度も会っていないんだろ?」
「でも……大丈夫だから。」と2人は、玄関の扉を開き少し歩いた。
「でもさぁ。家だけ壊れなかったのもおかしいよね?」奏は、首を傾げた。それに律太が答えた。
「確かに……。ビルも倒れるくらいなのにね。」ここで律太は、もしかしたら誰かが故意に起こした事故なのでは?とも考えたが、こんな天災起こせるわけがないと口に出すのは、控えた。
ようやくあの苦しい現場にたどり着くと2人は、汗がとまらなかった。そこに無くてはならない母の遺体が無いのだ。
「どうして……?」「一体何が??」
ガチャっと近くで扉の開く音が聞こえた。間違いなく玄関の音だ。2人は、警戒したが何の解決にもならないと玄関の方へかけていった。そこには、休みを取っていたはずの本城が現れた。だがいくらなんでも、タイミングが良すぎる。すると本城は、不敵な笑みを浮かべ2人に話しかけた。
「よくぞご無事でお坊ちゃま方。お揃いですね?」
「あぁ。なぁ母さんを知らないか?」
「さっきからいたんだよね……?」と2人は、警戒しながらも本城に質問した。
「えぇ。奥様の遺体ならこちらで回収させて頂きましたよ。」とさらに笑って本城は、話を続けた。「ついでに旦那様もこちらで引き取らせて頂きました。」その言葉に2人は、驚いた。
「父さんが……?」「父さんは、会社にいたんじゃ?」
「そちらの方も襲わせて頂きました。」
「なっ……!」「どういうこと?母さんと父さんを返して!!」
「それは、なりません。こちらで生贄として使用させて頂きますので。」
「生贄!?なんの事だ!」
「そのままの意味ですよ。あの方の復活の為に……。」と本城は、煙のように消えてしまった。先程から、色々な事が起こりすぎて2人は、もう爆発寸前だ。
「どういうことなんだ……?」と律太は、頭を抱えさっき考えたことを奏に話した。
「僕は、これは天災なんかじゃなくて、故意に何者かが起こしてる事件だと思うんだ!!」
「そんなこと有り得るわけ……。」
「でもさっきの本城を見ただろ!?」
「あぁ。あれは、普通じゃなかった。それに生贄ってなんだよ。」奏の目に涙が溢れた。もう奏は、これ以上のことを受け止められないだろう。
だがグズグズしては、居られない。
「奏。一緒に華守家に来てくれないか……?」
「もちろんいいさ。だが何故た?」
「それは、本城について調べるためだ!最初の雇い主に聞けば多少の情報は、手に入るだろう?」
「そうだな。このままでは、何もすることが出来ないし。」と奏は、深く考えた。
「きっと長い道のりになる。家にある食べ物とか持って行けるものは全部持っていこう!」と律太が言う。どうやら、もうこの家には、戻ってこないつもりらしい……。数十分後。
「奏。準備は出来たね?」
「さぁ!行こう。僕達の旅へ……」
いかがでしたか?
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