6.中ボス現る!
竜騎士団に入団して、三年が過ぎた。私は自分専用のワイバーンを与えられ、名前をシーラと付けて、可愛がっている。小柄だけど、賢くて体力もあり最高のワイバーンだ。
ある日、町を巡回中に、通信石でSOSが響き渡った。
町の北にある山の方からザンガ草原へ向けてスタンピードが発生したというのだ。ザンガ草原は所謂カルデラ大地で、木々がほとんどない。スタンピードが発生すると遮るものがなく、速い速度で町まで到達される可能性がある。
私は指令を受けて、仲間と一緒にすぐに現場に直行した。
到着するとすでに、二十名を超える竜騎士たちが戦っていた。
数人の魔導士が大規模攻撃をしかけ、わきに逃れた魔物を一般竜騎士が叩く作戦だが、いかんせん数が多い。百匹?二百匹?なんかどんどん増えてきている気がする。
「ルチア到着しました。これより対スタンピード滅失作戦「ザンガ」行動に移ります」
私は通信石で、皆に声をかけた。山の麓からこちらに向けて、大魔法を展開させるので、詠唱完了をしたらすぐにワイバーンに乗って退却してもらわないといけない。
私たちはスタンピードの発生地域によっていくつかの討伐計画を立てている。
「ザンガ」はこの地で起こった時の作戦名で、スタンピード発生元から最前線に向かって大規模火炎を巡らすものだ。
ただし、水属性の魔導士たちに火炎を途中で止めてもらう必要がある。
私の意志で止められないこともないが、草木に普通に燃え移ったものは、すでに私の支配下から離れているので、消すのに時間がかかる。下手をすると大火事になりかねない。
まず水属性の魔導士たちが後ろに下がった。それに続いて騎士たちもじりじりと後退していく。
私は山の麓のスタンピードが始まる起点を見つめた。あらあそこに何かいるわね。どうもあいつが魔物を作り出しているように見える。なんだか見覚えのあるその姿に、とりあえず大魔法の詠唱を始める。
「理の始まりから続く紅蓮の精霊よ。我が意思に従い、我が望みを叶えよ。敵を焼き尽くす劫火を宿し、彼らを殲滅せよ。地獄の炎!」
私の詠唱が終わると同時に、仲間たちは一斉にワイバーンに戻って退却した。
起点から燃え始めた炎は、紅蓮の津波のように魔物たちを飲み込んでいく。我ながら壮観だわ。さすがにこの規模だと魔力がごっそり抜けた気もするけど。
あらかたの魔物を始末し、アンキロヌスのように甲羅で燃えにくいものをピンポイントで倒していく。水魔法での消火もバッチリだったようだ。
私は残った魔物たちを倒しながら、起点にいる「見覚えのあるモノ」の所に行った。
近くで見ると自分の予想が正しかったことがわかる。
二本の長い角、青い肌、蝙蝠のような羽に白く長い髪。こいつ乙女ゲームの中ボスじゃん!魔王軍の将軍デーモンロードのバルゼブブ!
「……貴様、よくもやってくれたな」
地獄の炎に巻き込まれたようで、ところどころ焦げている。
ヤバい。こいつ強いのよ。まあ、私の大魔法があれば余裕で倒せるけど、周辺に結構な被害がでるかも!
「上級魔族発見。直ちに退却してください!」
私は急いで通信石で皆に伝えた。皆に安全地帯迄全力で避難してもらわないとね。ゲームではこいつのHPもMPも攻撃力も半端なかったからね!
私は剣を取り出し、紅蓮の炎を纏わせた。
私の頭の中で、こいつのゲージが瞬く。確か三十万くらいのHPだ。私の剣の打撃は一振り一万ダメージなので、物理攻撃で三分の一を削ろう。
その後、あの大魔法を使えば、ちょうど二十万ダメージで倒せるはず!
ブン!
私は無言でバルゼブブに切りかかった。クリティカルヒットしなくても一万ダメージいくのよ。クリティカルなら一万五千!
ステータス表示のないこの世界でなぜそんなことがわかるのかというと、日常の魔物討伐での経験からの類推だ。
一万HPとかのわかりやすい魔物がいて、それを目安に頭の中で計算しているのだが、大体、ゲームの通りの結果になる。
もちろんバルゼブブの攻撃もすごい。だけど、私は仕様で命の危機に瀕すると聖女覚醒するので、覚醒時には、その反動でやはり二十万ダメージを敵に与えることになる。
えっ?そんなのゲームの話で、現実にその通りになるかわからないって?
その時はどっちみちこの世界が終わるだけだから気にしてもしゃーないじゃん!
まあ、私はこの三年で更にチートに磨きがかかったので、負けるはずがないんだけどね!
なんとリフレクト覚えたからね!これゲームではなかった技なのだが、竜騎士団の魔法講義で取得した技の一つ。
神の加護の一つで、エア神への祈りと契約によって、自分や他の人に掛けることができる。
予めリフレクトが掛かっている私への攻撃は、半分ほどに軽減した状態で奴に跳ね返る。私自身へのダメージは本来の百分の一になる。はっはっは。嬲り殺したる!
ゲームのバルゼブブターンでは、戦闘に入る前にバルゼブブに仲間の一人が殺されちゃうから、今倒しておけば、そんな悲劇も回避できるしね!
そうこうするうちに私の攻撃は間断なく続く。バルゼブブは満身創痍、そろそろ三分の一以上減らせた頃だと思う。
私は攻撃の手を緩めることなく、音を出さずに呪文を詠唱する。
「理の始まりから続く紅蓮の精霊よ。我が意思に従い、我が望みを叶えよ。目前の敵を粉塵に返せ。目前の敵を滅し地に返せ。目前の敵を原初に戻せ!最後の審判!」
「シーラ!」
呪文を唱え切った瞬間、シーラに飛び乗って上空に逃げる。近くにいたら私たち迄巻き込まれちゃう!
バルゼブブは何が起こったのかわからないというような顔をして、自分の身体を見つめた。
ひび割れるように赤い光がその内側から起こり、奴の身体が光に包まれていく。
光がすべてを包んだ瞬間大きな爆風が起こった。かなり離れていても吹き飛ばされそうだ。熱いしヤバい!
数分して光が収まって、熱もすぐに冷めていった。粉塵が舞って遮られていた視界がクリアになってきた。
「あっ……」
ヤバい。やってしまった!私は目を疑った。
信じられないほど大きく山がえぐれ、そこからお湯が沸きだし湯気が立っている。
いや、温泉が湧いたのなら、よかったのかしら……?
幸い、竜騎士団には大きな被害はなく、私は怒られるどころか、英雄扱いされた。
でも嬉しくない綽名がついてしまった。「デーモンスレイヤー、地獄の魔女」と……。