12.運命の人
「ケイト!」
その赤髪の美しい人はケイトと同じ翡翠色の瞳を細めて、愛しい者を見つけた喜びを露わにしていた。
「聖女様、お初お目にかかります。アンドレア・リベロ。ケイト・リベロの兄でございます。この度は、私の妹が大変お世話になりありがとうございました」
紳士らしく礼を執るアンドレア様は、絵姿以上に美しいその面差しを傾け、私の手に近づけた。そして、そっと手を取り優しく指に口づけをくださった。
「……初めまして、こちらこそ妹様には大変お世話になりました。彼女がいなければ誰一人無事に戻ってくることは適いませんでした……」
「それは誇らしいことです。お転婆で幼い時から困らせられてきましたが、それもこの大義をやり遂げるために必要なことだったのでしょうね」
アンドレア様がそう言って笑うと、ケイトが「もう!」と膨れた。
「……そうですね。きっと私が彼女と出会ったことも運命だったのだと思います……」
これは本心からそう言った。でも今私の頭は上手く働かない。これ以上言葉を紡ぐのは無理だ。
「……ケイト、私少し疲れてしまって、少し下がって良いかしら」
「あら、じゃあ私も一緒に行きますわ」
「大丈夫よ。貴女はどうぞお兄様とゆっくりお話しして頂戴」
私は、少し休むと侍従に告げて、控室に戻った。今叫びだしたくてしょうがない。
なんで、声が違うの~!!!!
アンドレア・リベロ様は確かに素晴らしい男性だ。でもね。なぜ、福純の声じゃないの~!!???
まさかやっぱり魔王が隠しキャラだったのかしら?乙女ゲーム的にありがちよね。実は敵が隠しキャラだったって奴。
それとも攻略対象者を未攻略だったからいけないの?
どこで間違えたの?どうして福純がいないの??そんな~!!!
結局、私はその後の舞踏会で、魂が抜けたようになった。周囲は「お疲れのようですね」と気遣ってくれたが、本当は部屋で突っ伏して泣きたかった位なので褒めてほしいくらいだ。
祝祭の喧騒が終わって、私は与えられたタウンハウスから学園に通うようになった。
結局、周辺国訪問も合わせて一月くらいしか休んでないので、補修もレポートだけで済んだ。
ギイちゃんとの二人暮らしに大邸宅は広すぎて落ち着かないけど、寮に戻ることは
他の生徒への安全配慮上問題があるので断念した。
年が明け、静かに時が過ぎていく。ある夜タウンハウスの自室で夜空を見ていると、懐かしい羽音が近づいて来た。
「よお。元気か?」
「キュー太!?生きてたのね!」
「俺が死ぬわけないだろう」
「だって、あの時……」
あの時、闇に沈んでいく中聞こえた、「ありがとう」はキュー太の声だった。私は魔王こそがキュー太の正体だったのではないかと疑っていたのだ。
「……まあいいわ。ダンジョンではありがとう!会いに来てくれたでしょ?」
「約束だったからな」
「あの時用意してた木の実のケーキ、まだあるけど食べる?」
「食うぞ!早く出せ!」
いつも通りのぶっきらぼうな口調で私をつつくキュー太。もう会えないと思っていたので本当に嬉しい。これからもよろしくね!
翌年、私たちは学園を卒業し、ケイトも無事シラクサ竜騎士団の一員となった。さすがに私たち二人は小隊に配属されるということはなく、特別チームとして要請を受けて世界を股に掛けることになるのはまた別の話。
「ケイト、誕生日おめでとう!」
私は小さな包みを渡した。
「なんですの?まあ、サファイアのペンダント!素敵ですわ!ありがとう、ルチア!」
「だって、ほら私はもうケイトから貰ってるからね。お揃いね!」
そう言って翡翠のペンダントを見せると、ケイトは幼い時を思い出したようで、恥ずかしそうに笑った。
「さあ!今日も頑張って世界を救うぞ!」
「おー!!!」
二頭のワイバーンが、主たちを乗せて空に飛び立った。
本日いよいよラストです!
エピローグ、19時投稿のためご注意ください。




