6.お披露目の儀
今日はいよいよお披露目の儀!
私は昨日からフルエステを受け、髪を整えられ、朝からバッチリメイクを施され、この日のために誂えられた白のドレスを着せられ、頭の先から爪先迄、宝飾品で飾り立てられた。
……すでに疲れた。もう帰りたい……。
「あら、見違えましたわね!」
騎士服に身を包んだケイトが入って来た。私より長身で、かなりグラマーなケイトだけど、今日はその美しい髪を後ろで一つにまとめ、とても凛々しい。
宝〇って見たことなかったけど、きっとこんな感じなんだろうな。
これは嵌る人の気持ちわかるわ!超恰好いいもん!
「ケイトこそ、カッコよすぎ!絶対女の子から恋文が来るわよ。間違いない!」
そう言うと、ケイトは苦笑いした。
「あーでも緊張するわね」
今日はまず、国王陛下が王宮前の広場に向けて、聖女の降臨と勇者の誕生を告げる。
私たちは国王陛下に呼ばれたら、バルコニーに出て、集まって来た人たちに向けて、手を振る。さらに、その場にいる全員に「聖女の加護」を授ける予定。
その後、宮中に戻って、大ホールで貴族や他国の大使向けに私たちのお披露目がある。
私たちはそこでも、一段高い所から紹介され、聖女の加護を行い、その後は有力貴族たちが、次々と私たちに謁見を求めてくる予定になっている。
考えただけで気が重い。
抱負を述べたり、言葉をかける必要はないそうなのだけど。
ニコニコと手を振るだけでも緊張するわ。
今日は他国からも来賓が来るそうだし……。
乙女ゲームの中では、ニコニコと手を振るワンシーンだけで終わってたけど、現実は長い!それだけで終わるわけがない!
ぐちぐちと言っていると、ついに宰相が呼びに来た。王宮前広場のバルコニーに移動する。
見ると、広場はこれ以上はないほど人で埋め尽くされていた。うわー将棋倒しとかならないでね!
「皆の者!数百年ぶりとなる聖女が我が国に降臨された!聖女はこれから魔界に赴き、我らの脅威、魔界の王を打ち滅ぼしてくださる!また、喜ばしいことにこの国から勇者も選出された。この喜ばしき出来事に、皆祝福のラッパを鳴らせ、歓喜を持ってお二人を出迎えよ」
国王の言葉に、侍従が私たちの名前を読み上げる。
「聖女、ルチア・メイズ様、勇者、ケイト・リベロ様!」
私はケイトに手を取られ、静々と前に出た。爆発音のような大歓声で包まれる。
更に一歩進み、両手を天に翳し私は叫んだ。
「ここにいる皆様に、神のご加護を!」
たちまち広場にいる人たちが青い光に包まれる。目の前で起こる奇跡のような出来事に人々は興奮マックス!泣き出す人まで出て来たよ~!
私とケイトは顔を見合わせ頷くと、笑顔で手を振りながら後ろに下がった。あー疲れた!
「お二人とも素晴らしかったです。お疲れでしょうが、引き続き貴族たちの謁見がございますので、今しばらくご容赦くださいませ」
宰相が深々と頭を下げる。
ハイハイ。もうちょっと頑張りますか!
それでも控室でしばらく休憩が許された私たちの所に、ケイトのご両親のリベロ侯爵ご夫妻がやってきた。
娘がまさか勇者に選ばれると思っていなかったようで、複雑な心境のようだ。
「聖女様、貴女にはシラクサの湖でも娘が命を救っていただいたと聞き及んでおります。本来でしたらもっと早くお礼に伺うべきでしたのに大変申し訳ございません」
「いえ、私は役目を果たしただけですし、お礼でしたらお嬢様と、クリシュナ伯爵からすぐにいただきましたわ」
侯爵は苦笑いして答えた。
「あの日以来、娘が竜騎士を目指すと言い出し、実は貴女を恨めしく思っておりましたが、勇者に選ばれた今になると、全て神のお導きだったのだと納得できました。どうか娘を何卒よろしくお願い申し上げます」
「はい。お嬢様のことは、ケイトのことは私が必ず守ります。必ず二人で、笑顔で帰ってきますので、ご安心ください!」
そう言うと侯爵はやっと笑顔を見せてくれた。
宰相が再び呼びに来て、大ホールに移動した。貴族たちは広場の人々ほど興奮してはいない。どこか値踏みするような眼で私たちを見ている。
侯爵令嬢のケイトはともかく、私を利用しようと近づいてくる輩もいるだろうけど、日本社会でバリバリ営業していた私を簡単に転がせると思うなよ!……なんて思ってたけど、「聖女」という神に等しい存在に対して、さすがの貴族たちも恐れ多く感じる様で、必要以上の接触を図ろうとする人はいなかった。
まあ、国王の前でそれはできないよね。
他国の人たちも同様で、ただ、「聖女の加護」については一度国々を訪問し、自国にも加護を与えてほしいというお願いがあった。
アーダ神聖国にはこれから行く予定だけど、他国には寄る予定はないので、凱旋後に訪問することとなった。魔界から戻ってもすぐには学園に通えそうもなさそうね。
こうして、私たちの長い一日が終わった。
さあ、いよいよ旅立ちの時だ。
興奮のためか眠れなくて、離宮の窓辺で夜空を眺めていたら、いつものようにキュー太がやって来た。
「よお」
「こんばんは!綺麗な星空ね」
「ああ、しばらく晴れるから旅立つには絶好の時だな」
「……今日、私凄く綺麗にしてもらえたのよ。キュー太にも見せたかったわ」
「……見たさ。……その……綺麗だったな」
恥ずかしそうに横を向いてそう言った。わあ!テレてる~!可愛い!
「そうなの!?どこで見てたの?姿が見えなかったわ」
「影があれば俺はどこにでも行ける。この世に影がない所なんてないからな」
「じゃあ、影に入れば、キュー太を感じることができるのね」
「……まあそうだな」
「旅の途中で寂しくなったら、影に引きこもるからよろしくね!」
「なんだそれは。友人と一緒に行くのに寂しいわけがないだろう」
「私にとって、キュー太の声は特別なのよ!」
いくら聞いても、厭味ったらしい喋り方でもずっと聞いていたい声だ。
「……行ってきます」
「……まあ、気を付けて行ってこい。……約束通りたまには会いに行ってやる」
ツンデレ鳥の優しい言葉に私の心は温かく解けていった。




