5.まさかの勇者
二週間たって、アーダ神聖国から、勇者の託宣があったと報告があった。翌日にはアーダ神聖国から使者がやって来た。早くない?と思うと大神官だけが使える転移魔法陣を利用しているのだという。
一名限定の転移が可能な魔法陣が各大神殿を結んでいるという。
転移には莫大な魔力を使うので、複数での転移は無理で、しかも一日一回限定だそうだ。
ヘクトルの剣を携えたその大神官に、私は会うことになった。
「お初お目にかかります。聖女様。私はアーダ神聖国から参りましたクロノスと申します。この度はご覚醒誠におめでとうございます。どうかこの世をお救い下さい」
そう深々と頭を下げた男性は、マクシムスとよく似ていた。マクシムスの血縁者なのだろうか。
「どうか顔を上げてください。シラクサ竜騎士団第十五小隊 ルチア・メイズと申します。神様より授かったこの力で、『世界の澱』の浄化に努めて参りたいと思っております。こちらこそご助力いただけますようお願い申し上げます」
「お噂通り謙虚でいらっしゃいますね。シラクサの英雄としてもお名前を聞き及んでおりました。実は私はマクシムスの兄です。あれから貴女のお話しを耳にして以来、ずっと願っていましたが、やっとお会いできて浮かれております」
そう言ってクロノス様は柔らかく笑ってくれた。
「それで、どなたが勇者に選ばれたのですか?」
「ええ、先日メサイオ国王陛下に書状をお送りいたしましたので、もうすぐこちらにいらっしゃると思いますよ」
その言葉が終わるか終わらないかで扉がノックされた。
「勇者様がお着きになられました。謁見の間にお越しくださいませ」
侍従がそう伝えに来てくれた。
私たちは一緒に謁見の間に出向いた。アンドレア様だったらどうしよう!今度こそ運命の出会いか!?
謁見の間には、陛下や王太子、宰相など沢山の人がすでにいらっしゃった。そしてその前には私のよく見知った顔があった。
ケイト・リベロ、なぜ貴女がここにいるの?まさかケイトが勇者!?
驚愕した私をよそに、クロノス様が口を開いた。
「アーダ神聖国、大神官のクロノスと申します。ケイト・リベロ様ですね。神からの託宣により、貴女が勇者に選ばれました。どうか魔界への道中、聖女様を助け、世界をお救いください」
そう言って、クロノスはケイトの前に跪いて、ヘクトルの剣を差し出した。
英雄ヘクトルの剣は、選ばれた勇者のみが抜けるという。
ケイトは恐る恐るその手を伸ばした。白く美しい指先が剣に触れると、剣が柔らかな光を発した。
柄をしっかり握り、その鞘を一気に引き抜くと、強い光を発する美しい剣が現れた。
「おお!」
謁見の間にどよめきが広がった。
私の時と同じように、ケイトに対して陛下からのお言葉があり、勇者に選ばれた報奨の目録が読み上げられた。
ケイトは戸惑いの色が隠せないながらも、それらを真っ直ぐ受け入れた。
晩餐会の後、宰相の計らいで、ケイトは今夜だけ私と一緒に離宮で過ごすことになった。
「ケイト!びっくりしたわ。まさか貴女が勇者に選ばれるなんて!」
「私も、連絡をいただいた時は驚愕しましたわ。まさか私がと信じることができませんでした。でもあの剣を持った瞬間。神のお声が聞こえ、覚悟が決まりました」
「神のお声を聴いたの!?すごい!私、まだ聞いたことないわ!」
「ええ。とてもお優しい声で、『愛し子を守れ』とおっしゃいましたわ。愛し子って、ルチアのことよね。やっぱり貴女は神の遣わした聖女なのですね」
ケイトはそう言って微笑んだ。
「私嬉しいの。一番大切な友達を守ることができるなんてとても光栄ですもの!」
「……私も嬉しい。ケイトが一緒に行ってくれるなら、怖いことなんて何もないわ」
ケイト、私も必ず貴女を守るからね!一緒にこの世界を救いましょう!
私たちは手を握り合い、キャッキャッと喜び合った。
本来気の重い魔王討伐も、ケイトと一緒なら楽しい旅になりそうだ!
ケイトは翌日から騎士団の訓練に参加し、実戦に備えた。
ヘクトルの剣を握った時の動きは本当に素晴らしかったけど、ただの木刀で現役の騎士たちと打ち合っても全く引けを取らず、この数年間の彼女の努力がよく理解できた。
元々運動神経も良く、剣技の才能があるのだろうが、力で勝てない相手にも、一瞬の隙をついて、突きを繰り出すその神業は、皆に「さすが勇者……」と言わしめた。
さすが、ラスボス!スペック高いわ!
予想からはだいぶ外れてしまったけど、ケイトが勇者に選ばれて良かった!




