2.離宮にて
部屋はとても豪奢で、ドワーフの王国のあのお部屋以上に煌びやか。まさにザ・ベルサイユ宮殿!
私の荷物はちゃんとすべて丁寧に部屋に運び込まれていた。ギイちゃんももちろん無事よ!良かった!
ギイちゃんに事情を話すと、さすがもう全部知っていた。早い。もしかして、誰が勇者に選ばれるかも知ってるんじゃないの?と言うと、フフフとごまかされた。
侍女の皆さんが入浴を手伝ってくれると言ったけど、ありがたく辞退させていただいた。
他人に洗われるのは、庶民にはハードルが高いのよ!
お風呂にゆっくりつかれば、今日一日の疲れが溶け出して消えていくような気がした。長い一日だったなあ……。
お風呂から上がって、いつもの夜着に着替え、一息ついた。
明かりを消して窓を開けて、夜空を見る。いつもの黒い影が近づいてくるのが見えた。
「部屋が変わってもちゃんと来てくれてありがとう!」
「お前がどこにいるかなんて、いつでもわかるさ。それよりついに聖女に覚醒したんだな。おめでとうと言うべきか……」
「いよいよ魔王と対峙しなくちゃならないと思うと、喜んでばかりもいられないけどね」
「……怖いか?」
「怖くないと言ったら嘘になるけど、私は仲間たちと自分の力を信じてる。きっと上手く行くと思う」
「そうだな。……今のお前を傷つけることができる者などこの世にはいないさ」
キュー太は、そう言って笑ったように見えた。
「ねえ、いつ出発すべきだと思う?」
「いつでもいいさ、もう雪山は吹雪き始めた。これからしばらく一番厳しい時期が続く。しかし、お前はドワーフに何か頼んでいるだろう?」
キュー太もギイちゃんと同じで何でも知っている。隠し事が通用しない分、心をすべてさらけ出せる。
「そうなの。こないだ手紙が来て、完成したからいつでもいいとあったわ」
「じゃあ、勇者が決まったら、すぐ出発したらいいさ。正直、この世の澱は溜まりすぎた。もう溢れ出しているのがわかるか?お前の学園の男たちが狂ったのも、夢魔のせいだけではない。澱の影響が出始めているんだ」
それならば一刻の猶予もないだろう。
「じゃあ、勇者が決まって、お披露目の儀が終わったら出発しよっかな。一月後と言ってたわね。ちょうどいいか」
「そうだな。エルフやドワーフにはドライアドを通じてすでにお前の覚醒が伝わっている。魔族に目を付けられる前に、さっさと澱を晴らしてこい」
「キュー太は一緒に行ってくれないの?」
「なぜ俺が行かねばならんのだ」
「だって、会えなかったら寂しいじゃん」
拗ねたように私が言うと、「たまには様子を見に行ってやる」とデレてくれた。
木の実のケーキを用意して待っていよう。




