1.謁見
「で、結局、お断りしたって言うの!?勿体なくない??」
王太子を振ったというケイトに大声で返してしまった。
「だって、だって、私は王妃よりも竜騎士になりたいのですもの!」
駄々を捏ねるようにケイトが言った。まあ、男よりも夢を取ることは否定しないけど、王太子は相当、優良物件だよ!これ以上の男はもういないと言っても過言ではないよ!
私は自分のことはさておき、ケイトの未来が心配になった。このままじゃ嫁に行けないよ?まあ、本人がいいと言うならいいけどさ!
今、私たちは王宮に向かう馬車に乗っている。正直こんな立派な馬車に初めて乗ったので緊張するわ。
聖女に覚醒したので王様と神殿関係者と謁見することになったのだ。
王太子は馬で先に王宮に戻っているので、今馬車の中は私とケイトの二人だけ。ケイトには付き添いとして来てもらったのだ。
ベルサイユ宮殿のような豪華な王宮に、あちこち見て回りたい気持ちを抑えて、何とか竜騎士らしく姿勢を正して歩く。聖女らしくというのが今一つよくわからないので、もう一つの立場を取ることにした。一応竜騎士団の最高指揮官はメサイオ王だからね!
そう意気込んでいると、とてつもなく立派な応接室に通された。謁見の間とかじゃないの?部屋の中にはどうみても国王様なダンディなイケオジ始め、たくさんの人たちがすでにいる。しかも私たちが入ると同時に立ち上がったよ!何これ怖い。
「どうかこちらにお掛け下さい」
おいおい一番上座じゃん!聖女ってそんなに大層な扱いになるの?ゲームじゃ、アップのスチルしか出て来なかったからよくわからんわ。
「お初お目にかかります。聖女様。この国の国王ロジェロ五世でございます。我が治世の下、貴女様のご誕生に立ち会え、光栄至極に存じます」
「どうかお顔をお上げください!私はシラクサ竜騎士団の第十五小隊、ルチア・メイズです。聖女である前に、国王様の臣下であります」
「まさかシラクサの英雄が聖女様として覚醒されるとは夢にも思いませんでした。ザンガ草原でのご活躍を始め、数々の勇姿に対して元から報奨をお贈りする予定ではありましたが、まずはこちらをお納めください」
宰相が立ちあがり、長々とした目録を読み上げる。頭痛くなってきた。断りたいけどこれ、断っちゃダメな奴よね。
「また、我が愚息の命を救って下さったばかりか、加護を授けてくださったとのことで、重ね重ね感謝致します」
「王太子殿下は立派な方です。私は殿下が将来この国を率いて下さることを心から願っております」
「勿体ないお言葉です。あれも今回のことを反省し、今後精進すると申しております。どうかお見守りいただけましたら幸いに存じます」
あー、緊張する。長い。はよ終わってくれ。
この後、一人一人自己紹介された。中にはアーダ神聖国から派遣されているという高位神官もいた。アーダ神聖国が私の存在を把握していたということは内緒にしてくれているみたい。
「これから、勇者選びの儀を行います。指名が終わりましたら、聖女様のお導きの通りに我らも行動いたしますので、どうか何なりとおっしゃってください」
勇者選びの儀は、誰が聖女を守る勇者に相応しいのかを知るための神事だ。神殿が持つヘクトルの聖剣を携え、そしてヘクトルの鎧や兜を身に着けることができる者、それが勇者である。
私の予想ではお兄様にそろそろ出会えるのではないかと思うのよね!ワクワク。
「聖女様、離宮にお部屋をご用意いたしましたので、今日からそちらでお過ごしください。後日改めて、目録の地に邸宅を新築する予定です。それまでご不便がございましたら何なりとお申し付けください」
晩餐会を経て、今日はお開きとなって、宰相が私を離宮に案内してくれることになった。
「あの学園に一度戻りたいのですが、よろしいですか?それにまだ勉強もしたいです」
「お荷物はすでに寮からすべて離宮に移しておりますのでご安心ください。学園への通学についてはかしこまりました。そのように通達させていただきます。また一月後に聖女様のお披露目の儀を催させていただきたく存じます。ドレスをご用意いたしますので、この週末は恐れ入りますが、採寸にお付き合い願えますでしょうか。それ以外はご自由にしてくださって、もちろん結構でございます。本来お一人での外出はご遠慮いただきたいのですが、何しろ今代の聖女様は、シラクサの英雄でいらっしゃるので、護衛を付ける意味はございませんでしょう。こちらに通行証をご用意いたしました。これを常にお持ちください。また専用の馬車もご用意いたしましたので、ご自由にお使いください」
宰相に淀みなく答えられると私は頷くしかなかった。




