9.学園編の「ラスボス」
「ルチア、君に稽古を付けてもらいたいのだけど、付き合ってもらえるかな?」
珍しく、王太子が私に声をかけて来た。なんだか様子がおかしい。
実はそろそろゲームで言えば学園編のラスボス戦がある時期なのだ。攻略対象者達がライバルなので、彼らがラスボスになるのだろうか。今まで、私に絡んで来たことがない王太子もラスボス!?
私は警戒しながら、様子を伺った。
「王太子殿下お一人ですか?」
「いや、ジョニー達も参加したいそうだよ」
「何の稽古ですか?」
「もちろん、魔法操作さ」
王太子殿下のお願いを断ることもできず、私は訓練場に同行することとなった。
訓練場には予想通り、攻略対象者達が勢揃いだ。でもどうも様子がおかしい。皆目がうつろだ。
「死ね!」
突然魔法攻撃を繰り出され、私は咄嗟にリフレクトでダメージを軽減した。
ヤバい。こいつら何かに操られている!?
五人の攻略対象者達は、光魔法の使い手の王太子を一番後ろに、火、水、風、土の四つの攻撃を同時に繰り出してくる。
避けるだけで精一杯で、徐々に私は追い詰められた。
ゲームではラスボス化した悪役令嬢との戦闘で、私は聖女覚醒し、二十万ダメージを相手に与え、彼女を倒した。
現実でそれやるの?私は人を殺したくないわ!
私は、頭をフル回転させて、彼らを「殺さない手」を考えた。うん、これしかないよね!
私は自分のリフレクトを外し、彼らにリフレクトをかけた。そして、彼らの攻撃を真正面から受け止めた!
視界の端に、今駆けて来たばかりであろうケイト達クラスメイトが見えた。それは「私」の命の灯火が消え去る瞬間のことだったと思う。
私の鼓動は一瞬途絶え、そしてすぐさま動き出した。青い炎が私を包み、私の髪は炎の中で静かに揺らめいた。
次の瞬間、私から発せられた青い炎があたかも五頭の竜のように攻略対象者達に向かって、伸びていった。お願い、生き残って!
五人の男たちは青い炎に包まれ、断末魔の声を上げた。彼らは意識を失ったように崩れ落ち、私は慌てて駆け寄った。良かった。息がある。私は急いで、「聖女の癒し」を彼らに施した。青い光が優しく彼らを包んだ。
「……聖女様だ」
「紺碧の聖女……」
集まって来た皆が覚醒した私の姿を見て口々にそう言った。この国の子供なら誰でも読む絵本の聖女の姿と今の私はさぞ似ているのだろう。
「お願い、彼らに早く治療を!」
私が叫ぶと、ハッとしたように皆駆け寄ってきてくれた。
彼らをお願い!私にはまだすることがある!
「ルチア、どこに行きますの?」
「彼らを操っていた奴がいるの。そいつを倒しによ!」
「私も一緒に行きますわ!」
私とケイトは訓練所から出た。聖女覚醒した私には、この学園に入り込んだ魔族の位置が手に取るようにわかる。逃がさないわ!
ある教室に辿り着くと、そこに一人の男子生徒が立っていた。
「よく来たね。ルチア・メイズ」
応用研究で私に一番に質問した男子生徒、カイル・アドリアがそこにいた。




