7.真夜中の来訪者
ケイト達、貴族組と別れて、寮組のクラスメイトと部屋に戻った。皆心配して部屋の中でしばらく一緒に過ごしてくれた。
ドライアドのギイちゃんを紹介したりして、皆とのおしゃべりを楽しめば、心は落ち着き、夕食時にはすっかりいつも通りの私がいた。
「ふー」
明かりを消して、ベッドの中で、今日一日のことを思い出す。
私は、所詮ゲームだと今まで軽く考えて来た気がする。でもこの世界は死と隣り合わせの現実であり、日本のような法治国家でもない。階級社会で、基本的に貴族が平民を殺しても大した罪にはならないような、残酷な世界だ。
貴族だけじゃない。「聖女だから大丈夫!」と開き直って来たけど、今更ながら魔物との戦いが命のやり取りであることに気付く。
ウラヌスさんは言っていた。魔族や魔物は、この世の澱に影響を受けただけで、他の生物や、エルフ、精霊たちと本質的には同じものであると。
「……考えを改めるべきかもしれないわね」
そう煩悶していると、窓の外に影が見えた。あれ、もしかして……。
ベッドから抜け出し、窓を開けると、目の前の木の幹にキュー太がいた。うわ!会いに来てくれたんだ!
「キュー太!」
私が手を差し伸べると、こちらに飛んできてくれた。黒く艶やかな羽を撫でると、擽ったそうに首を傾げる。
「元気にしてた?」
「お前こそ、元気がなさそうだな」
愛しい人と同じ声のイケボだわ。癒される……。
「……今日ちょっと嫌なことがあって、落ち込んでたの」
「さすがの聖女も人間の男には敵わないのか」
キュー太はお見通しと言うように、ふふんと鼻で笑った。なんで知ってるの?
「……それもあるけど、自分の今までの考え方が間違っていた気がして自己嫌悪してたの……」
「誰でも間違いはあるさ。考えることを止めなければいつか正解に辿り着ける。生きている限り考え続ければいい。思い悩めばいい。最後にお前の真実に辿り着ければそれでいいじゃないか」
なんだか壮大な慰め方をされてしまった気がする。ていうかキュー太って本当に何者?鳥の言うことじゃないよね?やっぱり刻告げ鳥は精霊?魔物?もしかして魔族?
私たちはしばらく他愛もない話をした。
「さあ、もう寝ろ。明日も授業があるのだろう」
「そうだった!ねえ、明日の夜も会いに来てくれる?」
「……気が向いたらな」
キュー太は、そのまま夜の闇に帰っていった。
そして、ツンデレ鳥はちゃんと次の晩も、その次の晩も、それ以降二日と置かずに会いに来てくれるようになった。それは私にとって、毎日とても待ち遠しい癒しの時間となったのだった。




