6.ピンチ!の時の意外な救世主たち
「おい、いい気になるなよ」
私は今、校舎の裏に呼び出されて、囲まれている。なぜかメイン攻略対象者達に……。
一応私、ヒロインのはずよね!?じゃなくても、女に見えなくても、れっきとした女子だよ!これでも!!
私は昨日の入学式の後に絡んで来た四人の男子生徒たちに囲まれて、絶賛ピンチである。何これ?いじめ?いくらイケメンでも上背のある男たちに怖い顔して囲まれたら、さすがの私もビビるわ!
思えば、前世から今世を通じて、昨日まで一度も男性から怒鳴られたことはなかった。
前世の父も、今世の家族も、そして竜騎士団の皆も、誰一人、私に対して怒鳴って来たことはない。前世の会社の上司だってもちろんだよ!あったらパワハラで訴えてたもんね!
その私が、なぜか、恋愛に発展してもおかしくない(はずの)男たちにどうして凄まれなければいけないの?
いや、そう言えば、王太子以外の攻略対象者は結構クズい感じだったわね。
俺様な騎士団長子息に、サドな宰相子息、ヤンデレぎみな魔導士研究所所長子息に、腹黒留学生!
どうも彼らは私が今日の講義で偉そうに前に出たことが気に食わないらしい。
知らんがな!先生に言えや!
魔物に対しては強気の私も、対人間には結構ビビる。なぜなら、この国では魔法を使って人を傷つけたら、下手をすれば死罪だからね!基本的に盗賊退治などでも、魔法で直接人を攻撃してはいけないことになっている。
しかも相手は高位貴族のご令息達だ。どう考えても、私の主張よりも彼らの主張が通るだろう。
私はどうしたものかと、言葉も発せずにいた。
「何をしているのですか!」
振り返ると、ケイトを始めとしたクラスの女子Sが仁王立ちしていた。助かった!
「か弱き女性に対して、男四人で恥を知りなさい!」
「ケイト、違うんだこれは……!」
大層な剣幕で捲し立てるケイトに対して、見苦しい言い訳をしようとする男たち。その隙に他の女子たちが私を男たちから引き離してくれた。
「もう大丈夫ですわ」
温かな皆の手に、ホッとして目頭が熱くなる。うえ~ん。怖かったよ~!
「まあ泣いてらっしゃるのね!」
「可哀そうに!」
「男四人に囲まれて、さぞ怖かったのでしょう……」
皆が抱きしめ、慰めてくれて、気持ちが落ち着いてきた。
「女生徒を泣かせるなんて、紳士としてあるまじき行為ですわ!このことは殿下や先生方に報告させていただきます!」
ケイトの言葉に、蒼白になった男たちは、すごすごと去って行った。
「みんな、助けてくれて、ありがとう……」
「魔物には無敵のルチアも、やっぱり普通の女の子ね」
「本当に!小さなルチアが彼らに囲まれて怯えている姿を見つけた時は胸が潰れそうでしたわ!」
「無事で、良かった。あの男たちには先生方からキッチリお灸を据えてもらいますから、安心なさってくださいね!」
私は皆の温かい言葉に、余計に涙が止まらなくなってしまった。思えば、この世界に生を受けてから、あまり泣いた記憶はない。何しろ、物心ついた時には私の精神は完全に「大人」だったから。
絶大な魔力を得て、優しい人に囲まれて、今まで悪意を知らず、脅威も感じてこなかった。
この世に生まれて今日初めて、恐怖を思い出したのだ。
そして同時に、友達の温かさ、素晴らしさを思い出せた。前世でも私は素晴らしい友人に恵まれたなあ。みんな元気かな?前世も妹がいたけど、あの子も姉妹というより親友のような子だった。
「攻略」とか関係なく、ケイトやみんなとの友情を大切にしていきたいと思った。




