5.応用研究
皆でお昼ご飯を食堂で食べた後、午後は選択科目の応用研究と魔道具研究に分かれた。私とケイトは応用研究。攻略対象者の内、王太子と騎士団長子息、宰相子息が一緒だった。魔導研究所所長子息とアーダ神聖国からの留学生(実は敵国の第三王子)は魔道具研究を選択したようだ。
「本日は初回ということもあり、シラクサ竜騎士団の英雄、ルチア・メイズ竜騎士がこのクラスにいるということで、せっかくなので、シラクサ竜騎士団での実戦での応用事例について話してもらおうと思う。ルチア・メイズ、前へ」
「はい」
事前に話を聞いていたとは言え、緊張するわ!何しろ他クラスだけじゃなくて、上級生も、学園外部の人たちも来ているのだ。見渡すと、シラクサの仲間もニヨニヨしながらこちらを見ている。ちょっと恥ずかしい!
私は深呼吸して話し始めた。
「シラクサ竜騎士団では、効率的に討伐を行うため、魔物ごと、状況ごとに合わせた戦闘方法をいくつかのパターンに分けて予め方針を決めています。皆さんもご存知の通りザンガ草原では大規模なスタンピードが起こりましたが、これも予め想定した戦闘方法により速やかに討伐を終えることができました。この時は大規模な火魔法にて大多数を駆逐し、水魔法で延焼を止め、そこから漏れた魔物たちを一匹ずつ物理的に倒すということで、短時間に殲滅しました。このように属性魔法にはそれぞれの短所長所がありますが、協力し合って補い合うことによって最大の効果を得ることができます」
私はここで一息ついた。あー声が震えるわ。
「また、魔物にはそれぞれの特性があり、例えばストーンゴーレムなどは炎だけでは倒すことができません。この場合はトンネル掘削の技術を応用し、まず火魔法で攻撃を行い、すぐに水魔法で更なる攻撃を加えることで、簡単に粉砕することが可能となります」
うちでやってる応用魔法の一番有名な例だ。これは王都の騎士団や他国にも浸透している。
「また、単体の魔物の討伐には周囲への影響を抑え、かつ最小限の魔力消費を目指すために、魔物の内臓を狙うことがあります。この場合、各自の魔法の属性によって狙い定める箇所が変わってきます。例えば火魔法では燃焼しやすい脳、腸内ガスなどを狙います。水魔法の場合は血液、風魔法の場合は肺、土魔法の場合は心臓です」
皆感心したように、頷いている。こうやって改めて振り返ると、前世の科学知識がかなり活かされたと思う。前世チートありがたや!
「また、魔法による攻撃も属性魔法を複合させることによって、軽減させることが可能です。例えば、火魔法の攻撃には風魔法と水魔法を同時に放てば、完全に消滅あるいは相手に逆にダメージを与えることが可能です。水魔法の攻撃の場合、土魔法と火魔法を繰り出すことにより、同様に防ぐことができます。風魔法の攻撃の場合は土魔法と、水魔法または火魔法で攻撃することによって、土魔法の攻撃はストーンゴーレムと同様に火と水、または火と風、あるいは水と風で攻撃すれば防ぐことが可能です。敵の属性を知り、それに見合った攻撃を行うことで、最も効率よく、そして確実に倒すことができます」
うんうん。ちゃんとメモを取ってる人もいるわね。感心、感心。
「以上、シラクサ竜騎士団にて実際に行われている応用魔法についてです。ご静聴ありがとうございました」
言い終えると、大きな拍手が沸いた。ケイトが一番大きく拍手してくれてる。ありがとね。
「ありがとう、ルチア・メイズ。では何か質問はないかね」
先生がそう言うと、複数の手が上がった。
「ではそこの君」
一番に手を挙げてくれた真面目そうな男の子が当たった。
「はい。二年生のカイル・アドリアです。メイズさんは、上級魔族を一人で倒したと聞き及んでいますが、その時どのように戦ったのか教えてください」
「ザンガ草原のスタンピードを引き起こした魔族ですね。あの時は、まず大魔法、地獄の炎で全体攻撃を仕掛けました。その後、上級魔族に火属性を付与した剣で物理攻撃を行い、ある程度相手が弱ったところで、大魔法、最後の審判を実行し、討伐しました。我々竜騎士団は予め、リフレクトという相手の攻撃を跳ね返す防御魔法を施しています。このため上級魔族の攻撃に躊躇することなく、畳みかけるように攻撃を仕掛けることができたことが勝因であると考えます」
会場にどよめきが走る。
「地獄の炎に最後の審判だと!?」
「なんでそんな大魔法を連発できるんだ……」
「やっぱり『地獄の魔女』の通り名は伊達じゃないな」
「十歳そこそこの子供がそれをやり遂げたというのか!?信じられん……」
「……化け物だ……」
みんな何言ってるか、ちゃんと聞こえてるからね!
「では次の質問は……」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
今度はさらに沢山の手が上がる。
「剣への属性付与とは具体的にどうやるのですか?」
「魔物の内臓を狙う場合はどれぐらいの魔力消費なのですか?僕は魔力量の値がとても低いのですが、できますか?」
「リフレクトですが、どのような魔法なのですか?」
「大魔法はどこで覚えたのですか?どうやれば使えるようになりますか?」
「森林地帯や水辺でのスタンピードの場合どのように対処するのですか?」
私は一つ一つ丁寧に答えた。概ね終わったところで、講義時間終了となった。
「ルチア・メイズ、素晴らしい話だった。ありがとう。皆もう一度大きな拍手を!」
私は大きな拍手に包まれ、ほっと息を吐いた。あー疲れた!




