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悪役令嬢攻略します!  作者: 烏丸じょう
第二章 学園篇
19/40

2.まさかのライバル

 ケイトは私の手を握って言った。

「私、あの日以来貴方を忘れたことはありません。ジェイ様!」

 涙ながらにそう言われて、私は固まる。何でジェイ?


「……お元気そうで何よりです。あの、私はルチア・メイズと申します。ケイト・リベロ侯爵令嬢ですね。その節はご無事で何よりでした」

「へっ?ルチア?ジェイじゃなくて?」

「……ジェイは私の同僚ですね。あの時一緒にいました」


 ケイトは私の足元を見た。

「なぜスカートを履いていますの!?」

 絶望したような顔をしてそう言われても困る。女子はスカートとズボンどちらでも選択できるけど、女性らしさを演出したかったのだ。


「……スカート似合いませんか。小さな頃以来なので、気恥ずかしいのですが……」

 ちょっと落ち込んでそう言うと、ケイトはみるみる顔を青くした。

「まさか……貴方、じょ、女性?」

 ルチアは明らかに女性名なのだが、今の今まで男と勘違いされていたのか。我ながら落ち込むわ!

「……はい。生物学上、女性に分類されております」

「…………」

 沈黙が重い。


「……うっうっうっ、ウワーン!!!」

 そう叫んで、ケイトは号泣しながら走り去ってしまった。


 私が一人取り残されて、茫然としていると、何人かの男性が寄って来た。あれ?王子以外の攻略対象者勢揃いじゃない?


「貴様、ケイト嬢に何をした!」

「……特に何もしてませんが」

「泣いてたじゃありませんか」

「私は自己紹介をしただけで、何で泣かれたのかわかりません」

「まさかケイトが言っていた竜騎士団の少年とはお前か!?」

「……少年じゃありませんが、たぶんそうですね」

「俺は認めないぞ!お前などケイトに相応しくない!」

「…………」


 四人の超絶イケメンに口々に責め立てられてるよ。なんぞこれ。まさか悪役令嬢が攻略対象者になると、逆に攻略対象者達がライバルになるの??どういう仕様よ?ファンが泣くぞ!


 私は重度の声フェチなので、イケボは好きだが、イケメンに興味はないから傷は少ないが、それでも大きな男たちに囲まれて、責め立てられ、大変気分がよくない。いっちょぶっ放すか?


 私が、魔力を手に貯め始めた時、後ろから声が聞こえた。

「君たち、止めたまえ、仮にも女性に向かってなんて態度だ」

 振り返るとメイン攻略対象者、王太子であられる、レオナルド・ファン・メサイオ王子が立っておられた。


「大丈夫かい?」

「私は大丈夫です。ちょっとびっくりしましたが……」

「すまないね。彼らはメサイオの薔薇と呼ばれる、ケイトのことが好きすぎて周りが見えなくなっているんだ」

「いえ、そんな。助けていただいてありがとうございました。では失礼いたします。」

そう言って、さっさと立ち去ろうとすると、引き留められた。


「待ってくれ、君はシラクサ竜騎士団のルチア・メイズだね。君の活躍は聞いているよ」

 私は王子の揺れる金髪と穏やかな笑顔を見て一つのシーンを思い出した。


『君はシラクサ出身だそうだね。二年前の悲劇……、本当に残念だ。王国としても復興に尽力しているが、まだまだ力及ばず申し訳ない』


 ゲームの中の王子の麗しいスチルが頭に浮かぶ。そうだ!出会いのシーンで、「シラクサで悲劇があった」と言及されていたんだ!それも二年前!うわーっ福純以外興味ないからすっかり忘れてたよ!


 つまり、あのザンガ草原のスタンピードはゲームの中でも起こったことになっており、シラクサは壊滅的な危機に晒されたということになっていたのだろう。まあ、そうよね。私の大魔法が無ければ、あの時のあのメンバーにはちとキツイ。今は私の後任でロイドというこれまたチートな魔力持ちが入団してるので、大丈夫だろうけど。


「……もったいないお言葉でございます。王太子殿下」

「レオナルドで結構。ここは学園だからね。学園の中では学生は皆平等だ」

 そんなん言われて、名前で呼べるような毛は私の心臓には生えていません。

 私は曖昧に笑ってごまかした。

 そもそも、私のターゲットは悪役令嬢(の兄)だからね!王子にかまけている暇はないのだよ!


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