1.とうとう入学式ですよ!
ついにこの日がやってきましたよ!奥さん!
私はこの日のために誂えた真っ新な制服に包まれて今学園の前に立っている。
アヴィリオス魔法学園、今日から私はここの学生だ。
髪はハーフアップにして、シラクサを出る時に、皆からもらった女の子らしい髪飾りで止めている。ドライアドの守護は大切にしまっている。
騎士団の皆には耳にタコができるほど、「女らしくして、いい男をゲットしてこい」と言われてきた。なぜならシラクサ竜騎士団の成人組はほぼ既婚者。でも未成年組には「地獄の魔女」と呼ばれる私は畏怖を抱かれている。これは騎士団以外のシラクサの町の独身男性陣も同じことだそうで、私がシラクサで男を見つけるのは「不可能」らしい。失礼な!
いいもんね。私には運命の彼がいるもんね。
学園に入学するにあたって、貴族名鑑を閲覧できた。それには悪役令嬢のお兄様のお名前と顔がバッチリ載っていた。
アンドレア・リベロ様 二十五歳 独身!炎のような美しい赤毛に、翡翠の瞳を持った白皙の美青年だ。
アンドレア様は乙女ゲームではその存在が示唆されていたけれど、スチルも名前も出て来なかった。出された情報は、悪役令嬢の十歳年上の兄が社交界で最も人気の高い独身男性だということだけだった。
でも現実世界では便利な貴族名鑑というものがあるのですよ!本来なら庶民の私が見られるようなものではないのだけれど、学園に入学する前のマナー講座で見せてもらうことができたのだ。
これで、どこかで遭遇したら、間違いなくお声がけすることができるわ。フフフ。いよいよ愛する人のお声が聴けるのね!
悪役令嬢!君に決めた!どうか私を貴女のお兄様の下に連れて行って!
私は意気揚々と門をくぐると、周囲からヒソヒソ声が聞こえて来た。
「……紺碧の髪、あの身のこなし、あれが噂の……」
「あの紋章、シラクサ竜騎士団のだろ。じゃああの子が……」
「女……なのか?凛々しすぎないか?」
「うわっ!まさかあれが地獄の……」
おい。私の評判どうなってるの?およそ可憐で心優しい女の子に向ける態度じゃないだろ。
顔を見れば、皆一様に強張っている。私、魔物は嬲っても人を傷つけたことはないよ!怖くないよ!
納得できないまま、講堂に向かい、受付をしてもらった。
「シラクサ出身のルチア・メイズです。」
「入学おめでとうございます。ルチア・メイズさんですね。メイズさんはSクラスになります。前から二列目のお好きな席にどうぞ。」
講堂の中にはすでに多くの学生たちがいて、緊張した面持ちの人もいれば、友人との談笑を楽しんでいる人もいる。
シラクサ竜騎士団の仲間や町の幼馴染が数人で固まっていたので、声を掛けに行く。
「ルチア!あんたのスカート姿なんて何年ぶりかしら?」
「地獄の魔女も今日は見違えるね」
「ちょっと、その渾名やめてよね!これ以上広まったらあんたの所為だと思うからね!」
シラクサの仲間たちは皆、気安い。小さな町だし、住民と竜騎士団の距離も近い。この貴族の多い学園に数人でも見知った仲間がいるとやっぱり心強いよね。
「ルチアはSクラスだろ?俺ら、BとかDだけど、何かあったら言えよ」
「まあルチアに手を出す恐れ知らずはいないと思うけどね!」
皆、ワハハと笑いだす。私もつられて笑ったけど、こいつらのことだから、私のことを面白おかしく言いふらしかねないので、注意が必要だわ!
そのことを指摘すると、「竜騎士団の先輩たちからルチアの婿探しに協力するように言われてるから安心しろ」とのことだった。……心配してくれてるのは嬉しいけどなんだか複雑だわ。
皆と別れて指定された席に座るとまもなく入学式が始まった。新入生代表は美しい赤毛の女の子だった。あっ悪役令嬢じゃん!あれ?なんかどこかで会ったような??
私は壇上にいるケイト・リベロ侯爵令嬢の顔を見つめた。あれ、まさかあの湖で助けた子じゃないかな?
ケイトも私に気付いたようで、驚愕したように目を見開いた。そして、入学式が終わると人込みを縫って、こちらに駆けて来た。
「お会いしとうございました!」
あれ?私いつのまに悪役令嬢攻略しちゃったの?




