番外編:竜騎士の穏やかじゃない日常
本日、閑話と番外編の2話投稿!ご注意ください。
明日から新章突入!いよいよ学園編開始します。
俺はジェイ。シラクサ竜騎士団の団員で、「地獄の魔女」と呼ばれるルチアの相棒である。
ルチアは十歳で竜騎士団に入団して来たが、俺は彼女の実家である雑貨店の常連の一人だったので、もっと前から顔見知りだっだ。店で見る時は、普通の可愛らしい女の子だったが、魔法の練習を近くでしているのを見つけた時は、そのとてつもない魔力と、正確さに只者ではないと驚いたものだ。
ルチアは年齢の割に大人びており、未だ十代前半の少女であるとは信じられない時がある。なんというか、「老成」しているのだ。
淡々として、無駄を嫌い、最低限の労力で最大の効果を狙うことを常としており、その動きは颯爽としており、少年と言うには美しすぎるが、少女と言うには凛々しすぎた。
年に似合わぬ冷静さと斬新な発想で繰り出す魔法はいつも一撃必殺。彼女と魔物討伐に出て危なげだったことは一度もない。
初めての実戦で、アンキロヌスを一撃で倒したことには驚愕した。今まで魔物の内部で魔法を発動させるという発想をした者なんて一人もいなかったのだ。
彼女は事も無げにそれを行い、アンキロヌスは一瞬でその巨体を地面に沈めた。
何より恐ろしかったのは顔色一つ変えずに、淡々と魔物討伐を繰り返す彼女自身だった。何しろインドラが脳を焼かれ、断末魔と共にのたうち回った末、その顔を苦痛に歪め死んでいった時など、討伐慣れしているダレン隊長(今は副団長だ)でさえも顔色が悪かった。俺もしばらく夢に見るほどトラウマとなった。
当の本人はケロリとしており、俺が「えげつな……」と言うと憤慨していた。
「ジェイ、お塩取って」
食堂で飯を食っていると、ルチアが言った。
俺に対して敬語を使っていたのは見習いの最初の一年だけだった。今は顎で使いかねない勢いだ。
そのくせ、副小隊長のカイのことは気に入っているそうで、喋る時に声が一段高くなることがムカつく。それを指摘したら、「だってカイさんの声、カッコいいもん!」と言われた。
俺は恰好よくないのか、悪かったな!
少し不貞腐れてると、「ジェイのことは実の兄弟くらいに好きだからね!」とフォローされたが、店の常連の俺はルチアが兄と弟を顎で使っていることを知っている。
塩を渡すと、「ありがとう!」とにっこり笑う。討伐以外の時は普通に女の子らしいし、顔も飛び切り可愛いのだが、如何せんルチアは規格外に強すぎる。
その合理的な戦い方は、魔力消費も少なく確実性も高いということで、竜騎士団内で共有され、更には王国騎士団全体にも広まった。ザンガ草原の戦いを経て、その名前は王都どころか隣国にも鳴り響いているほどだという。これでは嫁の貰い手はないだろうと、実の妹のようにルチアを思っている俺たち第十五小隊員は強く心配する毎日だ。
大規模な掃討作戦も、彼女中心に組まれるようになった。俺もルチアのペアとして、大規模作戦に必ず参加するようになり、魔力も持たない一般兵のはずの俺が、スリリングな毎日を送るようになった。
新婚に酷な仕打ちだと思うが、「諦めろ」と皆に肩を叩かれた。
昨年、ロイドという、ルチア並みの規格外の魔力を持った新人が入団して来た。ルチアの幼馴染らしいが、悪ガキで扱いにくい子供だった。
当然のように俺とルチアのペアが面倒を見ることになり、すぐにギャーギャー騒ぐロイドの扱いに最初は苦労したが、ルチアが上手くコントロールして正騎士になる頃には見違えるように頼りになるようになった。
ルチアが王都の学園に行く間の戦力減が懸念されたが、ロイドの登場で払拭された。ルチアも、休職までにキッチリと育て上げてくれた。
明日、ルチアは王都へ旅立つ。俺たちはルチアが少しでも女らしく見えるよう、シラクサ竜騎士団の紋章を象った銀細工の髪飾りを贈った。
ルチアは喜んでくれたし、いつものポニーテールではなく半分降ろした髪に髪飾りはとても良く似合っていた。
ぜひ学園でいい男を捕まえてきて、幸せになってほしいと心から願った。




