13.大神殿
大神殿は万年雪に閉ざされた雪の山脈の中にある。魔界への入り口への道中となる。
ゲームの中ではなぜか最も厳しい真冬に通ることになるのだが、今は夏だ。雪はあっても夜でもなければ吹雪くことはない。これならワイバーンに乗ったまま行けるだろう。
雪山登山は対策立てとかないと、下手したら大神殿に辿り着く前に凍死しちゃうよね。
今回サトゥルノにその話をして、スノーモービル的なものを開発できないか聞いてみた。私が、外観を説明すると、サトゥルノはあっさり出来ると言い、すぐに開発に取り掛かると約束してくれた。
持つべきものは器用な仲間だね!
大神殿のある山脈にはヴィナリアムの出口の一つがあるので、そこからスノーモービルに乗って移動できるように工夫してくれるらしい。どんなものができるのか楽しみだ。
シーラの背中に乗ってキラキラ光る万年雪の上を飛ぶ。
眩しくて遮光ゴーグルが外せない。暑さは感じないけど、日焼けしそうな気がしてフードを目深に被った。
「ギイちゃん。寒くない?」
太陽の当たらない地下の国から抜け出し、ギイちゃんの光合成のために外に出してるのだけど、結構寒いから枯れそうで心配だ。
「だいじょぶよ。ルチア、もうすぐ神殿が見えるわ」
ギイちゃんの言葉通り、山肌の奥に石造りの柱が見える。あれか。ゲームで見てたイメージよりも巨大だわ。
神殿の入り口に降り立つと、二人の門兵に槍を向けられた。
「その紋章はメサイオ王国の竜騎士だな。この神殿は神聖な場所で、何人たりとも立ち入り叶わん。直ちに退去せよ」
予想外の反応に、頭を悩ませる。ゲームでは歓迎ムードだったのにすごいギャップだわ。
大神殿はアーダ神聖国の管轄だ。魔界から神聖国を守るために設置されている。
ゲームの中では魔王討伐が決まって、アーダ神聖国に神託を受けに行く。だから大神殿にも話が通っていて文字通り歓迎されるのよね。
まさか大神殿が、ここ迄入場制限が厳しいとは思っていなかったわ。
どうしよう。
「ギイちゃん、どうしたらいいと思う?」
「わたちに任せて!」
ギイちゃんの袋を両手に持って、前に掲げるように差し出す。
すると、いつもの親指姫姿から、妙齢の美女(?)の姿に変わって、目の前に現れた。
「私は世界樹の使い、ドライアド。この方は聖女です。大神官に会うためにお連れしました」
「おおっ!」
門兵さんたち、さっと引きさがったよ。
「ただちに確認してまいります」
一人が大急ぎで神殿の中に駆けていった。待つこと数分。
まだ大神官に会えるかどうかわからないけど中には入れてもらえるらしい。
案内されたのは小さなお部屋。応接室かな?控室かな?木製の椅子とテーブルが置いてあるだけのシンプルなものだ。
そもそもドワーフの宮殿に目が慣れた今、この大神殿はシンプルすぎる。
大理石の柱も床も華美な装飾はなく、神殿というより、修道院のようだ。隠し神殿だからだろうか?
そんなことを思っていると、修道士のような白いローブ姿の男性が、迎えに来てくれた。
大神官が会ってくださるそうだ。
神殿の奥に通されると、祭壇があり、その前にやはり白いローブ姿のナイスミドルが立っていた。大神官、マクシムス。この隠された神殿のトップであり旅の仲間の一人。
「私はこの神殿の神官、マクシムスと申します。お初お目にかかります。聖女様。十三年前、聖女様がご誕生なされたことは、神託により承知しておりましたが、こんなに早くお目にかかれるとは思いもよりませんでした」
「大神官、マクシムス様。初めまして、私はルチア・メイズ。シラクサ竜騎士団第十五小隊所属です。まだ覚醒しておりませんので、どうかルチアとお呼びください」
私は敬意を表して騎士の礼を執った。
そんな私に、マクシムスはゲームで見たのと同じように優しく微笑んでくれたのだった。