12.ドワーフの国
ドワーフの国はアーダ神聖国から北に向かった山脈の中にある。
鉱山地帯に縦横無尽に穴を掘り、さながら地下帝国のような様相を呈している。
穴の中にはトロッコが張り巡らされ、魔法で自動的に動き、足が短く歩くことが嫌いな彼らにとって便利にできているが、人間にはちと狭い。
齢13歳の可憐な少女であるこの私でさえ、圧迫感を感じるほどなので、身長が高い人たちは大変だろう。そういえばゲームの中でも攻略対象者とヒロインが小さなトロッコに密着しながら乗り込むスチルがあったような。
ジェットコースターのようなトロッコは、竜騎士の私には辛くはないが、ゲームのパンピーなヒロインには辛かっただろうな。
そんなことを考えながらトロッコの揺れに身を任せてウトウトしていると、いつの間にか着いたようで、案内人の可愛らしい子供(に見える)ドワーフが私に手を差し伸べてくれた。
「着きました。どうぞこちらへ」
「ありがとう」
案内されたのは、立派な装飾の施された円卓のある部屋だった。部屋の内装も凝っている。さすが、ものづくり名人の宮殿は一級品揃いだ。
円卓の一席にすわると、奥からぞろぞろとドワーフのおじさんたちがやってきた。
最後に入って来たドワーフを見て、私は目頭が熱くなった。旅の仲間、サトゥルノ。道半ばにして、バルゼブブとの戦いで命を散らすドワーフの王。
私はメイン攻略対象者五人分、計五回乙女ゲーム「紺碧の聖女」をプレイした。魔王討伐の部分は完全RPGだが、どのルートでも内容はほぼ同じ。違いは攻略対象者別のスチルぐらいで、スチル集めのためにRPG部分があると言っても過言ではない。
そんな中、必ず死ぬのがサトゥルノだった。二回目以降は何とか彼を助けるルートがないか試みたが、最後には無力感で心が折れそうになったほどのトラウマを植え付けてくれた。
サトゥルノ!仇は取ったからね!!
生きて動いているサトゥルノを見て、私は密かに今回こそ、彼を絶対に死なせないと心に誓った。
「聖女様、ようこそドワーフの国、ヴィナリアムにお越しくださいました。我らドワーフ族の十王でございます。私は最も若輩のサトゥルノと申します。」
おじさんたちは次々と自己紹介をしていく。
一番若いサトゥルノでも六十歳超えのはずだから、皆それ以上なのだろうが、あまり歳の差がよくわからない。ドワーフも人間の三倍ぐらい生きるので、一番年上の人二百歳超えていると思うのだけど。
「温かく迎えて下さってありがとうございます。ルチア・メイズと申します。メサイオ王国シラクサ竜騎士団第十五小隊所属です。まだ覚醒しておりませんので、どうかルチアとお呼びください」
「なるほど、シラクサ竜騎士団の『地獄の魔女』の正体が聖女様であったとは思いもよりませんでした。ではお名前でお呼びしましょう。我らのこともどうか名前でお呼びください。またドワーフは堅苦しいことを好みませんので、どうかお言葉も居住まいもお楽に。私たちも普段の喋り方で話させていただきたいが、よろしいかな?」
私が頷くと、皆ほっとしたようにガヤガヤしだした。
「おい酒を持ってこい!聖女様にはハチミツ茶とお菓子をお持ちしろ!」
「いやー今代の聖女は少年のように凛々しいな」
「それに勇ましい!上級魔族のバルゼブブを一人で倒すなんて、頼もしい限りじゃわい」
「これで魔王討伐も楽に進むじゃろうな」
「この辺も魔物が増えて多くの仲間が殺されとったからな」
十人の男たちは姦しいほどよくしゃべる。円卓の上にはいつの間にか、エールや料理、お菓子が並べられて、宴会が始まった。
私、まだ今回の目的言ってないけど大丈夫か!?
魔王のダンジョン攻略に、絶対ドワーフの腕が必要なのだ。
「サトゥルノさん、私が来た目的なんですけど……」
「ウラヌスから聞いとるよ。魔王討伐に着いて行けばいいんじゃろ。大丈夫。儂が行くことに決めておるからな。こう見えて、この国で一番器用なのは儂じゃからな」
私はホッとした。ウラヌスさん仕事ができるわ。惚れるわ。
安心してハチミツ茶を飲むと、ほんのり甘い中に花の香りが柔らかく匂った。
美味しい!そういえばゲームの中にも出て来たわこれ。
私は出された焼き菓子にも手を伸ばした。クルミの入ったケーキに、干しブドウのクッキー、栗のグラッセ。どれも素晴らしく美味しい。ドワーフは工芸だけじゃなくて、料理も得意なのね。
美味しい飲み物と食べ物を囲んで、私は十人の小さいおじさんたちと祖父と孫かのように打ち解けていった。
「ルチア、こっちにおいで。このソーセージは貴重なハーブを使ったもんで絶品なんじゃ」
「こっちじゃ、こっち。この鹿肉は脂肪が落ちる今の時期が一番美味い」
「ルチアや。子供のお前に過酷な運命じゃが、儂等が付いておる。困ったことがあったらなんでも相談するんじゃぞ。儂等の技術の粋を尽くして、必ずやお前の助けになろうぞ」
宴会はまだまだ続くようだったが、移動で疲れていた私は豪華な部屋に通された。
中は猫足のついた立派なバスタブのある浴室と、美しい装飾の施された天蓋付きベッドがある、広い部屋だ。
バスタブにはお湯が満たされており、花びらが浮かんでいる。どこのお姫様待遇!?
前世を通じて、一番と言えるVIP待遇に浮かれながら、私は身体を休めた。
次は雪山の大神殿だ。明日はすぐに大神殿に向かうと心に決めて、眠りに落ちた。




