11.ネハコにて
エルフの里を出て、深淵の森を抜け、ヴァルツヴァルトの森との境に戻った。
「ギイちゃん。ワイバーンを呼んで、飛んで移動したいんだけど、元の場所って、空からでもわかる?」
ギイちゃんをちゃんと元の木に戻してあげないとね。
ギイちゃんは顔を悲しそうに歪めた。
「……わたちも一緒に行っちゃだめ?」
「私はいいけど、栄養とか大丈夫?木の上にいなきゃ死んじゃわない?」
「お水くれたら大丈夫だと思うの……。お日様はあまり好きじゃない……」
私は小さな皮布袋の中に土を詰め、ギイちゃんの木をそっと入れた。移動の間は腰から下げた袋の中にいてもらうことにした。
さあ、じゃあ、とりあえずアーダ神聖国の宿屋目指してレッツゴー!
地上に戻ってから定期的に竜笛を鳴らしていたので、シーラはすぐに迎えに来てくれた。
うちの子、かしこいわ♡
シーラに乗って森の上を通ると、三日間歩いた距離も数時間の旅になった。お陰で、夕方にはアーダ神聖国の宿場町、ネハコに辿り着いた。
ヴァルツヴァルトの森は、聖地の一つなので巡礼者が多く、そこに一番近い町であるネハコは中々賑わっている。
小さめの湖があり、周囲にはスパも多いので、静養で訪れるお金持ちも多い。
私は町中にある比較的小綺麗な宿に部屋を取れた。十三歳の小娘一人でも、竜騎士の紋章を見せれば問題なく宿が取れる。
ちょっと疲れたのでここで二泊は過ごすつもり。この後ドワーフの国に向かう。
ドワーフには、ウラヌスが連絡してくれると言っていた。ドワーフ族は世界樹との繋がりを持たないらしいが、地の精霊を介して情報のやり取りができるらしい。
エルフは風、ドワーフは土、神官は光と闇属性。私が炎なので、あとは水属性がいれば全属性揃うわね。ちなみに世界樹は全ての属性を兼ね備える。その子供であるドライアドは、ギイちゃんによれば属性という概念はないとのことだった。
私は一晩ぐっすり寝て、すっかり体力回復したので、翌日はネハコの町をゆっくり散策することにした。
さすが、巡礼の地とあってタリスマンや呪具が多い。多くは気休め程度のものだけど、中には本当に素晴らしい効果をもたらすものもあるという。
私は一つのお目当てがあった。ネハコの町で人気の「恋のお守り」!もちろん自分用!
神様どうか大好きな声の持ち主とハッピーエンドを迎えさせてください!
私は恋守りと、「本当に効く」と言われている安産のお守りをいくつか買った。竜騎士団の仲間は、成人組はほとんどが既婚者で、もうすぐ子供が生まれる人が数人いる。
なんとあのジェイも去年カイさんの妹のニーヤと結婚したのだ。ニーヤも竜騎士団員で、まだ出産の予定はないらしいが、そんなに遠くはないだろう。
まあ、今買って渡したら嫌がられそうだから、ジェイには家内安全のお守りにしとこう。うん。
ネハコの町は古くから人気の観光地でもあるので、建物にも趣があって素敵。
白壁に灰色の石の屋根が美しく、道も屋根と同じ石が敷き詰められている。
ぶらぶらしていると、革屋さんがあったので入って、ギイちゃん用に小さな袋を作ってもらった。巾着だと、ギイちゃんが顔を出せないので、バケツ型に革を縫製してもらう。花屋さんで、土と苔を買い、皮袋に入れて、ギイちゃんのベッドが完成。
ヤドリギの新芽をそっと入れて、水をやれば、ギイちゃんが気持ちよさそうに顔をだした。
「気に入った?」
「うん、とっても!」
満面の笑みのギイちゃんは癒しだわ。私は皮袋を腰のベルトに通して、散策を再開した。
昼食を一人宿で取っていると、大人の男たち数人が声をかけて来た。
「嬢ちゃん、子供が一人でこんなところで飯食ってたら危ないぜ。おじさんたちが一緒にいてやろうじゃないか」
ニヤニヤと笑いながら寄ってくる男たちを一瞥して、私は竜騎士の紋章をこれ見よがしに彼らに見せた。
「シッ、シッ、シラクサ竜騎士団……!まさか……」
男たちは顔を青くして立ち去った。
「地獄の魔女」の称号はさすがにまだ広まってないと思いたいけど、シラクサ竜騎士団が、メサイオ王国の中でも最も猛者揃いというのは有名な話だ。何しろシラクサは王国随一の魔物出没地なのだ。重要な国境地でもあるので、その竜騎士団は他所と比べても戦力が多い。
私はそのまま気にせず食事を続けた。だってネハコ名物猪肉のシチューなんだよ!うん♡美味しい♡♡




