表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢攻略します!  作者: 烏丸じょう
第一章 シラクサ篇
11/40

10.エルフの里

 その後一度休憩をはさんで、数刻後にやっとエルフの里に続く木の洞の前に着いた。

 名残惜しいけどキュー太ともお別れだ。


「キュー太、ありがとね。お陰で楽に魔物倒せたわ」

 私は残りのケーキをハンカチに包んで、キュー太の前に置いた。

「……聖女は変人だと聞いていたが、噂通りだな」

 変人⁉誰よそんなこと言ったのは!

 私の憤りも気付かず、キュー太は「あばよ」と言うとケーキを持って森の闇の中に消えていった。あー。福純と会話しているようで楽しかったんだけどね。


「さてと。ギイ、ここに入ったらいいのね」

「そうよ、中は異空間だから気をちゅけてね」

 異空間なんだ。ゲームでは入ると光に包まれて、気付くとエルフの里に着いていたようなイメージだった。なるほど、地下にエルフの里があるとかではなく異空間通路なのね。


 私は慎重に洞の中に足を踏み入れた。足が付く気配がない。洞の縁に座り、両足を差し入れ、覚悟を決めて中に飛び込んだ。どこまでも落ちていく感覚。数秒が永遠に感じられた瞬間、まぶしい光に包まれたかと思うと、地面にお尻から落ちてしまった。痛い!!!


「あー……、痛い……」

 私はお尻をさすりながら立ち上がった。すると目の前に超絶美形の男性が立っていた。

「ようこそエルフの国へ、聖女様」

 旅の仲間になるエルフ族の青年、ズィアスである。


 柔らかな金髪に尖った耳、青く切れ長な目。線は細いけど、背が高く、手足が長い。

象牙のような美しい白い肌に人ならぬ者の独特の空気を感じる。


 それにしてもドライアドと言い、九官鳥と言い、エルフと言い、私が聖女だってバレすぎじゃない?


「どうも。ルチア・メイズといいます。この子はドライアドのギイ」

 胸からギイを出してもう一度肩に乗せた。


「私はエルフ族のズィアスと申します。長の所にご案内します。こちらにどうぞ」

 そう言って、ズィアスは私の手を取った。

 

 花が咲き、蝶が舞い、鳥のさえずりや小川のせせらぎが聞こえる穏やかな山郷。

 エルフたちの家は草や木を編んで作られているようで、花に覆われてとても可愛らしい。

 外の世界とはえらい違いだ。いわゆる仙境なのだろうが。


「それにしてもよく私が来ることがわかりましたね」

「世界樹から知らせがありましたから。エルフ族も世界樹と繋がっているので」


 そうなんだ。ゲームではそんな説明はなかった。あっちではエルフの里にやって来た時も最初は拘束されちゃうんだよね。


 私たちは巨大な木の洞の中に入った。ト〇ロの木並みの大きさだ。中もあれとそっくり。

「ここはエルフ族の集会場です。長、お連れしました」


 奥から、ズィアスによく似た銀髪の男性がやってきた。やはりとても美しい。


「ようこそ。聖女様。エルフ族長のウラヌスと申します」

「ルチア・メイズです。突然お邪魔してすみません。実はお願いがあって、来ました」

「アンドロマケの首飾りですか。魔王討伐に行かれるならお出ししますよ。しかしまだその時ではないでしょう」


 全部お見通しなのね。とりあえず私の意志を伝えよう。

「私はまだ聖女として覚醒していません。覚醒したら魔王討伐に向かうつもりですが、まだ数年後になるでしょう。首飾りはその時に改めてお借りしに参ります。今回は将来の魔王討伐にエルフ族の方にもぜひご協力いただきたく、お願いに参りました」


 私が一息でそう伝えると、ウラヌスは顔色を変えずに、ただ静かに思案していた。

「……わかりました。エルフ族からも最も適した者を、討伐に参加させるとお約束しましょう」


「ありがとうございます!」

 拍子抜けする位にあっさりOKがもらえたわね。

「しかし、わずか十三歳で敵の副将を倒したほどの聖女様でしたら、勇者とお二人でも十分討伐可能なのではないですか?」

 ウラヌスが不思議そうに尋ねた。世界樹はその理由までは教えてくれなかったみたいね。


 実は魔王との戦いで、エルフの能力がどうしても外せないポイントになる。最終的に魔王を倒す大魔法を放つのだが、そこから逃げるのに転移魔法が必要になる。転移できなければ、私と勇者以外のメンバーはすべて巻き込まれて消し炭となってしまう。

エルフは短距離だが転移が使える数少ない種族なのだ。

 私がそのことを説明すると、ウラヌスは納得したようだった。


「なるほど。では転移魔法が得意で、戦力にもなる者を選出いたしましょう」

「ありがとうございます。魔王討伐が決まったら改めてご連絡します。ドライアドに伝えたら伝わりますか?」

「はい。それで結構です。今日はお疲れでしょう。ぜひエルフの里をお楽しみください」

 ウラヌスが手を叩くと、見たことものない果物や野菜などが運ばれてきた。

 うわっ!これって、仙境にしかないと言われている伝説の果実とかじゃないかしら?お土産に持って帰っちゃダメかな。そういうとウラヌスは笑顔でお土産にいくつか用意してくれると約束してくれた。ラッキー!


 食事の間、ウラヌスが色々なことを教えてくれた。

エルフの里は私たちの地上と精霊界の狭間のようなところにあるらしい。精霊が住むのが精霊界で、エルフの里、地上、精霊界はすべて世界樹で繋がっていて、神界は別にあると考えられているようだ。さすがの世界樹も神の意志は感じても、神の姿は認識できないらしい。


 ドライアドは精霊そのものであり、エルフは精霊に限りなく近い人類と言えるそうだ。

 エルフの先祖は上位精霊と人が交わって生まれた半精霊で、上位精霊と同じく悠久の時を生きているらしい。ちなみにドワーフも同じように精霊と人が交わって生まれたそうだ。こちらは精霊よりも人に近いらしい。


 魔王の率いる魔物も精霊界と地上の狭間から生まれるそうで、魔王たちがいる場所も地上ではなく、魔界と呼ばれる異界にあり、やはり世界樹と繋がっているという。


 この世は火、水、風、土の四大元素と、光と闇でできている。その中で生まれる澱のようなものが、いわゆる魔素だ。世界樹の落ちた葉や、枯れた幹や根の屑もその澱の中に含まれるので、澱が積もりに積もってできる淀みが魔界となるという。


 魔素はエネルギーの塊でもあるので、人が使う魔法の源の一つでもあるが、生き物を狂わせ、凶暴化させることもある。


 魔族や魔物たちは、元は精霊やエルフ、動植物となり得たかもしれない者たちで、深い魔素の中から定期的に発生してくるそうだ。

 だから聖人や、聖女が遣わされ、世界の「澱」を晴らす必要があるのだという。


 また生命には魔素を貯めるタンクのようなものがあり、その容量がMPの大きさの違いになるらしい。その許容量を超える魔素に侵されると凶暴化してしまうことになる。

 私のMPがチートに多いのはその容量が生まれ付き多いせいだということだった。


「ああそういえば、深淵の森で魔物のような九官鳥と出会ったのですが、何かご存知ですか?」

「九官鳥?」

 私はキュー太のことを説明した。ゲームではガイド的な役割なのか、特に実害はなかったが、魔物であるなら油断はできない。魔王のスパイかもしれないもんね。

 いくら愛しい声の持ち主でも、命には代えられない。


 ウラヌスは「九官鳥」という言葉を知らないようだった。

「九官鳥は、全体が黒で、目の周りと頬から後頭部にかけて黄色い小さなトサカのついているしゃべる鳥です」

「ああ、刻告げ鳥ですね」

「トキツゲ鳥?」

 時告鳥は鶏のことよね?


「はい。刻告げ鳥は別名、予言鳥と呼ばれています。魔物なのか精霊なのかわかりませんが、『(とき)』の訪れを告げると云われています」


 あの九官鳥って、そんな大した鳥だったのか。予言の鳥なら私が聖女だと知っていてもおかしくないわね。でも魔物なのか精霊なのかもわからないのか。


 精霊も魔物も元々同じものだったのなら、どちらでもありうる?凶暴化してなければ魔物じゃないのかな?


 ウラヌスは私に部屋を一つ用意してくれた。仙境の中には温泉もあり、湯あみもできた。久しぶりのお風呂気持ちいい!

 ギイちゃんはお湯はダメらしいので、仙境の水をいただいて、浅い皿の上で水をかけてあげると、気持ちよさそうに揺れていた。


 柔らかな苔の上にシルクのようなシーツと上掛けを引いたベッドに横たわると、疲れがたまっていたのか、すぐに寝入ってしまった。


 明日は、地上に戻る。それまでのひと時、楽園の癒しを堪能しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ