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悪役令嬢攻略します!  作者: 烏丸じょう
第一章 シラクサ篇
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9.深淵の森

 三日目の朝、ついに深淵の森に辿り着いた。ここから半日ほど歩いたところに隠れ里があるという。


「ルチア、ここから先は魔物が出るかもちれないわ」

ヴァルツヴァルトの森は神の加護を持つ神聖国の領域なので魔物は出ないが、深淵の森は領域外だという。


「ギイ、良かったら肩じゃなくて私の胸元に入ってもらってよいかしら。落ちたら大変だわ」

 ギイが頷いたので、私はギイをそっと持ち、胸元に入れた。

「苦しくない?」

「大丈夫よ!」

 可愛い。癒される。


 深淵の森は噂通り真っ暗で、ランタンに明かりをつけた。

 まさにリアル真っ暗森。N〇Kの某トラウマソングが思い出される。(私は好きだったけどね!)


「ギイ、ここから先どちらに進めばよいのかしら」

 ギイは胸元から右手奥を指さした。

「あっちに進めば、大きな洞がある大木があるの。その洞の中がエルフの里への入り口よ」

 私は頷いて、森の奥に進んだ。


 途中、何匹か魔物に遭遇したが問題なく倒せた。水属性の魔物には私の魔法も通用しない場合があるけど、森にいるのは他の属性の魔物がほとんどだから良かった。

 私の剣は炎を外すと攻撃力が十分の一に減ってしまうし、水属性の魔物相手だと倒せない可能性が出てくる。


 ゲームの中では悪役令嬢が水属性だったわね。実は彼女は隠しキャラ以外のルートではすべて学園編のラスボスとして魔物化してしまう。

 その戦いの中でルチアは聖女として覚醒するのだけど、覚醒しなかったら一人では絶対倒せないと思うわ。

 

 そういえばゲーム内の深淵の森のクエストでは謎の九官鳥が現れた。ゲームを通して魔を象徴し、神出鬼没で、いつも不吉な予言や煽るようなことを言うムカつく鳥なのだが、私は好きだった。なぜならその声を福純があててたからね!


 声優ヲタなら知ってると思うけど、声優さんたちが一つの作品の中で複数のキャラを担当することはよくあることだ。山〇宏一さんがチ〇ズだけじゃなく、カ〇オくんも担当していたことは有名な話ね。


 「紺碧の聖女」の中で、福純は隠しキャラ以外に二つの役を担当している。九官鳥となんと敵である魔王役だ。九官鳥はまだよくしゃべるけど、魔王なんてほとんどしゃべらないからね。


『ここまでよく来たな。虫けらども。歓迎してやろう』とか、

『ファッファッファッ!虫けらども八つ裂きにしてくれる!』とか、

『ギョエエエエエエエエー‼』だけだからね。


 魔王の声の時はいつもよりもだいぶ変声だったし、あまり好きじゃない。まだ九官鳥のほうがましだ。


 そんなことを思っているとどこかで羽音が聞こえた。見渡すと、少し奥の木の枝に赤い二つの光が見える。来た!


「お前聖女だな。こんなところで何してる」

 件の九官鳥が現れた。明かりを向けても微動だにしない。

 私は福純と同じ声に歓喜した。あーやっぱりイケボだわ。鳥のくせにイケボってどういうこと!


 そんな心の内をさらけ出さないように、努めて冷静な振りをして答える。


「エルフの里を探してるんだけど、知らない?」

 ゲームでもこの通りに話したはずだ。


「エルフの里?俺が知るわけないだろう。それよりバルゼブブを倒したそうだな。面白い。実に面白い」

 九官鳥はそう言って低く笑いだす。


「面白がってるところ悪いけど、あんた、夜目が利くんでしょう?魔物が近づいたら教えてよ。お礼に特製の木の実のケーキあげるから」

「はあ?なんで俺が見張りをしなきゃならんのだ」

 九官鳥は声を荒げて言った。あら珍しい。いつもムカつくくらい人を小馬鹿にしていて声を荒げることなんてなかったはずなのに。


「ケーキ美味しいのよ!ほらほらいい匂いでしょ!」

 私がマジックバッグからケーキを取り出すと、九官鳥はうずうずと食べたそうな様子になった。ゲームで食べ物で釣るシーンはないのだが、私は九官鳥が現れたら、餌付けしようと決めていたのだ。だって、仲良くなれば福純の声が聞き放題でしょ!


 私はケーキを一欠片抓んで、九官鳥に差し出した。サッと飛び立った九官鳥が私の指先からケーキをかすめ取った。

 

 少し離れた木に止まって咀嚼する。飲み込むとしばらく、押し黙ってからおもむろに口を開いた。


「……まあ少しくらいなら、教えてやらんこともない」

「ありがとう!あんた名前はなんていうの?」

 餌付け成功!ゲームでは名前は出なかったけど仲良くなるなら名前で呼び合わないとね!


「……名前はない」

「えっないの?じゃあ私がつけてもいい?キュー太とかどう?」

「キュータ?……まあいいだろう」

 単純な名前だったが気に入ってもらえたようでよかった。


 こうしてキュー太という見張りを得た私たちは更に安全に進むことができたのだった。

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