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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
エピローグ
58/62

58話 条件未達成

「ただいまー。ハリー、ちゃんと勝ったでしょうね?」


 巨大なタンポポの綿毛に掴まって、アピィがふわふわと空から舞い降りてくる。

 やたらメルヘンチックな登場に、張り詰めていた緊張が切れ、気が抜けてしまった。


「ここまでお膳立てされて、負けるわけにはいかないだろう。……そっちこそ、あれはなんだ?」


 空を覆う巨大な緑色の天蓋を指差す。

 オスカルとの戦闘中に突然影が落ちたのは気付いていたが、まさかあんなものが出現していたとは。


「マスコミ対策といえばブルーシートでしょ。隣獄では緑色がトレンドなのよ」

「そうか。意味が分からん」


 だが、マスコミ対策という言葉で何となく理解した。

 きっとアピィはルカノールの対処をしていたのだろう。

 あれだけ敵意を剥き出しにしていたあの男が、何もしてこなかったとは考え難い。


「まったく、人間らしい泥臭い勝利だったな。あれでは30点といったところか」


 背後から声が掛かる。

 振り返ると、少年形態に戻ったへリルメルクが長い外套をなびかせていた。


「アペルチャイルド、これで契約は完了だ。僕は帰るぞ」

「あら、祝勝パーティーには参加していかないの?」

「不要だ。帰って寝る」

「そう。あなた、人が多いところ苦手だものね」

「余計なことは言わんでいい!」


 誤魔化すように怒鳴って、へリルメルクが魔法陣を展開させる。

 何者かは未だ分からない点が多いが、彼の力無くして、今回の勝利はあり得なかっただろう。


「元帥殿」


 声を掛けると、ちらりと視線だけをこちらに向けた。

 少年の姿になっても、あの気難しそうな眼差しは変わらないらしい。


「世話になった。またよろしく頼む」

「……ふん」


 興味なさそうにそっぽを向いて、へリルメルクの姿が光に包まれ消失する。

 また近い内に再会しそうな、そんな気がした。


「……ね、ねぇダーリン」


 そんな事を思っていると、ラフィーナが服の裾を引っ張ってモジモジしていた。


「どうした?」

「えっと……アのね? 今回のレースの勝利条件、覚えテる?」


 勝利条件…………あ。


「いや待て。オスカルは既に行動不能だろう? 俺の勝ちで良いのでは――」

「いやイヤ、そこハやっぱりルールをチャんと守らなイと! ほら、オスカルもきっと浮かバれないンじゃないかナー?」


 勝手に忠臣を殺すんじゃない。


「だからネ、こっ、コこ、告白をねっ! シて欲しイなぁ〜っテ♡」

「こーっくはく! こーっくはく!」


 緊張のあまり声が裏返るラフィーナとは対照的に、アピィがノリノリで腕を振りながら煽ってくる。

 おのれ愉快犯め。


「……どうしてもやらないと駄目か?」

「悪魔的には、これも契約ごとだからね」


 アピィの口調は存外真面目だ。

 なんてこった、これが悪魔のやり口か。約款はどこにいった。


「ボ、ボクはいツでも準備オーケーだよ? ナにせ千年もプリンセスやっテる恋愛のプロだかラね。サぁ、ドンと来いっ」


 その割には大変表情が強張っているようだが、プロの勝率を教えてくれ。


「……ん?」


 なんだ? 遠くから何か、叫び声のようなものが――。


「うおおぉぉっ、さーせぇるーかーっ!」


 叫び声の主が、空から長尺の刀を手に飛来する。

 見えてはいけない布が一瞬見えた気がしたので、俺はそっと目を逸らした。

 自分とラフィーナの間に割って入るように刀を振り下ろし、黒髪のメイドが華麗に着地する。正直、危険極まりない。


「あっぶな!? 何するノさ、楓!」

「それはこちらの台詞です。クソ真面目なハリーさんの心情を利用して、脅迫まがいの告白を強要するとは――この二代目愛の伝道師が許しません!」


 いつ二代目を襲名した。いや、その前にどこから降ってきた。

 あと君のような娘が、クソとか言うんじゃない。


「いいじゃナい、ボクにもこれ位の役得がアッたって! この数日、どれだけ悩ンだと思ってルのさ!」

「駄目です。大体、ラフィーナ様は攻め過ぎです。ちょっとは私にもターンを寄越して下さい、この泥棒ネコ」

「グぬぬ、この小姑メイドめ〜〜っ」


 よく分からないが、楓のおかげで告白イベントは阻止されたらしい。

 俺は小さくガッツポーズを取った。

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