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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第7章 告白が日常的過ぎるのもどうかと思う。
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44話 遠望

 コロシアムの中央で、黒髪の少女が勝利の咆哮を上げる。

 大人しげな見た目に反して、中々どうして堂に入っている。


「まっさか挑戦者が勝つとはなぁ。マキシムが百連勝間近っていうから、鉄板だと思ったのによぉ」

「いいじゃないか、賭けの勝ち負けなんてどうだって。それよりあの楓って子、良い戦い方だったと思わないか? 俺、ファンになっちまったぜ」


 二人の悪魔が、先の決闘の感想を言い合いながら通り過ぎていく。

 それを横目で追ってから、手元の賭け札に視線を落とした。

 賭け金は結構なホテルに一泊できるほどの、ちょっとした額だ。


「なんだい、しょげた顔して。あんたも外しちまったのか?」


 そんな自分の様子が気に掛かったのか、酒瓶を片手にした見知らぬ悪魔が、気さくに話し掛けてくる。


「ああ、いや。別にしょげちゃいませんや。ちょいと感慨深くてね」

「確かに良い戦いだったからなぁ。あそこから一撃で大逆転なんて、中々ないんだぜ? 最近はマキシムが強過ぎたからよぉ」

「……そういや、噂で聞きましたよ。マキシムが接待プレイを辞めたんじゃないか、ってね。挑戦側から不満が溜まってたらしいじゃねェですか」

「おう、それな。高得点の告白ばかり連発して、勝負にならねえって声が上がってたなぁ。ここ一週間ほど姿を消してたし、調整でも受けたのかねぇ。ほら、パークの地下にゃ誰も知らない通路があって、調整所に繋がってるって噂、有名だろ?」

「ありやすねェ。一体、どこのゴシップ好きが言い出したのやら」


 白々しく、そうぼやく。

 自分の知る限り、そんな胡散臭い情報をわざわざ記事にしたのは、うちの新聞以外には存在しないのだが。


「ま、こうして挑戦者側が勝ったことだし、また賭けも面白くなるんじゃないかね? あんたも気を落とさず、次こそ当ててみなよ」

「そうですねェ。いや、為になる話をありがとうございます。良ければこれ、お礼に貰ってやってくだせェ」


 くしゃりと破顔して、持っていた賭け札を悪魔に差し出す。


「おいおい、外れ札なんて貰ったって――え!? おっ、おいこれ、当たってんじゃ――」

「言ったでしょう? 感慨深いって。あの半悪魔の娘、知ってる相手なんでさァ」


 とは言っても、顔馴染みというわけではない。

 一方的にこちらが知っていただけだ。

 もう数十年以上も前になるのか。

 呆ける悪魔に賭け札を押し付けて、飄々と歩き出す。

 思っていたスクープを獲ることはできなかったが、代わりに面白いものを見つけた。

 特別観覧席に居たあの幼子は、間違いなくレッドガーデンの魔女だ。それがラブパレードの魔女らしき人形と同席していた。


「事件の予感がしやすねェ。くくっ、今度はあんたの思い通りにはさせやせんぜ。ねェ、アペルチャイルド」


 思わず声が漏れる。

 いけない、いけない。考え事が口に出るのは、自分の悪い癖だ。

 代わりの口笛を吹きながら、熱狂冷めやらぬコロシアムを後にした。

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