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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第7章 告白が日常的過ぎるのもどうかと思う。
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41話 愛の殴り合い

『サァ、ソレデハ映像ニピッタリノ言葉ヲ考エテ、ラフィーナ様ヲトキメカセチャッテクダサイ! 試合開始ーッ!!』


 カーンッ!

 DJカエサルが手元のゴングを派手に打ち鳴らす。

 愛用の刀を抜刀すると同時に、思考を巡らせる。

 ラフィーナの趣向を考えれば、ベタ展開が好みのはず――考え付きはしたものの、これを言わないといけないのか。

 大きく深呼吸して、覚悟を決める。


「……ぼ、《僕は必ず帰ってくる。その時は一緒になろう、結婚しよう》」

『ん~……こレは、64トキメキ!』


 ラフィーナの声そっくりのシステム音声が点数を告げる。

 64……半分は超えているが、果たしてこれは高いのか、低いのか。


『もっトこう、男らシさを感じサせて欲しカったね。声の渋みトか』


 無茶言うな、私は女だ。


「悪クハナイ。ダガ、凡庸ダ。ソレデ我輩ノ愛ニ勝テルト思ワヌコトダ」

「む……」


 不敵に笑い、マキシムが大きく胸を張る。


「《僕ハ死ナナイヨ。君ノ愛ガアレバ、僕ハ無敵ノヒーローニナレルンダカラ》!」


 な――こ、これは……!


『これハ89トキメキ! さっスがチャンピオン、有りだと思いマス!』


 こちらの点数を大きく上回り、システム音声も興奮気味に感想を述べる。

 ……確かに、不覚にも私も有りだと思ってしまった。


『89対64、攻撃権獲得はマキシム!』

『一問目ニ決着! 大事な大事な先攻チャンスハ、マキシムガ獲得ダー!』

「イザ参ル!」


 大きく一歩を踏み込んで、マキシムの両手剣が唸りを上げる。

 上段からの斬り下ろしを半身で躱し、返す横薙を屈んで避ける。

 手が出せないとしても、回避し続けるだけならそう難しい話ではない。

 十を超える斬撃を易々と避け続けたところで、マキシムが笑った。


「鈍重ナ人形ニ遅レヲ取ルハズガナイ――ソウ思ッテオルナ?」

「……事実でしょう。こう見えても私、割とすばしっこい方ですよ?」


 悪魔にも関わらず魔法をほとんど扱えない私は、剣の師匠にスピードと技量を集中して鍛え上げられた。

 おかげで二足歩行型の悪魔の中では、素早い方だとのお墨付きも貰っている。


「ナラバコノ攻撃――避ケ切ッテミセルガイイ!」


 言うやいなや、マキシムのボディ全体に射出口が開き、穴の奥からぎらりとした棘が出現する――いや、違う。あれは剣だ!

 ガトリングガンを思わせるモーターの回転音と共に、数十を超える刀身の連続射出が飛来する。

 初撃は辛くも躱したものの、すぐに次の刀身が穴から顔を覗かせる。


「ず、ずるいですっ。自分は遠距離攻撃耐性とか持ってるくせに!」

「剣闘士ガ剣デ戦ッテオルダケダ、ズルクナドナイ!」


 そんな、滅茶苦茶な。こんな現場の横暴がまかり通っていいはずがない。

 責任者の断固たる対応を求めて、観覧席のラフィーナに視線を送る――あっ、くそ! 顔逸した!

 その隣でハリーが謎のハンドサインを送っているが、あの人は私が普通の女子高生だったことを忘れているのか。分かるわけないし!

 そうこうしている間に発射された第二射は、より精度を上げてこちらの逃げ道を塞いでくる。

 遂には追い詰められ、左下腿部を投擲された刀身が貫いた。


「くっ、しまった……!」


 激痛を覚悟した瞬間、システム音声が割って入る。


『楓選手に被弾確認っ、まずハ治しまース! 発動、リストア・コッペリア!」


 コロシアムの中央にハート型の魔法陣が展開され、優しい光が自分を包み込む。

 突き刺さったはずの刀身が鉛色の塵に分解されると、負ったはずの負傷が一瞬で全快した。

 ほっとした反面、システムの言葉の裏を読み取った直感が、まだ油断するなと警鐘を鳴らす。


『続けてペナルティ、いっくヨー! 発動、インタングレッド・マリオネット!』


 展開された斜線の入ったハート型魔法陣の色は、打って変わって寒々しさを感じる青色だ。

 どこからともなく出現した無数の糸が自分に絡みついたかと思うと、左足の自由が奪われた。


「足が……重く!?」

『出ター、ラフィーナ様オ得意ノ操作魔法! コロシアムデハ戦闘ニヨルダメージハ回復イタシマスガ、行動阻害トイウペナルティヲ受ケテイタダキマス! アァ、私モ縛ッテイタダキタイ!』

「まともな人形は盗賊団の親分しか居ないんですか、この国はっ」


 立ち上がり、刀を構え直す。

 そこでブザーの音が鳴り響いた。ようやく1分間が過ぎたのだ。


「機動力ノ要ハ奪ッタ。サテ、宣言通リ受ケテ立ッテモラオウカ。足ヲ止メタ、愛ノ殴リ合イヲ!」


 マキシムが再び両手剣を掲げる。

 あと、どれほど凌げるか――守りに入っては駄目だ。攻めに転じるしかない。


「~~~~あーもうっ! やってやりますよ!」


 こっちだって、死んだときの年齢は青春真っ盛りだったのだ。

 華の女子高生が、こんな奥ゆかしさも理解しない人形なんかに負けてたまるものかっ。

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