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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第6章 あれをそれして作り上げた究極の。
36/62

36話 リザルト

「というわけで、まずは一つ目クリアーだ」


 カートに乗せられた盗賊団を披露し、玉座のラフィーナに報告する。


「マさか一日で捕まエるなんて……ダーリン達を甘く見てタみたイだね。……何だカ2体ほど、破損が物凄いケど」


 全5体の人形のうち、アピィが捕まえた係員人形と親分人形だけ、フルリペアが必要なレベルで壊れている。

 メモリは無事だったようなので、元には戻せるらしいが、クライアントの表情は少し険しい。


「誰とは言わんが、魔女の仕業だ」

「ああ、やっパり……」


 嘆息をついて、ラフィーナが項垂れた。


「パニックラブエリアで、巨大な木が出現しタって報告もあったンだけド……」

「それも魔女だな」

「だヨね……」


 ちなみにアピィが開けた大穴は、整備人形達が総出で修復中らしい。

 あれだけやっても一日あれば直せるそうだから、人海戦術とは素晴らしい。


「この国で魔女といえばラフィーナのことよね。まったく困ったものだわ」

「キミのこトだよ、アペルチャイルド! ボクの国で何やっテるのさっ」

「遊園地で遊ばずして、何をしろというのかしら」

「グヌヌ、正論を……!」


 そう、アピィはたまに正論を言うから困る。


「とモかく! 残りのグラディエーターと王子様は、もっとスマートに捕まエてよね! お客様の悪魔だっテ一杯居るんだからっ」


 ラフィーナの言葉は厳しいが、サービス業のトップとしては正しい姿かもしれない。

 なんで悪魔なんてやってるんだ。


「それほど心配なら、いっそラフィーナもついてくればいい」

「ダ、ダーリンっ♡ そんなにボクと一緒に居たいだなんて!」

「違う」


 緩すぎるせいで魔女の力を甘く見ていたが、アピィを止めるには同じ魔女でなければ不可能だ。

 ラフィーナが来てくれれば、安心できるのだが。


「今日も実際そウしてた――じゃなイや。そうシたいのは山々なんだケど、ボクは暴走人形達のセンサーに引っかかっちゃうから……。キっとみんなノ邪魔になっチャうよ」

「そうか……それは残念だ。しかし、なぜセンサーに引っかかるんだ?」

「元々は、ボクを主であると認識さセるたメの識別コードなんダけド……。正直、本当にボクを敬ってルのか怪しいシ、プライベートで遊んでテもすぐ場所が割れルし、不都合しカ無い気がしてキた」


 いや、そんな事は無い。

 親分人形なんかは本気でラフィーナを敬っていた。ちょっと暴走はしていたが。


「ところで、もう夕方になっチャったし、続きは明日にするヨね?」

「そのつもりだ。さすがに疲れた」

「うん、分カった。みンなお疲れ様。すグにお風呂と食事を用意させルから、お部屋でゆっくリしてて」


 にこりと微笑むラフィーナの笑顔には、素直な喜びの感情があった。

 この笑顔が見れたのなら、頑張った甲斐もある。

 彼女との約束事を考えると、複雑な思いもあるが……。

 ラフィーナの有り難い言葉に甘え、部屋へ引き上げようとしたところで、ずっと静かにしていた楓が口を開いた。


「……申し訳ございません。私はラフィーナ様と少しお話がありますので、お嬢様達は先にお戻りになってください」

「楓がボクに? うぅ、なンか怖いなぁ……」

「いやいや、魔女様が私みたいな半悪魔に怯えないでくださいよ」

「だっテさぁ~」


 いつの間にか、少し仲が良くなったのだろうか。

 お互いの距離が近くなったように見える。


「仲良きことは美しきかな、というやつか。な、アピィ」

「そうね。これで今度、巷で人気の友情破壊ゲーム『デビポン』が楽しめるわ」


 悪魔か、こいつは。……悪魔だった。


「そんな顔しないの。ちょっとしたデビルジョークじゃない」

「君のジョークは難易度が著しく高いことを自覚してくれ」


 アピィの場合、口にしたこと全てを本気で実行しかねない。

 行動力があり過ぎるのも考えものだ――今日一日の結果を振り返って、そう思った。





 間もなく日も落ちるという黄昏時に、一人の悪魔がフラフラと歩いていた。

 くたびれたグレーの燕尾服は、相当な年季物の思えるが、彼は物に頓着しないタイプだった。

 男は探し物をしていた。

 パニックラブエリアの水路沿いで、大きな爆発があったらしい。

 確かに、遠目にもはっきりと巨大な木が出現したのを目にした。

 それを敢えて爆発と表現しているのは、何かを覆い隠す為なのか。

 男が実際にその現場を訪れてみると、広範囲に規制線が張られ、数百はくだらない自動人形達が、せっせと復旧に当たっていた。

 ライトなどの設備も既に持ち込まれており、夜通し作業で修復するのだろうと推察できる。

 ふと、眼前を一体の人形が通りがかる。

 これ幸いと、悪魔はその人形を呼び止めた。


「やぁ、スタッフさん。ご苦労さまなことだね。これは一体、何があったんだい?」

「コレハコレハ、ゲスト様。ゴ心配ヲオ掛ケシマシテ、大変申シ訳ゴザイマセン。ドウモ、古イガス管ガ爆発シタヨウデシテ……。明朝ニハ復旧ノ予定デゴザイマス」

「へぇ、ガス管が……。それは怖いねェ。巻き込まれた悪魔は居なかったのかい?」

「幸イ、リニューアル中ノアトラクションガ側ニアリマシタノデ、人通リモナク、怪我人ハイラッシャイマセンデシタ」

「そうかい――それは、良かった。……ところで、昼間に巨大な木が出現したのを目撃したんだけど……あれは何だったのかな? 何か知っているかい?」

「申シ訳ゴザイマセン、ソレニツイテハ何モ……。ドコカノゲスト様ガ、オ戯レニナラレタノカモシレマセンネ」

「ふむ、そうかい。まぁそうだね。この隣獄の悪魔達が無茶をしでかすのは、日常茶飯事だ。いちいち気にしていたら切りがない」


 悪魔は満足したように頷くと、くしゃりと笑った。


「教えてくれてありがとう。復旧作業、頑張っておくれ」

「アリガトウゴザイマス! ゲスト様モ、ドウゾコノラブパレードヲオ楽シミクダサイ。アナタ様二、愛ト笑顔ノ魔女ノ祝福ガアリマスヨウニ!」


 手を振る人形に礼を告げて、悪魔は歩き出す。

 末端の人形が真相を知っているはずは無い。

 となれば、全てを真逆に考えれば、ある程度近しい真実に辿り着く。


「……運営に近い誰かが、ここであの巨木を出現させたのかねェ。その結果、この大穴が空いた。それなら、これだけの人形を動員して突貫作業させる理由になる」


 書き留めた脳内のメモを整理するように、独白する。

 観光客との話で得た、この辺りの人形に私物を強奪されたというネタ――それと繋がるだろうか?


「いや、さすがに繋がらんか……」


 いくら何でも、起きた事故との釣り合いが取れない。

 残念だが空振りだろう。

 何か運営が隠し事をしていたとしても、愛と笑顔の魔女の情報統制力は悪魔の中でも群を抜いている。

 裏を取るには手間が掛かり過ぎるだろう。


「次のネタに行くとするかねェ。明日は、闘技場か」


 口笛を吹きながら、悪魔は歩く。

 灰色の後ろ姿は、やがて黄昏の闇に溶け込んで、見えなくなった。

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