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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第6章 あれをそれして作り上げた究極の。
34/62

34話 対峙

 橋のたもとには設備管理用の小さな扉がついていた。

 鍵は掛かっておらず、音を立てないよう静かに侵入する。

 下り階段の先には浅く水が溜まっており、音の反響は免れそうにない。


「このエリアには水溜りが多いって証言があったが、これが原因か」

「盗賊団が撒き散らしていたんですね。でも、どうやって進みましょう?」

「簡単よ。まぁ見てなさい」


 アピィが階段を降りてゆく。

 魔法陣を展開させて小さく何か呟いたかと思うと、指先を溜まった水につけた。

 その瞬間、液体窒素をぶち撒けたかのように溜まった水が凍結し、みるみる氷の床へと変化してゆく。


「さすがお嬢様、見事な魔法ですっ」

「まったくだ。ラフィーナの言葉は本当だったんだな」


 隣獄一の魔法使い――疑うわけじゃないが、いつも召喚しかしていないので、あまり実感が無かった。


「ふふん、良いわよ。もっと褒めなさい」


 気分上々のアピィが氷の床へ一歩を踏み出す。

 そして転んだ。


「あいたーっ!」

「何ダ、今ノ声ハ!?」

「親分、キット今話シテタ奴等ダ! ココマデ追ッテキヤガッタ!」


 案の定ばれた。

 アピィは自慢の尻を打ち付けたのか、涙目でさすっている。


「……まぁ、正直こうなるんじゃないかという予想はあった」

「わ、私はノーコメントで……」


 楓はそっと顔を背けた。

 従者の立場はいつだって難しいのだ。

 こそこそする必要も無くなったので、声がした方へ走る。

 元は資材管理倉庫だったのだろうか。

 テニスコート程の広いスペースの奥で、2体の人形がこちらを睨みつけている。

 そのさらに奥には、悪魔達から盗んできたであろう戦利品が山積みになっていた。


「追い詰めたぞ。お前が盗賊団の親分だな?」

「……姫様ノ雇ッタ刺客カ。部下ガ世話ニナッタヨウダナ」


 親分人形の体躯は、手下と比べて一回りどころか二回りは大きい。


「悪魔達の持つ愛の思い出を集めさせていたそうだな。何故そんなことをする?」

「オ前達悪魔ニハ分カルマイ。我々人形ハ、突キ詰メレバ姫様ノ愛スル玩具ナノダ。姫様ガ玩具ヲ見テクレナクナッタ時、我々ハ存在意義ヲ見失ウ」

「……ラフィーナの恋人探し。それが理由か」


 ラフィーナは千年間相手が見つかっていないが、いつまでもそうとは限らない。

 相手が見つかってしまえば、自分達が見向きされなくなるのでは――そんな恐怖が、この蛮行に走らせたのか。


「ソウダ。ソレヲ払拭スルニハ、姫様ノ愛スル相手ガ我々人形トナレバ良イ。ダガ、我々ハ本物ノ愛ヲ知ラヌ。ナラバ、学習スルシカアルマイ」


 人形の独白を聞き終わると、楓の剣先が僅かに下がった。

 その表情には明確な戸惑いが現れている。


「こうして理由を聞くと、ちょっと可哀想ですね……。ラフィーナ様への反抗どころか、逆に愛して欲しいからだなんて」

「そうだな。その根底はきっと、無垢で純粋なものなんだろう。だが、問題はそこじゃない」


 銃を親分人形へ突きつける。


「答えろ。誰にそれを吹き込まれた?」

「誰にって――他に、黒幕がいるんですか!?」

「黒幕――ありね」


 アピィの目がキラリと光る。

 ありね、じゃない。絶対変なこと考えたろう、今。

 どうにも締まらない緩い空気感に調子を狂わせながらも、自分の考えを口にする。


「……緊急プロトコルってのは、最上位ユーザーであるラフィーナからの命令を強制執行させる為のものだ。そんなもの、普通は自分達じゃ解除できん。となれば、外した奴がいるのさ。それだけの権限を持った、本当の暴走人形がな」

「黒幕の、暴走人形……」


 楓がごくりと生唾を飲み込む。

 親分人形は、当然のポーカーフェイスだ。

 しかし、もたらした数秒の間が、真実を物語っているように思えた。


「……ソノ答エハ、自身ノ手デ掴厶ガイイ。我々ハココデ捕マルワケニハイカナイ。全テノ人形達ノ未来ノ為ニ!」


 言い終わるや否や、親分人形が爆ぜるように突進してくる。


「させません!」


 楓が前に出て親分人形に斬りかかる。

 相手も雑魚とは違うのか、腕に仕込んだパイルバンカーで楓の斬撃を受け止めた。


「ウオォーッ! 兄弟ノ仇! テメェノ相手ハ俺ダー!」


 破れかぶれなのか、脇にいた手下もハンマーを手に突っ込んできた。

 どうやらヘイトは挑発しまくった自分に向いているらしい。


「少し誤解があるな。別に破壊しちゃいない」

「ウルセェ! 人形ニトッテ停止装置ヲ押サレルノハ屈辱ノ極ミ! 兄弟達ノ恨ミヲ味ワエー!」


 そう言われても、押されるような事をしてるのだから仕方ない。

 牽制に何発か銃を撃ってみるが、ハンマーで急所を防御した人形は止まらない。

 拳銃は人間を殺傷するには充分に過ぎるが、大型生物やロボットのような無機物には、急所を狙わない限り効果が薄い。


「さて、どこまで通じるか」


 腰のシースから大型ナイフを抜き放つ。

 銃が駄目なら接近戦しかない。何とか停止装置にナイフを捩じ込むことができれば、こっちの勝ちだ。

 大振りなハンマーの一撃を二度三度と回避し、機会を待つ。

 六度目。正面からの振り下ろしが来る。

 ぎりぎりでいなせれば、すれ違いざまに腕に一撃を入れることが可能だ。

 覚悟を決めて前に出る。


「うおおっ!」


 千切れそうなほど引き絞った腓腹筋をバネのように開放し、手下人形に肉薄する。

 ハンマーの風圧が髪の毛をかするが、被弾は無い。これ以上ないほどのタイミングだ。

 伸び切った人形の腕目掛けて、竜鉄鋼の黒い刃を水平に振るった。

 スルン、と一切の抵抗無く刃が入る。

 まるで空を切るかのような零摩擦で、腕から入った一閃はそのまま人形の首を刎ね飛ばした。

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