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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第6章 あれをそれして作り上げた究極の。
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31話 リベンジ

「ドウモアリガトウゴザマシタ! マタノゴ搭乗ヲオ待チシテオリマス」


 係員人形に見送られ、アトラクション出口から屋外へ出る。

 しばらく全員が無言だったが、沈黙を破ったのはやはりアピィだった。


「えっと、オチは?」


 シンプルかつ、鋭い一言だ。

 なぜかラフィーン氏がさっと顔を背けた。小銭でも落ちていたのだろうか。


「代役の盗賊団どころか、ほぼ何も出なかったですね……」

「ナレーションでは上から来るぞとか言ってたが、何も来なかったしな」

「ルートが二択ある的な雰囲気だったのに、勝手に赤い扉に突っ込んでたわよ。選択権が無いなら出さなきゃいいのに」


 それぞれが思い思いの感想を述べたが、やはり辛口の意見ばかりだ。

 アトラクション前が閑散としているのも納得である。


「あ、あはははは……ご、ごメん、ちょっと念話!」


 慌ててラフィーン氏が後ろを振り向くと、ハート型のコンパクトのような端末を取り出し、耳に押し当てた。

 仕組みはアピィが自分に行った、テレパシーのようなものだろうか。

 電話じゃない辺りが隣獄らしい。


「もしモ……、爺や? パニッ……ースターの企画を担……たディレクターを調……に送りナさい。お客……ラのクレームよ。そう、念入りにやっといテ!」


 最後に強めの口調で締め括ると、コンパクトを閉じる。ところどころ物騒な会話のように思えたが、ラスベガスではよくある話だ。

 嘆息をつくと、ラフィーン氏がこちらを振り返った。


「でも、おかシいなぁ。ボクが聞いた限りじゃ正常稼働してるって話だったケど。それに、盗賊団以外の配役も出てこナかったし」

「……盗賊団以外? 本来は他にも出るのか?」

「そうダよー。盗賊団のあとにカウボーイ人形が出てきて、ゲスト達を手助けシてくレるの。他にも、猿型人形とかイるはずなンだけどね」


 どうやらラフィーン氏はかなりの通らしい。

 ここまでの詳しい情報があれば、さすがに怪しさに気付く。


「アトラクションを乗っ取られた可能性――有り得るか?」

「それはさすがに大袈裟なのでは……」

「無理があるか……。さっき俺達が襲われなかったのも、説明がつかないしな」

「……あ」


 楓が素っ頓狂な声を上げる。

 そしてラフィーン氏を連れてそそくさと離れると、こそこそと内緒話を始めた。

 いつの間にそんなに仲良くなったのだろうか。

 密談が終えて戻ってくると、何故かラフィーン氏が涙目になっていた。


「えー……とある情報筋によりますと、この近辺でラフィーナ様がうろついていらっしゃるようでして。盗賊団が警戒して出てこなかった可能性があるようです。ですので、ハリーさんの説は充分に有り得るかと」

「うっかり忘れてオりまシて、大変申し訳ございませんデした……」


 なぜラフィーン氏が全力で頭を下げているのだろう。まぁいいか。


「よし、そういう事情なら再突入だ。今度は盗賊団が現れるかもしれん。心構えをしておいてくれ。それとすまないが、ラフィーン氏は……」

「大丈夫デす……。ボクは遠くニ行かなきゃいケないので……」


 とぼとぼとラフィーン氏は去っていった。

 一人でアトラクションに乗るのを怖がっていたし、悪いことをしてしまっただろうか。


「うーん……。さすがにちょっと可哀想になってきましたねぇ」

「楓、ラフィーン氏と何を話したんだ?」


 ぽつりと呟いた楓の言葉が気になり、尋ねてみる。


「駄目ですよー。いくらハリーさんでも、女の子同士の会話は秘密です」

「む」


 珍しくつんとした態度で、楓に躱される。

 そう返されると、これ以上何も言うことはできない。


「ハリー、もう一度さっきのに乗るのでしょう? 難しい顔してないで、さっさと行くわよ」


 アピィはそれほど興味もないのか、いつもの調子のままだ。

 確かに、あれこれ考えたところで、今の自分がやるべき事に変わりはない。

 アピィの姿勢には、たまに見習うべきものがある。





「オヤ? 随分早イオ戻リデスネ。再搭乗デショウカ?」


 出迎えてくれた係員人形も、さすがに連続で乗りに来るゲストを不思議に思ったらしい。


「ああ、連れが痛く気に入ったらしい。もう一度頼む」

「カシコマリマシタ。3名様……デヨロシカッタデショウカ? 先程ハ4名様デシタガ」

「あれは偶々一緒に乗っただけさ。行きずりの間柄だ」

「ソウデスカ。ソレハ失礼致シマシタ。ドウゾ、足元ニオ気ヲ付ケテゴ搭乗クダサイ」


 搭乗口のチェーンが外される。

 一周目と同じ席に座ると、アピィと楓にアイコンタクトを送った。

 事前の打ち合わせ通り、係員に気付かれないように、隙間を作って安全バーを下ろす。これで襲撃があっても抜け出せるはずだ。


「ゴ準備ハヨロシイデスネ。デハ、スリリングナ砂漠ノ旅ヘ、皆様イッテラッシャーイ!」


 発射のベルが鳴り響き、ゆっくりとコースターが動き出す。

 手を振って見送る係員人形の姿が視界から外れる間際、あるはずのない人形の口が、笑っているように見えた。

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