表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第5章 マスタードと、野菜多めで。
26/62

26話 宣戦布告

「ハリーさんとラフィーナ様が……け、結婚ーっ!?」


 玉座の間で衝撃の発言がラフィーナから飛び出し、私は悲鳴に近い叫び声を上げた。


「まだ決まっタわけじゃナいけど、ダーリンはそう約束してくれたンだぁ♡」


 照れ照れとラフィーナが身体をくねらせる。

 ハリーはそれを否定することなく、黙って目を瞑っていた。

 さっきの謝罪を鑑みるに、事実ということなのだろう。

 二週間経ってもさして関係に変化のない自分からすれば、あまりに手が早すぎる。

 魔女って怖い。


「一応聞くけど、ハリーは本当にそれでいいの? 悪魔との契約を反故にしたら、魂を抜かれるわよ?」

「約束は守るさ。それに、おそらくこれは今回のことだけじゃない。アピィ、みんなが君ほど強いとは限らないだろう」

「……まぁ、そうかもしれないわね。理解はしても、納得は別か」


 ばつが悪そうに、お嬢様が独りごちた。

 確かに、私だって記憶を失うと言われれば、躊躇はするだろう。

 何故自分が、という思いに駆られてしまうかもしれない。

 記憶を失うことに何の憂慮も抱かないお嬢様が、あまりに潔すぎるのだ。


「俺は所詮部外者だが、今回は魔女達全員の協力が必要なんだ。残される者の為にも、後味の悪さを残すべきじゃない。禍根は尾を引いて、やがて争いを生む」

「ふむ。悪魔の世界では、強い者が正義なのだけど……いいわ、協力者たるあなたの方針に合わせましょう。魔女達の理解が得られない場合は、譲歩も検討するということでいいのね?」

「すまないな、人間の価値観に合わさせて」

「構わないわよ。山は高ければ高いほど、登った時の空気が薄いと言うじゃない」


 まんまだ!

 しかし従者として主へのツッコミは憚られる――ああ、なんという生殺しか。


「よシよし。アペルチャイルドのお許シも出たというコとで――早速お題を発表しマーす!」


 ファンファーレが鳴り響き、パネルを伏せた三体の人形が入場してくる。

 何だか日本のテレビでやっていた、バラエティ番組のような展開だ。

 見やすい位置にやってきた所で、パネルがひっくり返された。


「ハい、お題はこチら! その1、激走・暴走しタ人形盗賊団! ソの2、激闘・暴走したグラディエーター人形! そノ3、激突・暴走シた王子様人形!」

「結局、全部暴走じゃないですか!」


 運営の管理は一体どうなっているのか。

 日本だったらコールセンターの電話が鳴りまくりそうな事案だ。


「うぅ、だカら困ってるんダよぅ。緊急プロトコルも受け付けナくなってるし、調整所に戻さなイといけないんだケど、全然捕まらなクてさぁ。ボクが行くと凄い勢いで逃げチャうし」

「いつから暴走してるんだ?」

「一週間前くらいカなぁ。盗賊団に私物を盗まレたり、グラディエーターに襲撃を受けたゲストがいて、何とかイベントの一環だって誤魔化したンだけど、そろそろマズそうで……。早くどうにカしなイと、マスコミに嗅ぎつケられちゃうヨ!」

「マスコミと言っても、君の配下だろう。差し止めればいいじゃないか」

「アれはパーク内限定の広報誌だよ。ボクが言ってルのは、『四季報りんごく』っテいう個人新聞のこと。ゴシップを撒き散らスのが趣味の、質の悪い悪魔がいるんダよぉ」


 四季報りんごく――通称『よんりん』と呼ばれる、ゴシップ紙だ。

 真偽の出所の怪しい記事が多数掲載されており、娯楽としてなんだかんだ人気のある新聞だ。

 倫理観の薄い悪魔達には受けがいいらしい。


「なるほど。そいつにスクープされる前に、問題を解決すればいいんだな?」

「そウ! このミッションを見事達成してクれれば、ボクは大人しくシリアルを受けルよ。パークの悪評を広げラれるのは我慢ならナいからね」


 口をへの字に曲げて、ラフィーナが強く言い切った。

 どんな無理難題かと思えば、暴走した人形を捕まえるぐらい、レッドガーデンの魔女たるお嬢様のお力があれば、造作もないことではないのか。


「あマり時間を掛けたクないから、期限を切らセてもらうよ。5日以内に全部の人形を捕まエて。アと提供でキそうなノは……人形達の資料とパークの地図、それに目撃情報かナ?」

「ああ、そんなところだな」

「オッケー、じゃあ準備さセるね。爺や、爺やー!」


 ラフィーナの呼び声に、側で控えていたのか執事風の人形が静かな佇まいで現れる。


「あ、昨日の……」


 自分とハリーを部屋に案内してくれた、あの執事人形だ。


「オ呼ビデショウカ、姫様」

「例のものヲみんなに」

「ハッ。ドウゾ、コチラニナリマス」


 ファイルに仕舞われた資料をハリーが受け取る。

 中身をざっと確認すると、ハリーが小さく頷いた。


「よし。では、早速行動を開始させてもらう。行こう、二人とも」

「ず、随分早いネ。朝食とかイらない?」

「道すがら補給する」

「なんタるセメント対応……。でもダーリンらしいカぁ。仕方なイね、そレじゃあ行ってらっシャーい!」


 ラフィーナが大きく手を振って送り出す。

 それを見ていたお嬢様が、呆れたように嘆息をついた。


「忙しないわねぇ。まったく、何をしに遊園地に来たのか分かってるのかしら?」

「だから、遊びにきたんじゃないだろう」


 踵を返して歩き出す二人に、慌てて追い縋る。

 ふとラフィーナを振り返ると、その視線がハリーの背中を追っていることに気がついた。

 足を止め、ラフィーナの機械仕掛けの瞳に視線を返す。


「なァに? 楓」

「……負けませんよ、私達は」

「さて、それはドうかな? 暴走中の人形達は、ボクも手ヲ焼く曲者揃い。甘く見テると怪我をすルよ」


 自分の作った人形に自信があるのか、はたまたそれ以上の何かがあるのか。

 ラフィーナは余裕の表情で、くすりと笑ってみせた。

 だが、彼女は大きなミスを犯したことに未だ気がついていないのだ。


「分かってないみたいですね、ラフィーナ様」

「うン?」

「その立ち位置にいる限り、あなたは高みの見物側です。だって、あなたが私達に協力してしまったら、勝負にならないのですから」

「…………あっ」

「私はハリーさんと思う存分に遊園地を堪能した上で、勝負にも勝たせてもらいます。それでは」


 スカートの両端を摘んで、恭しく一礼する。

 そして遠くなってしまったお嬢様達を追いかけようとして――もう一つ思いついたことを、ついでに教えてあげることにした。


「そうそう。ちなみに、ハリーさんは今回が初遊園地だそうですよ。ジェットコースターも、メリーゴーランドも、観覧車も、みーんな初体験です」


 そう言い切って、今度こそ二人を追いかけて走り出す。


「爺やー! 計画変更よ、今すぐマネージャー達ヲ集めテ! 三分以内に来れなカった子は調整所に送りナさい!」

「ヒ、姫様! ドウカゴ冷静ニ!」


 後ろの方で、ラフィーナの悲鳴にも似た絶叫が響き渡ったが、もう振り返らなかった。

 どっちの勝負も、私は負けるわけにはいかないのだ。

 悪魔としては遥かに格下でも、女の子としてなら決して負けていないことを、思い知らせてやろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ