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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第4章 キミは王子様なんだから。
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19話 淑女達の戦い

「……こほン。うちの人形達が、お見苦シい所を見せてしマったね。パークのプリンセスとしてオ詫びするよ」

「君も大概だったと思うんだが」

「やめテ! ダーリンはそコに触れないで!」


 泣きついてくるラフィーナを押し留め、嘆息をつく。

 千年間、ずっとこうだったとするなら、周りの人形達もどうにかすべきな気がする。


「ダーリンだなんて、随分仲が宜しいんですね。ハリーさん?」

「……勘弁してくれ、楓。賢い君なら、俺の事情ぐらい分かるだろう?」


 そう言うと、楓がむくれてそっぽを向いた。


「ふーんだ、分かってますよ。どうせまた、合理的に考えた結果とか仰るのでしょう? ハリーさんはそういう人ですよ」


 合っているが、棘がすごい。

 そんなやり取りを見て、今度はラフィーナが頬を膨らませた。


「ねぇ、ダーリン? ソの子は?」

「ん、ああ――すまない、紹介が遅れたな。彼女は楓と言って……」

「ハリーさんと()()()()()()()()()旅の仲間です。どうぞよろしく、ラフィーナ様」

「グはっ」


 ラフィーナが吐血――ではなくオイル的なものを吐いて倒れ込んだ。

 その様を見て、楓御大は大変ご満悦だ。


「ちなみに私、メイドですので――それはもう、色々なお世話もさせて頂いておりますわ」

「サー、誤解を招きそうな発言は止めて頂けないか」


 ただでさえラフィーナは千年間もこじらせているのだ。

 どんな解釈をするのか分かったものではない。

 ラフィーナがよろめきながら立ち上がると、口元のオイルを手の甲で拭って不敵に笑った。


「フフ……分かっていタよ。魅力的な男性にハいつも恋敵がいルものだってね。心配しないデ、ダーリン。ボクはこんナ清純派黒髪メイドなんかに負ケない!」


 いや、君は一体何と戦っているんだ。


「楓と言ったネ。キミはダーリンと、どんな出会いダったの?」

「どんなって……お嬢様がハリーさんを召喚されて、それが出会いでしたけれど」


 それを聞いたラフィーナが、鼻で笑ってみせた。


「ボクはダーリンに、悪漢から助けテもらったもンね! 力強く手を引いて走ってくレたんだカら!」

「ごふっ」


 今度は楓が、吐血して倒れ込んだ。


「しかモ、か、肩まで抱いテもらったんダよ!」

「そんな事したか……?」

「したヨ! 壁の陰に隠れタ時に! スっごいドキドキしたんだかラ!」

「あー……」


 確かにしたような気がする。グレネード投げる手前か。

 幽鬼のように立ち上がった楓に、胸ぐらを掴まれる。


「したんですね、ハリーさん……?」

「いや待て。兵士的には民間人が助けを求めてきたら手を差し伸べるのが義務であってだな」

「こんな場所に民間人が居るわけないじゃないですか、悪魔しか居ませんよ!」


 ごもっともである。


「やれやれ。傍で聞いていれば随分低レベルな争いね。ここはこのアペルチャイルドが満を持しての参戦といこうかしら」

「お嬢様!?」


 くそ、珍しく静かだと思っていたら、盛り上げるタイミングを図ってやがった。


「アペルチャイルド!? なンでキミがいるの!?」

「あなたが新しいパンフレットを送ってきたから、遊びに来たのよ。他の用事もちょっとあるけど」


 おまけみたいに話すな、そっちが本命だ。


「それはさておき。悪魔ともあろうものが初心な生娘のような会話で盛り上がって、あなた達、恥ずかしくないの? サキュバス達のピロートークなんて聞いたら、今頃腰を抜かしてるわよ」


 確かにアピィは年齢不詳だが、幼女の姿でピロートークなんて単語を喋らないで頂きたい。


「そうはいっテモ、実際ボクは千年間みんなのプリンセス状態だし……」

「私はその……メイド的に不適切な回答な気がしますので、コメントは差し控えさせて頂きます」


 メイドとは一体。


「それに、いくらボクでもアペルチャイルドには負けてナいと思うなぁ。キミのぺったンこな胸じゃ男は喜ばナいよ」

「確かに。お嬢様は目に入れても痛くないくらい可愛らしゅうございますが、それは童女の愛らしさと申しますか……。少々ベクトルが違う気もしますね」


 ここに来て敵同士が手を取り合った。

 アピィというダークホースを、互いに協力して撃退しようというのだ。


「あなた達、本当にお子様ね。レディの魅力と言ったら胸より尻に決まってるでしょう?」

「尻……だト……!?」

「くっ、お嬢様の口から尻だなんて聞きたくなかった……!」


 その前に、レディ達が尻を連呼するな。


「チャームポイントを自らアピールするのは素人にありがちなミステイク。一流のレディは物言わず後ろ姿で語るものよ。ご覧なさい」

「おおー……見えル、見えるよ! スカート越しに、アペルチャイルドの可愛イお尻が!」

「いけませんお嬢様、楓には刺激が強すぎますっ」


 かくして、二人のレディが幼女の尻を凝視するという謎の儀式が目の前に展開された。

 一体何をやってるんだこいつ等は。

 そんな事を考えていると、アピィがくるりとターンを決めて、自分を指差した。


「で、そこで呆れ顔で見てる事の当事者はどう思ってるの?」

「無論、尻だな」


 こちとらアメリカンなので語るまでもない。

 それを聞いた二人のレディの目が、鋭く光る。


「ラフィーナ様……ここは一時休戦といきませんか?」

「……奇遇だネ。ボクもそウ提案しようと思ったトころさ」


 諍いのあった二人が、固く握手を交わす。

 きっと、所変われば胸の熱くなる光景なのだろう。今はまったくならないが。


「お嬢様!」

「アペルチャイルド!」

「ふむ。何かしら?」

「「尻について詳しく教えてください!」」


 レディ達が幼女の尻に深々と頭を下げる。

 畜生。最低な光景だ。


「ふっ、私の教えは厳しいわよ?」

「精一杯頑張ります!」

「ダーリンの為なラ!」

「ならばよし! これにて一件落着!」


 名裁きを思わせる口調で、アピィが高らかに宣言した。

 その様を見届けてから、ふと道端に据え付けられた時計に目をやる。

 パークに入ってから、まだ一時間も経っていない。

 アトラクションに一つも乗っていないのだから当然といえば当然なのだが、既に疲労度が半端ではなかった。


「……遊園地は、俺には向いてないのだろうか」


 灰色の空を仰いで、呟いた。

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