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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第4章 キミは王子様なんだから。
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18話 人工的なスキャンダル

「ラブパ新聞デス! ミスター、今ノ心境ヲオ聞カセクダサイ!」

「割リ込厶ンジャナイ、コッチガ先ダ! 人形日報デス、オ二人ノ馴レ初メヲ是非――」


 大挙して押し寄せる記者風の人形達に囲まれ、ろくに身動きすらできない。

 無数のカメラから眩いほどのフラッシュが焚かれ、思わず目を細めた。

 一体、何故こうなってしまったのか。


「ごめンね、ダーリン。どこかかラ情報が漏れチャったみたい。一体どこで聞きツケたんだろうね」

「さっき思いっきり放送が流れていたんだが」

「うーん、謎だネー。マスコミって怖イねー」


 ジーザス。権力者お得意の知らん振りだ。


「とりあえズ、ダーリンはどうしてイイか分からないだろウし、ボクが何とカするよ。任せテ!」

「……本当に大丈夫なんだろうな?」


 事態が急変し過ぎて、考えがまとまっていないのは確かだ。

 しかし、魔女を自称する隣の少女を信じていいのかどうかも判断に悩む。


「だいジょぶダいじょブ! なにせボクはパークのプリンセスだかラね。こういうノは慣れたもんダよ」

「そこまで言うなら任せるが……。せめて、記者達の前でダーリンと呼ぶのは止めてくれ。誤解を与えかねん」

「はーイ!」


 元気よく返事をして、ラフィーナが記者達の前に進み出た。

 腰に手を当てて毅然と胸を張るその姿は、魔女らしい威厳に満ちているようにも見える。


「ちょットみんな! 今はプライベートなんダから撮影禁止だよ! ほら、散っテ散って!」

「プライベート! ソレハ本当デスカ、ラフィーナ様!」

「独身生活500年超エタ時ニ、プリンセスニプライベートハ要ラヌ宣言シテマシタガ、ソレニツイテ何カ一言!」

「キミ、調整所送りネ」

「アッー」


 ラフィーナがパチンと指を鳴らすと、余計なことを言った人形の足元にぽっかりと穴が空き、深い闇の中に吸い込まれていった。

 その姿を視線で追った記者人形達が、一瞬静まり返る。


「……デ、結局馴レ初メハ何ナノデスカ、ミスター!」

「ラフィーナ様トハドコマデイッタンデスカ、ミスター!」


 沈黙は束の間で、即座に質問攻めが再開された。

 ラフィーナを下手につつくのは危険と判断したのか、ターゲットは完全に俺に向いている。


「こラー! ハニーを困らセるのも駄目に決まっテルでしょ!」

「ハニー! モウ恋人ニナッタオツモリナンデスカ、ラフィーナ様! 些カ性急ナノデハ!?」

「ソウデスヨ! ソレデ172年前ノ時モ、オ相手ノ悪魔ニドン引キサレテ、出会イカラ28分後ニ逃走サレタノヲ忘レタンデスカ!」

「キミも調整所!」

「アッー」


 再び、一体の人形が穴に吸い込まれていった。

 この隣獄では、基本的に魔女の残念感がすごいらしい。

 そうこうしている内に、記者人形の一人がラフィーナの横をすり抜けて、直接俺にマイクを向けてきた。


「ミスター、ブッチャケラフィーナ様ノコトヲドウ思ワレテルンデスカ!?」

「ちょっ、キミ! まだそんナこと聞くノは早いヨ!」

「愛ト笑顔ノ魔女ナノニ、千年間一度モ恋人デキタコトガナイ可哀想ナ主ナンデス! ソノ癖好ミガ煩クテ面倒ナンデ、後生デスカラ貰ッテヤッテクダサイ!」

「やーめーテー! 今度こそボクは慎重にいコうとしてルんだからー!」


 慎重とは程遠い事を既に幾つもやらかしている気がするのだが、どうなんだろう。

 しかし、どう回答すればいいのか――今回の旅の目的であるラフィーナに、悪印象を与えるのは避けたい。

 できるだけ良好な関係を築き、スムーズにシリアルを受けてもらうべきだろう。

 この場を丸く収め、かつラフィーナの好感度も下げないような魔法の言葉……そんなものが果たしてあるのか?


(……リー……ハリー、聞こえる? 今、あなたの頭に直接声を届けてるわ)

(!? アピィ、君か?)

(そうよ。どうやら、案の定ラフィーナのハートを鷲掴みにしてしまったようね。こうなる可能性を考えて、あの奇抜な服をチョイスしてあげてたのに)

(そういう大事な話は、先に言ってくれ……)

(こんな面白そうな話をネタバレするほど、私は腐っちゃいないわ)


 性格が腐ってやがる。


(とにかく、このままじゃ満足に話もできないわ。ここは経験豊富な私に任せなさい)


 どうやってテレパシーを送っているのかは謎だが、心強い言葉だ。

 経験豊富という点に引っ掛かりを覚えるが。

 小さく咳払いし、アピィからのメッセージをそのまま読み上げる。


「オイル味は悪くないけど、コーンだと溶けたときに手のベタベタが半端ないから、カップにすべきだと思う」

「ナンダ、ナンノ話ダ!?」

「ソフトクリームダ、エントランスエリアデ売ッテルヤツ! オ客様カラノクレームダゾ、売リ子ヲ調整所ニ飛バセ!」


 なにやら無関係な人形が巻き込まれてしまった。むごい。

 微細な気配を感じて後ろを振り返ると、緑色の植物の蔦が、いつの間にか後頭部に這い寄っていた。これが声のトリックの正体か。

 その少し遠くで、アピィがお腹を抱えて笑っている。何がしたかったんだ、結局。

 刹那、強烈な殺気に全身が身震いを起こした。

 振り返った方向の逆側の肩が静かに叩かれ、万力のような力で握られる。


「ハリーさん? 入園早々、他所の魔女様と結婚騒ぎとはどういうおつもりで……?」


 声の主を振り返ると、張り付いたような笑顔の楓がそこに立っている。

 馬鹿な。気配どころか、空気の動きすらも感じなかった。

 そして、いくら女性の扱いに疎い俺でも、これは分かる。何故かは知らんが、楓御大は激怒なさっているのだ。


「……サー。違うんだ、聞いてくれ。俺は単に巻き込まれただけで――」

「私、知ってますよ。犯人はみんなそう言うんです」

「犯人って、何のだ!?」


 身に覚えがなさ過ぎる。

 すると、突然楓の表情が和らいだ。


「でも、私とした事が迂闊でした。ちょっと嬉しいことがありましたので、つい気もそぞろになってしまったんです」


 そして、鋭い視線を俺に――ではなく、ラフィーナへと向けた。


「イケメンを遊園地に放つということは、兎をライオンの檻に放つも同意。狩られたくなければ首に縄を掛けておくべきでした」

「え。ボク、そこまデ飢えてるヨうに見られてるノ……?」


 地味にラフィーナがショックを受けている。


「大丈夫デスヨ! ラフィーナ様ノ場合、成功率ガトテモ低イノデ、ドチラカトイエバ虎デス!」

「シカシ、虎デスラ狩リノ成功率ハ10%アルノデハ?」

「成功率0%ダシナァ。看板猫ミタイナモノカナ?」

「オイオイ、猫ナラトックニ良イ悪魔ニ貰ワレテルニ決マッテルダロ」

「「「HAHAHA!」」」


 おお、素晴らしい。


「ナイスジョーク!」


 思わず手を叩いて喝采を送る。

 なかなか皮肉の効いた、素晴らしいアメリカンジョークだ。


「キミ達、全員調整所!」

「「「アッー」」」


 そして、怒りに震えるラフィーナの手によって、ついに全ての記者人形達が穴に吸い込まれて姿を消した。

 最初からこうしておけば良かったんじゃないかと思う。

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