表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第3章 入場パスポートはお持ちですか?
15/62

15話 奇抜とお洒落は紙一重

「ヨウコソ、ラブパレードヘ! 入場パスポートハオ持チデスカ?」

「……いや、無い」

「カシコマリマシタ! 三名様デ、36000Rニナリマス。オ支払イハ如何ナサイマスカ?」


 支払い……そういえば、さっき楓にカードを渡されたのだった。

 真っ赤なあしらいが目に痛い、硬質カードを受付の人形に差し出す。


「……これで大丈夫か?」

「コ、コレハ! レッドガーデンノ超VIPシカ持ツ事ヲ許サレナイトイウ、幻ノクレジットカード――ソノ名モ、レッドカード!」


 受付人形は大仰な素振りで驚いている。

 しかし、個人的には入園直後に即退場させられそうな名称で、不安しかない。


「サゾカシ高名ナ悪魔ノ方トオ見受ケシマス。オ召シ物モ……ナントイウカ、大変個性ニ溢レテイラッシャルヨウデ」

「…………」


 ちらりと後ろを振り向くと、露骨に二人が視線を逸らした。

 おい、ちゃんとこっちを見ろ。


「ソレデハコチラ、三名様分ノパスポートニナリマス。退場ナサルマデ、アトラクションハ乗リ放題、滞在期限モゴザイマセン。我々人形達ノ楽園ラブパレードヲ、心ユクマデゴ堪能クダサイ!」


 ゲートが開放され、係員の人形達が旗を振って見送ってくれる。

 ピエロの格好をした人形が、手にしたバルーンをアピィに差し出した。


「ヤァ、可愛ラシイオ嬢サン! 今日ハ家族デ旅行カナ?」

「わぁ、ありがとう。でも残念ね、この方は私のパパではないのよ。ママはそうしたがってるみたいだけど。ね、ママ?」


 バルーンを受け取ったアピィが、八重歯を覗かせていたずらっぽく笑う。


「まぁこの子ったら! ごめんなさいハロウド伯爵、この子が失礼なことを……」


 それを受けて、いつものメイド服から大人っぽいワインレッドのワンピースにドレスチェンジした楓が、慌てて否定した。


「は、はは……。いや、子供の言うことではないですか、かえ…ではない、メープル夫人」

「くすくす。本当よ、ハロウドのおじさま。ママはいつも、お家でおじさまの事ばかり話しているんだから」


 アピィが言葉を重ねる度に、楓は大げさに焦る演技を披露する。

 ピエロの人形はそれを見て、大いに喜んだ。


「オオット、コレハ素敵ナオ話ダ! 愛ト笑顔ハ、ラブパレードノ命題ソノモノ! 我々一同、全力デソノ愛ヲ応援イタシマショウ!」


 周囲の人形達が賑やかに手を叩き、クラッカーと紙吹雪が乱舞する。

 その歓待ぶりに、アピィは零れんばかりの笑顔で、踊るようにゲートを潜った。

 一方の俺は、作り笑いのし過ぎで瞼が痙攣しかけていた。

 口の中は、濃い目に入れたエスプレッソのような苦味で満たされている。


「ゲスト様ノ行ク先ニ、愛ト笑顔ガ溢レマスヨウニ! ソレデハ、イッテラッシャーイ!」





「着替える」


 エントランスゲートを抜けて一分ほど進んだ所で、俺は決断を口にした。


「えー、何が不満なのよ」


 アピィが頬を膨らませて抗議する。


「全部に決まってるだろう」


 紳士風の燕飛服という所まではいい。

 だが、紅白のボーダー柄というおめでたいカラーリングは、辺りのネオンよりも目が痛い。加えて鳩時計の付いたシルクハットにハート型のサングラスは、やはり頭のおかしい奴判定だったのだ。

 チャップリンを彷彿させる付け髭を力任せに引き剥がし、投げ捨てる。


「大体、何なんだあの意味不明な小芝居は」

「バツイチ同士の不器用な恋愛がテーマよ。ちなみに私は母親の再婚を応援する振りをしつつ、影では実の父親と結託して妨害するという役回りね」


 無駄にダーク過ぎる。


「楓、君は何か言うことはないのか……」


 なんだかんだで、楓も巻き込まれた側だと言える。

 生前の年齢からして、シングルマザー役にはさすがに不満があるのではないか――。


「はぁ~……。お嬢様が私の娘で、ハリーさんが恋人って……。駄目だわ、出てはいけないものが鼻から出そう」


 楓は心ここに在らずといった面持ちだ。

 あの設定のどの辺りで、そんな恍惚感を味わえるのだろうか。


「……二度と君達にコーディネートは頼まないからな」

「構わないわよ。もう満足したし」

「やっぱりわざとか」

「半分はね」


 ……半分?

 その言葉に引っ掛かりを覚えていると、アピィは続けて言った。


「ほら、着替えて来るのでしょう? 待っててあげるから行ってきなさい。――ああ、でも。そのハート型のサングラスだけは、着けておいた方がいいかもしれないわよ」


 敢えて理由が外されたその言葉は、今の自分にはさっぱり理解することができない。

 ただ、アピィが含みのある言い方をする時は、意外と大事な事を言っていることがある。

 本音は捨ててしまいたい所だが、そこだけは従っておくことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ