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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第2章 鼻からきのことか生えればいいのに。
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10話 バイクでGO

 一騒動終え、つんとした態度の楓をどうにか宥めながら、城の外壁に沿って進む。

 やがて視界が開けると、石造りの平屋建てが見えてきた。

 見た目は確かに、ガレージそっくりだ。


「あちらがガレージですよ。お嬢様は――どうやら、既にいらっしゃるみたいですね」


 視線の先には、防風ゴーグルを頭に載せたアピィが仁王立ちしている。

 腰に手を当てて、遠目にもウキウキしているのが分かった。


「遅いわよ、あなた達」

「申し訳ございません、お嬢様。急な来客がございまして」

「知ってるわ、ディアボリカでしょう? あの子が来たら、さすがに私でも気が付くわ」


 そうだろうなと思う。


「たまには顔を見せるようにと、言付かっております」

「ふぅん。確かにしばらく会ってないし、この旅の途中で寄ってあげてもいいけど。あの子、自宅だとやたら話が長いから、あまり気が乗らないわ」


 寂しがり屋のおじいちゃんだ!

 くそっ、何なんだあのギャップだらけのドラゴンは!


「ところで、ハリーはどうしてさっきから悶えているの?」

「あはは……。さぁ、どうしてでしょう?」

「……すまん、俺も初めての経験だ」


 アピィに習うわけではないが、ディアボリカには俺もあまり会いたくない。どうも自分がおかしくなる。

 しばらく深呼吸を続けることで、どうにか平静を取り戻すことができた。


「……ふぅ。ところで、ここには何があるんだ?」


 旅に出るというのだから、乗り物があるのだろうと推測はしているが。


「勿論、バイクよ」


 またアピィがおかしな事を言い出した。

 そっと楓に確認の視線を送る。


「あの……本当ですよ?」

「なんだと」


 バイク――バイク?

 地獄なのに、バイク!?


「……もう駄目だ、訳が分からなくなってきた」

「ああっ、ハリーさんの脳処理が再び限界に!」


 ふらつく身体を、楓が支えてくれる。

 この隣獄というフワッとした世界観を、狭量な自分が言葉で理解するのは無理があったのだ。

 考えるよりも先に、目で見ていった方がいいのかもしれない。


「……よし、分かった。そのバイクを見せてくれ」

「だ、大丈夫でしょうか」

「構わん。兵士がこれしきの事で音を上げていられるか」


 自らを奮い立たせ、両の足でしっかりと大地を踏みしめる。


「さぁ来い!」

「その意気や良し! ならば刮目してご覧なさい! カモン、マイバイク達!」


 アピィが声を掛けると、平屋のドアがひとりでに開いた。

 暗闇のガレージの中から、怪しく光る大きな眼が二つ。

 重厚感のあるしっかりしたフォルムに、コントラストが映える白と黒のツートンカラー。

 唸りを上げる甲高い排気音は、記憶にある四気筒エンジンそのものだった。

 間違いない、これは――!


「バクじゃないか!」


 マシンではなく、アニマルだ。

 計三頭の丸っこいバクが、のそのそとガレージから姿を現した。

 よく見ると、白い部分がそれぞれ微妙に色が違う。


「バイクよ。私がそう名付けたんだもの」


 それを言ったら、何でもありになってしまう。


「でも、この子達すごいんですよ。乗り心地も良いし、足も速いし、鳴き声がバイクっぽいし……」

「ヴオオォォォォンッ!」


 ええい、やかましい。つぶらな瞳で唸りを上げるな。

 どっから出してるんだ、その排気音。


「大体、君は翼があるだろう……。何故飛ばない?」

「でもこれ、付け羽だし」


 畜生、そうだった。


「だったらせめて、箒だ。魔女といえば箒に跨がるものだ」

「あれはお尻が痛くなるから嫌いだわ」

「そうだな、君ならそう言うだろうな!」


 そもそも、アピィと押し問答をして話がまとまるはずがない。


「……よし、これはバイクだ。二輪車? 知らんな」


 俺は思考を放棄した。


「ハリーさん、何も現実逃避しなくても……。この子達、こんなに可愛いじゃないですか」

「可愛いかどうかはさておいて、もう乗れるなら何でもいい」


 重要なのは、俺の精神安定だ。


「あらあら、ハリーったら。思い通りにならないと拗ねるなんて、案外お子様ね」


 もう好きに言ってくれ……。

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