99 厄介事と恨み言
鉄人の日なので初投稿です
サイさんは俺達の間に来るとジロリと睨む。悪い事していなくても人に睨まれるのは緊張するな。元の世界で上司にやたら睨まれていたトラウマだろうか。
「へへ……サイの旦那、誤解ですよ」
「そうそう、俺達こいつらにこの場所のルールって言うのを教えていたんでさあ」
「……と言っているがユート、君は何故彼らと揉めていたのかい?」
「この子をこいつらが掲示板の前でナンパしてたから邪魔だと言っただけだ」
「この子とは、君の後ろに居る女の子の事かね?」
「あぁ」
「君は……ギルドマスターの客人だね」
「えぇ、近くに来たものですから挨拶を、そしたら……」
彼女はおびえた表情でナンパ共を見る。掲示板は入り口近くにある、入ったら速攻で囲まれたと。
「だそうだが、いつから客人をナンパするのが此処のルールになったんだ」
「ひでえっすよ旦那!俺達じゃなくてこんな下級クラスのガキのいう事を信じるんですか?!」
「俺達は中級クラスの4等級っすよ!」
クラスが上がればその分危険な依頼や、ランクの高い迷宮にも潜る事が出来る。人が死ぬような依頼、貴族に会わなければならないような依頼を管理している冒険者ギルドからしても、ランクの高さはそのままどれだけ信用できるかを表している。
「その言い分ならユートは上級クラスの3等級だ、彼の発言の方が信用に足る」
「なッ……?!」
「嘘だろこんなガキが?!」
本当は30超えているんだがこの世界だと17歳位だし間違ってはいない……だが連呼されるといささかあったまってくるな。
「それにお前たちは依頼者からも評判が良くない事は知っている。この前も依頼品の状態が悪くて依頼者が払い戻しを請求しに来たと報告があったぞ」
「あー、アレはですね……そう!依頼の薬草を取ったまではよかったんですよ」
「そうそう、そしたら迷宮主並にヤバイ敵に出くわしまして、命からがら逃げてきたんですよ!」
「お前たちが向かったのは『毒薬の大湿原』だろう。あそこにそんな危険な魔物は居なかったはずだが」
「それが本当に居たんですよ!」
「薬草を採っていたら魔物が大量に逃げてきて、その後にものすごい速さで何かが追ってきたんですって!」
「中級の魔物が逃げるってこたあ少なくとも迷宮主並って事っすよね?下手すりゃ上級クラスですよ!」
「確かにその報告は受けている」
「でしょう!」
「しかしそれは半年も前なうえ、その後の報告も無い。ギルドとしては報告者の見間違いという見解だ」
毒薬の大湿原で半年前と言えば丁度俺達が周回していた時期だな。そんな報告があったのか。
「その頃なら俺達も大湿原にはいたな、どんな報告だったんだ?」
「あぁ、人型の魔物らしき2体が迷宮を高速で走り回っていた、というものだ」
「へえ」
「なんでも聞きなれない鳴き声でまるで歌っていたかのようだった、とあったな」
「へえ……ちなみにどんな声だったんですか?」
「流石にそこまでは聞いていないな、本人たちに聞け分かるかもしれないが、知りたいか?」
「あぁ、いや、そこまではいいです」
関係ないのだが大湿原を周回している時に主までの道のりを歌ってはいた。前の世界に居た時にやっていたDPSのOPだ。途中でアリスも覚えたのか一緒に歌った記憶がある。関係ないのだが。
「とにかく、お前たちはそんなのだからいつまで経っても昇級しないのだ。冒険者の質はそのまま街のギルドの質に直結する……」
サイさんはそのままナンパ共の説教に突入する。俺はどうしたものかと辺りを見回すと件の女の子は居なくなっていた。一体何処に……まあいいか、ギルド長の客人とか言っていたし、目的の場所に行ったのだろう。俺も適当に依頼書を手に取りその場を後にした。
「さてと、次の行き先は『風切りの洞穴』か。何事も起きなければいいけど」
既にギルド長を護衛するという事が起きているのは考えないものとする。
◇◇◇
ここは冒険者ギルドからやや離れた酒場、ギルドに併設された酒場とは打って変わって人相の悪い連中が屯している。
「クソッ、あの筋肉ダルマめ邪魔をしやがって」
「それを言うならあのガキもそうだアイツがいなけりゃ今頃……」
安酒を煽りながら愚痴を言い合っているのは昼間の男たちだ。パーティ名を『餓狼の牙』、3人組ながら中級迷宮を我が物顔で闊歩することのできる実力者だ。
その内の2人がギルドに来ていたのは何か簡単で報酬の美味い依頼が来てないか。もしくは誰かに強奪もらえないか見に来たのだ。その時現れたのがあの少女でありユートが介入したのもそうだった。
「おい、てめえら何キャンキャン吠えてやがる」
「あ、兄貴!」
「お疲れ様です!」
後ろから聞こえてきた男の声を聴き即座に立ち上がる2人。近くの一番まともな椅子を手繰り寄せ、声の主の酒をカウンターに大声で注文する。かなりしつけられているようだ。
件の男は包帯で目と口元以外を隠しており、その素顔は2人とも見た事が無い。しかし圧倒的な強さでこのパーティを中級まで押し上げたのはこの男のおかげだ。
「で、なにを騒いでいたんだ?」
「それがですね……」
男二人から昼間の話を聞く包帯の男。
「ふうん……そのガキの名前はなんだ?」
「確か……ユートって呼ばれてました」
「くくくッ……そうかそうか」
包帯の男はユートの名前を聞き口元をゆがめる様に笑う。
「あ、兄貴?」
「てめえらまさかそこまでコケにされて黙っている気か?」
「そりゃあ……で、でも筋肉ダルマのいう事が本当なら相手は上級クラスっすよ?」
「ふん、そんなもんパーティ全体の評価に過ぎん。ガキ一人ならお前らでも十分に勝機はある……が、どうしてもというなら俺様が計画を立ててやる」
「ホントですか兄貴!」
「兄貴が居るなら怖いもんなんかねえや!」
「分かったならそいつらの動向を調べてこい」
「「はいっす」」
酒を飲み干すと酒場を出ていく2人。
「ようやくお出ましになったな、ユート……」
男は届いた酒を一気に煽ると酒場を後にした。
ここが1000年後の世界かぁ、テンション上がるぜ




