09 クエスト受注
寒くなってきたので初投稿です
俺たちの前に現れたのは筋肉ムキムキのマッチョマンだった。
あまりの筋肉に身構えているとマッチョマンは筋肉満面の笑みを浮かべて手を差し出して来た。
「俺の名前はサイ・ド・チェスト。このギルドでクラン『鋼の肉体』のリーダーをやっている」
「結人だ」
「アリスと申します」
握手しろって事なのだろうか、なんて事ないように握ったがいつ握り潰されないか内心ドキドキだ。
「ユートか、アイツ等を軽くあしらうとは新人とは思えん実力だががどこかのクランに所属していたのか?」
「いや、そもそもクランというものを知らないんだ」
パーティとは違うのか、と考えていたらマッチョが教えてくれた。
「そうなのか?クランっていうのはまあわかりやすく言えば大規模なパーティみたいなもんだな、冒険者ってのは荒事が得意な連中だが依頼がそうとは限らん、そういう時にクランで出来そうな冒険者を集めて依頼に向かわせるのさ」
「依頼の斡旋を冒険者側でやっているのか?それこそギルドの仕事じゃないのか?」
「いや、ギルドは依頼は受けるがそれをギルド側から冒険者に紹介するのはやらねえ、いや出来ねえんだ」
「それはどう言う事なんでしょう?」
なんとなくだが分かったかも。
「あー、あれか。昔紹介して依頼を達成できなかった冒険者がいて依頼元と揉めたとか」
「恥ずかしながらその通りだ。それ以降ギルド側は斡旋することは出来なくなった、しかしそうなると新人冒険者が無茶な依頼を受けて全滅したり貧しい村が出した割りの合わない依頼がいつまでも溜まっていたりしていってギルドが立ち行かなくなってきてしまってな、そんな折に出来たのがクランだ」
「仕事の斡旋を冒険者側でやる事で依頼を受けたのは冒険者の意思であってギルドは関与していないって主張するためか」
「うむ、冒険者側に責任を押し付けたとも取れるが、そもそもギルドが無くなれば困るのは我々冒険者だ、お互いの為にもクラン誕生は必要不可欠だったのさ」
まあ責任問題は出来るだけ回避したいって言うのは分かる話だし、元の世界でもよくある事だ。そうやって社会はどんどん複雑になっていくってわけだなぁ。
「という事で君達を登録する前に採用試験を兼ねた依頼を一つ頼みたい。なに、試験と言ってもちょっと行って帰ってくるだけさ」
ギルドに登録の採用試験か、どんな事をするのだろうか。
「この街を南門から出て西に進んだ森の中に迷宮があるので中の様子を見てきて欲しい」
「迷宮?」
「迷宮といっても少し深い洞窟みたいなモノだ、階層もワンフロアしかない上にモンスターも一番厄介なのがビックバットという子供でも棒切れ一つで攻略できる初級以下のダンジョンだ、報告方法も口頭のみでいい」
「わかった、その試験受けさせてもらおう」
「よし、期限は明日の昼まで、時間は厳守してくれよな!」
「あぁ、じゃあアリス行こうか」
「はい、それでは失礼いたします」
そうとわかれば早速準備だ、まずは武器屋かなあ。
「なるほどなあ、それで兄ちゃん達は武器を買いに来たのか」
「あぁ、だが手持ちが少なくてな、出来れば剣と盾さえあれば良いんだが」
「つってもあの迷宮モドキだろう?そこにあるのを適当に持っていきな」
店主が指差す先にあったのは樽に乱雑に突っ込まれた剣。
一本引き抜いて見ると素人目にも稚拙と分かる造りだった。
「鍛冶師の弟子が作った剣だ。まともに切れるヤツなんざ無いがあそこならそれで十分だろう」
「そんなに簡単なのか?」
「あそこに行くのは冒険者ギルドの依頼だろう?なら説明の時に聞いたんじゃないか」
「子供でも棒切れ一つで行けるってヤツか、比喩じゃないのか」
「それが言葉通りなんだよ。むしろ行くまでの道のりで出てくる野犬の方が強いし全然稼げねえしな」
「それは本当に迷宮なのか?」
「そう言うことで誰も行かなくてモンスターが溢れちまうんだ。だから定期的に新人に入れさせて数を調整してるって話だ」
「つまりその掃除に俺達が選ばれたと?」
「そういうこった。その代わりに報酬が装備一式揃えれる位貰えるから終わってからもう一度来な、良いの揃えてやるからよ」
「分かった、しかしおっさんなんでそんな詳しいんだ?」
「ここは冒険者どもが来る武器屋だぜ?勝手に喋る奴等も多いんだよ」
こんな中世的な世界では仕事内容の秘密なんてザルなんだろうな。
樽に入れられた武器を見るとふと目に入った剣を取る。剣身部分のブレが全くなく他の剣とは明らかに違っていた。
「おっさん、この剣をくれ」
「おお、多少はまともなヤツはあったか……んん?なんだこりゃあ?こんなもん本当にあそこにあったのか?」
「どういうことだ?」
「こいつの出来は確かにいい、良すぎる程だ、こんなのが作れるなら独り立ちしててもおかしくねえ、と言うか俺がほっとかねえ、それなのに銘も彫ってねえし値札も付いてねえとはどういうこった」
「なんでそんなのがあるんだよ」
「俺が知りてえくらいだ、しかし柄の造りが雑だな革紐がぐちゃぐちゃじゃねえか」
おっさんが握りの革紐を解くと手早く編み込んでいく。あっという間に綺麗に編み込まれた握りが出来た。
「ほら、値段はそこのヤツと一緒で銅貨10枚でいいぞ」
「いいのか?」
「かまわねえよ、誰が置いてったか知らんがソコにあるって事は腕前を広める為だろうし。名前も彫らない間抜けだがな」
「それなら、有りがたく使わせてもらおう」
その後、盾も一緒に購入し、それらしく格好がついたので早速目的地のダンジョンに向かって進みだした。
「アリス、1つ聞きたいんだが」
「なんでございましょうか」
「迷宮の事を教えて欲しい」
聞くタイミングを逃した。
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