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それはよくある異世界転生  作者: 乙屋敷


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86 対話

円周率の日なので初投稿です

「このまま放っておいてくれ、か……」


 手のひらに文字を書いて意思疎通を試みたら返事がこれか、一体どういう悪夢を見せられたら放っておいてになるんだ。もしかして悪夢以外にも覚めたくない系の夢も見せてくれるのだろうか。俺もそっちがよかった。


「じゃなくて、流石にそんな訳にも行くまい」


 どれだけ都合のいい夢だろうが夢は夢だ、しかも敵対している魔物が見せる夢なんて碌なことにならない。居心地がどれだけ良くても出てきてもらわないとソフィーの命に係わるからな。


「とは言え流石に文字を書いていくのは時間がかかる、何か手は無いか?」


 この被り物を貫通して中に声が聞こえればいいのだけどそもそもこれ何で出来ているんだ?そっと触れてみる。


「なんだこれ、俺は確かにこの被り物を掴んでいる。なのに触った感覚が無い」


 確かに今目の前のモノを掴んでいる、それは間違いない、しかし手のひらには何も感じない。球体に沿って手を添えているだけの様な感覚になる。視覚と感覚が食い違って気持ち悪い。


「外部からの力を無効化してるのか?」


 そうだとするなら視覚も聴覚も全部塞がれているので外から声掛けしても意味は無いだろう。しかし手のひらでの文通は出来たのだから身体の感覚は無効化されていないのだろう。ならそこから何か出来るはずだ。


「身体から声を届けられればいいんだが、声……音、振動……振動?」


 人間の耳は音の振動を鼓膜が拾って内耳がその振動を音として感知するのだ。つまり内耳を揺らせば音として認識できるはずだ。骨伝導が確かそんな原理だったはず。


「身体を伝って音を届ければこの被り物を無視して声を伝える事が出来る……かもしれない」


 知識として知っていてもどういう振動を伝えればいいとかは分からないけどそこは魔力の万能性と想像(イメージ)でゴリ押すしかねえ。とにかくソフィーに声を届けるというイメージをしっかりと持てば何とかなると思いたい。


「いくぞ……『ソフィー、聞こえるか。置いていくなんてそんなこと出来るわけないだろ。必ず助けるから、だから顔を上げてくれ』」


 ソフィーが俺の手のひらに文字を書いていく。


「ダメだよ。ここはボクが壊してしまったボクの思い出だ。ここをまた壊すなんて出来ない」

「それは迷宮主の見せる幻だ」

「それでも、これは僕の夢見た世界なんだ」

「ソフィー、確かに心地の良い夢はいつまでも見続けたいと思うのは当たり前だ、でもそこが理想でも夢である事を君は知ってしまっている、その幸福は閉じたままだ」

「閉じたまま……?」


 幸福な夢はどれだけ見たところで妄想に過ぎない、妄想自体を否定するつもりは無い。だがそこに閉じこもるのはあまりにも孤独だ。


「そんなのは絶対に許せない。ソフィーが見る夢はそこじゃない」

「ボクが……見る夢?」

「こういういい方は陳腐だが……夢は見るものでは無くて叶えるものだ」

「目の前に見える景色がどういうものなのか俺には分からない。でもそれがソフィーの夢ならば魔物に作られたものであっていいはずがない」

「でも、ボクにはもうこの景色を作る事は出来ないんだよ……?」

「一人で出来ない事は皆で作ればいいじゃないか」

「みんな……」

「俺がいて、アリスがいて、クレアがいる。クー助もいる」

「……」

「俺達だけじゃ不安か?なら……」

「ううん、そんなことない……みんなが居るなら、出来るかもね」


 ソフィーが顔を上げる。おかげで制御装置と思われる水晶が見えるようになった。


「動くなよ……ッ!」


 剣を振り抜き水晶を割る。水晶は地面に落ちて砕け、頭を覆っていた謎の物体は宙に溶けて消えた。


「よ、目が覚めたか?」

「おかげさまでね……ねえ、さっきの言葉」

「おう、ソフィーの夢、俺に手伝わせてくれよ」

「うん……その時が来たらね」


これで全員の被り物は剥がした、あとは球体に戻ったままの迷宮主(ダンジョンボス)を倒すだけだ。

球体が震え最初の時のように花咲くように開いていき、花弁の一つ一つが竜の頭に変化していく。


「へっ最初の時と一緒たあ芸がないじゃないか」

「いや、何か様子が変じゃ」


確かに、よく見れば竜の頭が上下逆になっている。それに手足が生えてくる様子も無い。するとさらに変化が訪れた。

竜の頭が生えた球体が縦回転を始め頭が下に移った。頭が上下逆になっていたのもこれなら頷ける。そこに球体にコウモリの羽が生え禍々しい瞳が8つ見開いた。


『ーーーー!!!』


「何あれヤバくない?」

「今までとは明らかに雰囲気が違いますね」

「最終形態ってことか」


しかし宙に浮いてるとなると攻撃手段が限られてくるな。


「おい『竜殺し』そっちの遠隔攻撃は弓と魔法以外に……ってどうした?」

「どうした、だって?お前あれを見てなんとも思わねえのか!」

「なんともって……触手が竜の蛸……かな」


しかもあのコウモリの羽の小ささや、首と首の間に水掻きのような膜があるので蛸は蛸でもメンダコに見える。


「そうだよタコだよ!あの魔海獣(ポリュプース)と言われてる海の災厄だ!」

「え、何それ」

「大地を喰らうモノと言われてる大昔に暴れた海の魔物さ。当時の勇者によって封印されたと聞いていたけどまさかその場所がこことはね……封印していた場所が偶然にも迷宮化したの?それともこいつの魔力で迷宮にしたのか?実に研究しがいがある」


そんなにヤバいやつなのか。


「くそ、こんな事なら外で魔物狩りしてれば良かったぜ」

「今更そんなこと言ってもしょうがないじゃない、とにかく逃げるわよ!」

「こんなの俺達の手に負える相手じゃない、撤退だ!」


『竜殺し』はどうやら逃げる算段のようだ。


「だって、ボク達も逃げるかい」

「戦うぞ」

「本気?相手は大昔の厄災って言われてた魔物なのよ!」

「コレを倒さなきゃ海神祭の優勝は無理だ。魔神だろうがなんだろうが迷宮の魔物なら倒せないことはない」

「そんな……」

「倒すというのなら構わないよ、君達となら出来るだろうし」

「ご主人様の仰せのままに」

「あんた達まで……もう!どうなっても知らないわよ!」

「キュー!」


全員の覚悟は決まったようだ。どれ、覚悟しろよタコ野郎。たこ焼きにしてやるぜ。

クロブたのしい

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