85 幻想に囚われし少女
サウナの日なので初投稿です
結論から言えば幻でした。アリス達から責め立てられたときは精神的にヤバかったけど途中から親とか会社の上司とか出てきた時点で流石に気付くよね。なんで居るねん。
「さて、これが迷宮主の攻撃だとして突破方法が何なのか分からねえのが厄介だなあ」
これが幻を見せるタイプか悪夢を見せるタイプなのか分からないので対処方法が分からない。
「悪夢系ならそれこそ首でも切れば起きるかもしれないけど、幻術系ならやったら死ぬしなあ」
「きゅーい!」
「この声は、クー助!っておわぁ!」
クー助の鳴き声と共に目の前の空間に白いとげが生えてきた。
「え、なにこれ怖い怖い」
「ぎゅい〜」
「クー助?それにこのとげの生え方、もしかしてこれ牙か?」
「い!」
ブチブチと何かを引きちぎる音を立てながら牙が目の前の空間を食い千切る。開いた穴から見えた空間は先ほどまで俺達が戦っていた主部屋だった。
食い千切られた空間は次第に大きく……否、俺の頭を覆っていた何かが霧散していく。
どうやら俺はクー助に押し倒されるような姿勢だったらしい。
「ありがとうクー助、助かったよ」
「きゅ〜!」
辺りを見回せば全員の頭が黒い球体に覆われていた。ブ○オンかよ。
「あの黒い球体がさっきの幻を見せてたって事なのか?VRゴーグルみたいに」
クー助が俺にやった感じで球体を剥がせばいいのか?とは言え全員あの被り物に悪夢を見せられているのか暴れ回ったり、うずくまって頭を抱えている者もいる。座っている連中は簡単だけど問題は悪夢と戦って暴れている方だ、広い空間とは言え暴れている者同士ぶつかり合ったり足元の座ってる連中に躓いて転んだりしたら大変だ。
「先に座り込んでる奴等を起こしてから暴れてる連中を止めるか」
「きゅい!」
部屋の中央に鎮座する球体は俺の被り物が破れても微動だにしない、理由は分からないが動かないなら好都合だ。全員起こしてしまおう。
まずは俺の近くでへたり込んでいたアリスだ、見せられている悪夢のせいなのか身体が震えている。抱きしめてあげたいがまずはこの被り物をどうにかしないとな。よく観察するとクリスタルの様な物が1つ張り付いている。
「魔石……か?クー助、これって俺のにもついていたか?」
「きゅい」
クー助が勢い良く返事をする。多分イエスだろう、他の面子を観察すると確かに全員の被り物にもついているのが分かった。となるとこれは電池か回路、もしくはその両方の機能を果たしている可能性がある。こんな分かりやすい所に弱点を置くのかと考えたけど、全員が被って見えないのならそれは隠してあるのと一緒か。
「これが効かないという想定はしてなかったのか、効かないクー助が想定外なのか、まあそれは今はどうでもいい」
剣で振り抜き魔石を砕く、すると悲鳴のような音を立てながら光の粒になって消えた。
「もしかして魔物だったのか?だったら魔石剥がせば売れるかな?」
「……ご主人様?」
「あぁ、結人だ」
「ご主人様!」
「おっと」
アリスが泣きながら俺に抱き着く。倒れない様に踏ん張りはしたけど尻もちをついてしまった。
「ご主人様ご主人様ご主人様!」
「おーよしよし、大丈夫大丈夫、もう悪夢を見せる原因は取り払ったからな」
「ご主人様、ワタシの、アリスのせいで不幸にならないでください。アリスのせいで死なないでください。アリスのせいで負けないでください。アリスの、アリスを……捨てないでください」
「……大丈夫、大丈夫だよ。俺はアリスのおかげで幸せだし、アリスのおかげで死にそうにないし、アリスのおかげで勝つし、アリスを絶対に捨てたりしないよ」
全く、アリスをこんな目に合わせるなんて迷宮主絶対に許さねえぞ。
しばらくして、悪夢のせいで混乱していた頭が落ち着いたのか、アリスは顔を赤らめながらそっと身体を離した。
「も、申し訳ありません、少々混乱しておりまして、あの……捨てて欲しくないとかではなくてですね、ワタシがご主人様の邪魔になるようでしたら、その時はちゃんと自ら離れますので……」
「アリスが邪魔になる時なんて絶対に無いよ。むしろ一生一緒に居て欲しい位だ」
「はぅ……ご主人様……」
「だから居なくならないでくれよ」
なんか昔ラッパーか誰かがそんな歌詞を謳っていた気がする。
その後クレアの被り物も魔石を壊して外した。外した瞬間に泣き笑うクレアが見えた時ちょっと怖かったのは黙っておこう。
クー助は這いつくばって出口に向かっていた魔術師と野伏の被り物を食い破っていた。見る角度次第では頭食べてるように見えて心臓に悪いな。
「アリス、あそこで闇雲に武器振り回してる鉱人と向こうのパーティリーダーを助けてやってくれないか」
「かしこまりました」
アリスが二人に駆け寄っていく俺は残ったソフィーの前に立つ。彼女は膝を抱えたまま座って微動だにしない。顔を伏せているから魔石が狙えないのでどうにか顔を上げてもらわないとな。
「ソフィー、大丈夫か?」
「っ!」
肩に手を置くとおびえた様に身を縮こませて小さくなってしまう。これどうしたらいいかな。
そもそもこの被り物のせいで目と耳が塞がれているので伝える事が出来ない。
「何か伝える手段があれば……そうだ」
◇◇◇
「どうしたんだいソフィー、泣いているのかい?」
大丈夫ですお父さま。
「ソフィー、どうしたの?どこか具合でも悪いの?」
なんでもないんですお母さま。
「あぁソフィー、僕の可愛い妹よ。そんな悲しい顔をしないでおくれ」
悲しくなんてありませんよお兄さま。
優しいお父さまと穏やかなお母さま、あの事件が起きる前のお兄さま。あぁ、ここはなんて……なんて地獄だろうか。
これが幻覚だと分かっている、きっと迷宮主の攻撃なのだろう。
この幻覚を破る術を見つけなくては。
この夢から目覚める術を探さなくては。
ここから出る術を考えなくては。
出来るはずがない。
ここはボクの理想だ。ここはボクが夢見た家族の姿だ。ここではお父さまはボクを無視しなくて、お母さまは癇癪を起すことも無くて、お兄さまとはいつまでも仲良しのままだ。
どうしてそれを壊す事が出来ようか。ボクが壊してしまったこの場所を。
「……なに?」
手に何かが触れる。いや、触られている?誰かがこの魔術に介入しているのか?
手のひらをなぞられる感覚がする、これは文字?
「た、すけに、きた、ぞ、か、おを、あ、げ、てく、れ」
誰かこの魔術を破って皆を助けているのか……きっとユートなのだろう。彼はボクと違って強いからな。
文字を書いていた指を捕まえて手のひらを探る。ユートも意図に気が付いたのか自分の手のひらまで誘導してくれた。
「ありがとう、でもすまないけどこのまま放っておいてくれ」
彼の手のひらにそう書いていく。ボクはこの地獄で生きていきたい。だから——
『そんなこと出来るわけないだろ!』
「ひあっ!?」
この地獄で聞こえるはずのない声が頭の中に響いた
ウマ楽しい




