08 館内はお静かに
台風一過なので初投稿です
なんやかんやで異世界に転生して1ヶ月が経過した。
街の地理と雰囲気は掴んできたがここに来て問題に直面した。
具体的には資金繰りが厳しい、簡単に言えばお金がない。
それも収入源がアリスのバイト代しか無いからと言うのが一番大きい。
俺も働こうとミーナに聞いたところ、
「ユートさんって、市民権もってましたっけ?この街で働こうとすると市民権を持ってないといけないんですよ」
とのこと、しかもその市民権を取得するには役所から買うしかないのだが無茶苦茶高い、しかし市民権を買うには働かなくてはいけない、ならば市民権が無くても働ける先を探すしかないのである。
そういうわけで、市民権が無い者が仕事を貰う場所と言ったらここしかない。というか異世界に来たらまずここに来るべきだった。
「異世界と言ったらやっぱり冒険者ギルドだよな」
目の前には剣と羽が描かれた看板を掲げる建物、冒険者ギルドの建物だ。
この世界の識字率はかなり低いので看板に描かれた絵で判断する事が多い。
俺も神様のお陰で聴くことと喋ることは出来るが読み書きは習い中だ。
「ユート様、やはりワタシがもっと働きますから無理に働かなくても……」
「それは勘違いだアリス、俺は働くつもりはない」
「ではなぜここに?」
「俺は働くことは嫌いだがお金を稼ぐ事と冒険は大好きなんだ。前に住んでいた場所でも魔獣狩人として毎日戦っていたほどだ」
「魔獣と、毎日……!」
ゲームの中でだか。
「魔獣と戦うのはもはや趣味と言ってもいい、つまり冒険する事は趣味で遊び。なのでこれは労働ではない」
「そうでしょうか……」
「そうだよ」
断言する、こういうのは勢いが大切。そのままギルドの扉を開く、吹き抜けの玄関はすぐ右手にカウンターがあり女性が厳つい男たちと何やら会話をしている。
左側はテーブルが並んでおり酒場のような感じになっていた。
もっと人が居るかと思ったが閑散としていた。
「日が昇ってから大分経ちますし依頼を受けた冒険者さん方はもう出かけたかと」
「そりゃあそうか、じゃあ登録しておくか」
この街は基本的に日の出と共に動き出す、地平線から太陽が離れてから起きるのは金持ちか貴族と言われている。
カウンターに居るお姉さん二人の内男たちの相手をしていない方に向かう。
「お姉さん、冒険者登録したいんだが今大丈夫?」
「はい、大丈夫です……お二人ですか?」
「はい、ワタシも登録します」
「あぁ、二人分頼むよ」
お姉さんはアリスを見て怪訝な顔をする、まあ年端もいかない子がこんな場所に来るなんてよっぽどの事情だろうと思っても仕方がない。
しかしこれは前日に決まったことで、俺が冒険者になるならアリスも一緒になると言って聞かなかった、なんでも村にいた時は大人と一緒に狩りをしていたので足手纏いにはならないとは本人の談だ。
「ではこちらの用紙に記入をして下さい。文字は書けますか?」
「ワタシが書けます」
「ではこちらに名前と年齢、出身地をお願いします」
「それだけでいいの?」
「これらの情報はあなた方が死んだ時にご家族に伝える時に必要ですので」
「……なるほど」
冒険者は死がかなり近い職業なのだろう、安全な街からでて襲ってくるモンスターと戦うのだから当然と言えば当然だ。
「オイオイオイ、ここはガキの来るとこじゃあねえぞ」
「大人しく家に帰って手伝いでもするんだな!」
「ギャハハハ!」
うわ、となりの集団が急にこっちに絡んできた。本当にこんなやつ居るんだ。
「ナンだぁ?ビビって声も出ねえのか?」
「いや、馬鹿みたいな連中に絡まれるってお約束な展開にちょっと感動すらしてる所だ。」
「ンだとこのガキ……!」
チンピラAが俺の言い草にキレたらしく拳を振り上げてきた、ヤバ。
スパンッ
と迫ってきた拳が軽快な音と共に真上に掲げあげられる。
アリスが拳に合わせて蹴りをかましたのだ。
「……あ?」
「お?」
アリスは呆気に取られてるチンピラを軽快に登って頭の上で逆立ちする。そのまま身体を倒しながら膝を顔面に叩き込んだ。
全体重と重力加速度の勢いをつけた膝蹴りをモロに食らったチンピラは一撃で沈んだ
「名前は知らないけどカッコイイ膝蹴り……!」
「このガキ!」
「やりやがったな!」
チンピラAがやられた事によりBとCも襲いかかってきた。
捕まえようとするBの頭を踏み台にして殴りかかってきたCの股下をくぐり抜けたりと一向に捕まる気配はない。
「あの子凄いですね」
「そうでしょう?俺も今知りました」
「は?」
だって今まで戦闘する場面無かったもんで。
とチンピラB?いやCか?がこちらに向いた。
現状ケンカしているのはアリスだが事の発端はAが俺の発言で襲いかかってきた事だ。つまり
「テメエもぶっ飛ばしてやる!」
「まあこっちにも来るよね」
「ユート様!」
殴りかかってくるチンピラに対して一歩下がって身体を反らす、拳は顔の目の前を通っていくがそれに手を添えて肘を外側から掴んで投げる。
「ぐぁっ!」
「あっぶねえ、酒場の飲んだくれから教わった事が役に立つなんて」
「ユート様大丈夫ですか?!」
仲間が二人やられた事に残りのチンピラがたじろぐ。
「て、テメエらナニモンだ!」
「ただの冒険者志望だが?」
「その従者でございます」
「クソっ覚えてろよ!」
捨て台詞と共に扉から出て行こうとするチンピラの足をアリスが先回りして引っ掛ける。
「そういうのは困るからお前の記憶から消す事にしよう」
「はい、それがよろしいかと」
「な、ちょっ待てギャアアアアアアアアアア」
「はい、これでいいか?」
「え、えぇ、問題ありません。少々お待ちください」
アリスに書いてもらった二人分の書類をカウンターのお姉さんに渡す。
俺の出身地はアリスの故郷と同じにしておいた。年齢は前の年齢を書いても怪しまれるだけだし、見た目が高校生くらいなのでこの世界で成人となる16歳にした。
「これであとはギルドカードを貰うだけだな」
「はい、何事もなく済んで良かったです」
「ハハハハハ」
「ウフフフフ」
「おう、オメエらが今さっきここでドンチャン騒ぎしてたヤンチャ共か?」
ですよねー。
アイスボーン楽しい