79 お披露目
ゴールドラッシュの日なので初投稿です
実は海帝都市の事は前世で知っている。アレは確かサービス開始2年目の夏イベで海底遺跡の迷宮に迷い込んだ主人公達が脱出を試みるシナリオだ。
そこに出てくるラスボスこそがこのイダー・ヤーであり、新仕様によるボス……つまり運営が調整を失敗して炎上し、僅か3時間で弱体化され一瞬で倒されるクソザコになってしまった悲しき魔物である。
「調整前が硬すぎたんだよな。当時の廃人連中が討伐するのに時間制限ギリギリかかるって言ってたくらいだし」
「なんの話だい?」
「いや、なんでもない。コイツの情報をまとめると腹から無限に出てくる雑魚魔物を制限時間まで耐えるしか無い」
「そんなの待つ前に倒しちゃえばいいじゃない」
「実はそうもいかないんだよ、見てろ……『火球』!」
出てきてから一歩も動いていない……そもそも足どこだ?イダー・ヤーに向かって魔術を放つ。放物線を描くように上に向かって発射したので直撃するはずだ。
『———ッ!!!』
イダー・ヤーが甲高い声を上げると宙を泳いでいた魚型魔物が火球へ殺到していく。そして文字通り肉壁となって母親を守ったのだ。
「と、このように産んだ魔物を盾にしてくるので遠距離からの攻撃は無効化されるんだ」
「ではどうやって雷魔術を当てるつもりなんだい」
「雷って言うのは自然界で最速の現象なんだ。その速度はおよそ光の速度の半分」
本当は先駆放電とか先行放電とかあるんだけど時間も無いので無視する。
「光に速さなんてあるの?」
「あるぞ。秒速約30万km、この世界を1秒間に7往復半する速度になる」
「なるほど、魔物が守る前に攻撃を当てようって事かい」
「その通り。そして当てる為の目標にするのがアリスに渡した短剣だ」
水が高い所から低い所に流れるように電流も抵抗の低い所に向かって流れていく。より近くの場所、より電気が通りやすい物質に雷は落ちる。つまりこの空間で一番空に近い階層主に短剣をぶっ刺す事で絶対不可避の攻撃を当て続ける。
「第一段階はアリスの援護だ。雑魚魔物を散らして道を作る」
「分かった。その役目はボクがやるよ。君は雷魔術の準備を」
「頼む、クレアは悪いけどそのまま防御に徹して欲しい」
「あたし攻撃系の魔術使えないし、この程度の魔物ならいくら束になっても破る事なんて出来ないわよ」
頼もしい言葉だ、確か設定だと1万匹以上いるらしいから頑張ってほしい。
こちらも準備を開始する、この主空間はかなり広く天井も高い、これならかなり巨大な雷雲を作る事が出来るだろう。周りの海水から雲を精製して天井を覆う。雲は段々と分厚くなっていきながら渦を巻く。やがてゴロゴロと嘶く雷雲に変わり始めた。ここからはどれだけ雲を精製しながら濃度を上げていけるか。
「相変わらず君の雷魔術は凄いな……ボクも援護を始めるとするか、『父なる大地よ、災禍を阻む守護者を我が眼前に、大地槍』!」
ソフィーが詠唱を唱えたら地面から俺の土石槍とは比べ物にならない大きさと物量の石槍が魔物に襲い掛かる。というかこのままいくとアリスの居るところも危なくないか?
「アリス飛んで!」
「ッ!」
俺の言葉にアリスは跳躍しその直後に地面からの槍衾が魔物を串刺し、もしくは石槍同士に挟まれてすり身を生成していく。
アリスは石槍の一本を踏み台にして更に高く跳躍した。
「アリス君の身体能力は目を見張るものがあるねえ」
「このバカ!刺さったらどうするつもりだったのよ!」
「あた、いいじゃないか結果として魔物の数を減らしつつアリス君の援護が出来ているんだから」
ソフィーの頭をクレアが引っぱたく。俺としても今のは心臓に悪いのでやらないで欲しい。
「ふむ、確かにこれ以上の援護は距離的に難しいし、今度は防御に専念しようか『父なる大地よ、その熱き血潮で敵を焼き焦がせ、溶岩噴出』」
今度は地面から溶岩が噴き出し足のある半魚人系の魔物達を焼き尽くした。
石槍の壁に床一面の溶岩、これで4割近くの魔物を防衛出来ている。残りは空を泳いでいる魚系の魔物だ。それも火球で撃ち落としていく。ここまでにたどり着くのは一割にも満たない。それもクレアの防御結界で攻撃も出来ない状況だ。
「ソフィーって今まで火系と土系しか使っていないけどもしかしてその二つが自己属性なのか?」
「いや、光系も使えるよ。『聖なる光よ、闇夜を照らし、我が道を示せ、光』」
呪文を唱えると杖の先に光の玉が現れた。玉は段々と輝きを増していき光線が飛び出し、光線が横に線を描くと魔物達は真っ二つに切断された。
「えぐ……」
「昔映画で見たなこれ」
侵入者を阻むトラップで最後に網目レーザーで細切れにされるヤツ。
しかしこれで辺りに居た魔物が一掃されて良く見えるようになった。
『———ッ!!!』
イダー・ヤーの叫ぶ声が聞こえた、見てみるとアリスが腹の上に立って渡したナイフを突き立てていた。
アリスはすぐさまこちらに向かってきており、イダー・ヤーは刺されたナイフを抜き取ろうと必死に身体を曲げ手を伸ばしているがギリギリ届かないらしく苦戦していた。
「よし、アリスが戻って来たら雷魔術を発動する。ソフィー、アリスに足場を作ってくれ」
「わかった『土石槍』」
ソフィーが石槍で足場を作っている間に俺は最後の仕上げを準備する。
巨大に成長した雲は渦を巻き始める、更に雲を作りながら渦の速度を上げる。雲は次第に真っ黒になり取りこぼした雲が雨になって降り始める。
雲の生成と撹拌を同時にこなしているせいか部屋全体の魔素が揺らぎ、意図しない動きが大きくなってきた。この大雨もその一つだ。
「ぐぅ……『母なる海から舞い上がる水精よ、廻り廻れ、その身に神の力を満たせ、そして雷帝たる戦神よ、その戦槌を振るいて神の力を脆弱たる人に貸し与えたまえ……』」
口から勝手に言葉が溢れてくる。これは呪文か?言葉を重ねる度に魔力の制御がしやすくなってきた。
なるほど、呪文の詠唱は魔術の安定性を向上させる役割もあるのか。
「ただいま戻りました」
アリスが土石槍を足場にして戻ってきた。なら俺も決めなきゃな。
「『雷帝の鉄槌よここに顕現せよ、雷帝戦槌』!!!」
渦巻く雲の中心に光が集まると、特大の雷がイダー・ヤーを襲った。
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