73 下見
あと2日なので初投稿です
日が暮れて幾分が過ぎ、感覚的にそろそろ日付けが変わろうとする頃、俺は浜辺に来ていた。
港から少し離れたところにあるここは昼間は海水浴場の客で賑わい夕日が沈み星空が見え始めると恋人たちのデートスポットに変わる。今は宿泊施設に戻ってベッドの上で愛を囁き合っている頃合いか。
「ご主人様、戻りました」
「お疲れ様、様子はどうだった?」
「生徒会長は交遊会を開いておりました。話を盗み聞きしたところどうやら相手はこの町の町長でした」
事前に何か根回しをしているって事か?町長が将来の領主にご機嫌取りをしているかも。まあ妹の論文を握り潰すような奴だ、何か妨害行為をしてくるかもしれないな、例えば抽選を操作して俺達が苦戦しそうな主を選ばせるとか。足元に転がってるごろつきをけしかけてくるとか。
「この足元でお眠りになっている方達はどうしたのでしょうか?」
「さあ?酔っ払いじゃないかな。ところで気付いてるか?」
「はい、ワタシ達の後ろ、建物の屋上でしょうか……2人と1匹います」
そっちが本命だな。監視か、再起不能にして踏破に参加させない算段だろうか。1匹と言うことは1人は従魔師かな、アリスの肩を抱いて小声で囁く。
「もっと人目の付かない所に行こう。あっちに小さな小屋がある」
「ふぇ……はい、わかりました」
何今のリアクション、どう反応すればいいのか困る。まあそんな雰囲気で行った方が相手も油断するかもしれないしこのまま行こう。アリスの肩にあった手を腰に手を回して歩いていく。……なんかアリス、距離を離そうとしてない?
「アリス、もっとこっちに寄って、身体を俺に預ける感じで」
「し、しかし……いいのでしょうか」
「いいって、むしろ離れて歩いている方が不自然だし、この歩き方、離れられると逆に歩きにくい」
「で、では失礼します……」
おずおずと近付いてきて最後には身体をピッタリくっ付けた。腰に回した手でぐっと引き寄せる。アリスはどこに手を置けばいいのか分からず右往左往した後、祈る様に両手を握った。
町から少し離れ、小さな桟橋と小屋のある場所までたどり着いた近くに建物が無くなったので尾行している奴等も道の物陰に隠れている。
アリスを引き連れて小屋に入る。扉を閉めた瞬間近付いてくる前に窓を素早く開けて外に出る。遠くから足音が聞こえてきて扉の前で止まった。アリスに目で合図して俺は横から、アリスは音も無く小屋の屋根に登り上から襲い掛かった。
「動くな、誰の差し金だ……て、クレア?」
「ご主人様、こちらソフィー様です」
「2人ともこんなところで何してるんだ」
「何してるんだ、じゃないわよあんた達が二人っきりでどこかに行くからもしかしてと思って……」
「もしかしてって何がもしかしてなんだよ」
「それは……もちろん……」
クレアの言葉が段々尻つぼみしていく。最後の方は口パクレベルで声が出ていなかった。
「すまないがもう少しはっきり喋ってくれ、最後ちゃんと聞き取れなかった」
「〜〜〜!!もういいわよ!とにかくあんた達はここで何しようとしてたのよ」
思いっきり耳に大声をぶち当てられた。耳がキーンとする。
「何って生徒会長と迷宮の偵察だよ、生徒会長の方はなんか色々やってそうだけど」
「……お兄様」
「まえから思ってたんだけど、ソフィーは生徒会長……お兄さんの事をどう思っているんだい?」
「お兄様は、昔は優しかったんだ……いつもボクの手を引いて遊んでくれてたんだ。でも僕が5歳の頃から急に態度が変わって……」
「その時何があったんだ?」
「お兄様から内緒で魔術を教えて貰った、初めてだったし、お兄様もまだ着火しかできなかった頃だけど、ボクは火球が出せてしまった」
5歳が初めての魔術で火球を出せるとか才能の塊かよ。
「庭が焼け、使用人たちが駆けつけて火を消し止めた。周りの大人たちは兄様が魔術を出したのだと大騒ぎした。稀代の大天才と囃し立てる人もいたよ。そこから兄様は段々と今のようになっていったんだ」
あー、認識歪めちゃった系かな?周りの大人が言うんだから自分がやったみたいな。あそこまで酷くなったのなら無理やり治すと良い方向にするには限りなく気を付けた方がいいかもしれない。最悪死人が出る。
向こうが先に手を出してきたのなら遠慮することは無い、迷宮踏破に出来そうなことは全部やっておこう。
「結局ここで何しようとしてたのよ」
「ちょっとした実験と、成功したらそのまま迷宮を調べに行こうかなって」
「こんな真っ暗な海で実験とはいったい何をするんだい?」
「迷宮に行くって、まさかこの真っ暗な海に潜ろうって言うんじゃないでしょうね?」
残念ながらそのまさかなんだ。桟橋に括り付けられていた小舟に乗り込み、鎧と武器と上着を脱ぐ。流石に下を女の子の前で脱ぐ勇気は無かった。ここに来る前に買ったロープを身体に巻き付けた。
「とりあえず俺が一人で試してみる、このロープを持っていてくれ。失敗したら2回引くから俺を引き上げて欲しい」
「ワタシも同行します」
「ダメだ、危険なんだから」
「それはご主人様も同じです」
「だからアリスにここに残って助けて欲しいんだ。こんなこと頼めるのはアリス達以外に居ない」
「ご主人様……分かりました」
「ほんっと、しょうがないわね」
「ボクはあまり力になれそうにないけど、クーちゃんが頑張るって」
「きゅい!」
なんとも頼もしい発言だ。小舟を桟橋から少し離す。
水に潜るとなると潜水服だろうか、それだと人数分用意しないといけないからもっと大きな、それこそこの小舟分くらいの……潜水艦?
「違うな、もっとファンタジーな感じでいいんだ。こう、海の中に沈んでいく……泡、泡だな。名前は、『潜航泡』」
水面から海水がせりあがってきて小舟を球体状に囲んでいき、すっぽりと包まれると少しずつ沈んでいくき、しばらくすると海底に着いたらしく下に降りなくなった。
「真っ暗で何も見えないな……」
ただでさえ光の届かない海底に真夜中に来ているのだから当然である。光玉の生活魔術を使って明かりを灯すと底の砂地以外は1m先も見えない暗闇が広がっていた。潜航泡の様子を見ても海水が侵入してくる様子はない。これなら大丈夫そうだ、全員を連れて迷宮《海帝都市》に向かおう。
ゆくくる




