45 人生の分岐点
二千円札の日なので初投稿です
「ちょっとあんた、急に抱き着かないで、よ!」
ユートを押し返すとそのままだらりと伏してしまった。
「え……?」
彼の背中には無数の針がまるで針鼠の様に刺さっていた。
「ちょっとユート、冗談でしょ……?」
「聖女様、彼に触らないで!」
「この匂い、煉獄茸の毒に似ています」
「だとすると素手で触るのは危険だ、手袋をつけてから針を抜いてくれ。僕は周辺の警護をする」
スレイ様の声に驚き手を引っ込める、煉獄茸って確か猛毒で有名なキノコよね?
「ねえアリス、ユート大丈夫よね……?」
「分かりません、匂いから判断しただけですからもしかしたら他の毒かもしれません。ただ、煉獄茸だったらこの毒針の数ではご主人様は……」
よく見るとアリスの目には涙が溢れている。そうだ、この子はユートにべったりで泣き崩れてもおかしくないはずだ。
「そうだ、あたしの快復術なら……アリス?」
アリスの針を抜く手が止まる。一体どうしたのだろうか。
「ご主人様が……」
「……っ!」
ユートの胸に耳を押し当てる……何も聞こえない。
「冗談でしょ……そうよ毒のせいよ、快復術!」
ユートの身体を淡い光が包んでいく、しかし光は途中で弾けて消えてしまった。
「そんな……快復術、快復術……快復術!」
いくら快復術をかけても弾かれてしまう。どうしてよ!
「聖罰者は全て撤退していきました。アリスさん、ユートは」
アリスが力なく首を振る、スレイ様はそうですかと呟いて剣を地面に刺して祈り始めた。
「あんた達なに勝手に諦めてるのよ!」
快復術が弾かれるのなら毒ではない、なら治癒術よ!
今度は光が弾けることなくユートを包んでいく、やった!
しかしいくら経っても光が治まらない、ユートは針鼠になったとはいえ針一本一本はそこまで太くなかったはず。服を捲って傷口を見ると一向に治る気配がない。
「イザベラちゃん、いくら聖女様の能力でも死者を蘇らせることは……」
「何言ってんのよ!聖女の始祖は死者も蘇らせたって伝承にあるんだから!それにユートは、死んでなんか……うぅ……」
駄目よ、ここで認めてしまったらユートが本当に死んじゃう。
あたしの為に危険な依頼を受けてくれて、一緒に旅して、あたしを庇って守ってくれたこいつをあたしは絶対に助けるんだ。
「こうなったのは僕の責任だ、彼を故郷で眠らせるためにも最善を尽くそう。アリスさんもそれで……アリスさん?」
スレイ様の言葉でアリスの様子がおかしい事に気が付いた、空を見上げてボーっとしている。
顔をよく見ると目が金色に輝いている。彼女の目の色は鮮やかな碧眼だったはずだ。
「これって、神託の瞳?!」
「なんだって?!だとするとアリスさんは新たな使命をたった今授かっている事になる」
しばらくするとアリスの目の色が元に戻った。彼女自身も気が付いたのか辺りを見回してあたしと目が合った。
「イザベラ様!ユート様をお助け下さい!」
「さっきからやってるわよ」
「今のままではダメなのです、もっと能力を上げなければ」
「そんなこと言ったって今から能力を上げるなんてそんな無茶な事……」
「無茶ではありません、一つだけ方法があります。ただしこれにはイザベラ様の人生を変える覚悟が要ります」
「そんなのコイツが死ぬよりもいる覚悟なの?」
「……分かりました、ではこちらに」
アリスはユートを座った状態にするとあたしを対面に座らせた。そしてユートの手とあたしの手を重ね
「イザベラ様、ワタシの言葉を復唱してください」
「分かったわ」
「ではいきます——」
◇◇◇
「なんだここ……って精神の世界か」
真っ白なで何もない空間へ訪れたのは初めて教会でお祈りした時なので一か月以上前になる。
「そっか、もうこっちに来て一ヵ月以上も経ってるのか。と言うかなんで俺今このタイミングでここに来てんだ?」
確か、イザベラの護衛中に聖罰者に襲われて……。
「そうだよ、矢みたいなのが見えたからイザベラ庇ったんだ。その後の記憶がないな」
「矢に塗ってあった毒で死んだのよ」
「おいジジイ死んだってマジか……って誰?!」
振り返って居たのは髭面のジジイではなく青肌三つ目の美少女が居た。
「あちきの事はどうでもいいじゃない」
「どうでも良くないしもう少し身体を隠してくれ!」
なんだその薄い布を身体に巻き付けただけの服とも呼べないシロモノは。
「しょうがないわねえ……これでいい?」
彼女が指を鳴らすと一瞬で衣装が変わった。なんだっけこれ、インドの民族衣装に似ている気がする。
「あぁ、ありがとう。ところで俺が死んだって本当か?」
「本当よ、本来なら死んだら魂は素材の天素に崩壊して世界に拡散するんだけど、貴方の魂は随分と強固になっているわね」
何やらぶつぶつと自分の世界に入り込んでいるがこちらとしては元の世界に戻りたいのだが。
「戻りたいの?本来ならそういう事は出来ないのだけど……貴方の周りに魂を再構成出来る子がいるから貴方と縁が深い子にその方法を伝えてあげる」
「え、あ、ありがとう」
「いいのよ、久しぶりのお客さんだもの。この世界を楽しんでもらわないとこの世界の主として威厳が保てないわ」
「あんた……いや、貴方様は一体」
「あちきはただの管理人よ。神様なんて呼ばれてたけど古すぎて誰も知らないわね」
ほら、そろそろ戻れるわよ、と言うので足元を見てみればなんだか身体が薄くなっている。
「あの、最後に名前聞いてもいいですか」
「あちきかい?あちきの名前はカーラ、今はただのカーラさ」
冷蔵庫が設置されて引きこもり係数が上がった




