194 虫退治
薩摩の日なので初投稿です
聖女はその能力と教国との関係性もあって各国では貴族階級かそれに準ずる扱いを受けている事が多い。
それが死亡したとあっては国際問題になってしまう。
「しかしなんだって聖女様が幽霊の討伐に」
「我が聖女様は他の真聖術はからっきしですが浄化の力だけはどの聖女様でも敵わないほどの実力の持ち主なのです。それに彼女自身の性格もあってこうして迷宮に向かう事の方が多いのです」
「なるほど、それで今回の討伐にも来たと言うわけか」
「聞いた話では女性の幽霊との事だったので対魔術の装備できたのですが……」
出てきたのがゴリゴリ物理型の白ワンピだったと。というか幽霊の性別で対策が変わるのか?
「それで、食べられたとお聞きしましたがそれは憑依されたという事でしょうか?」
「憑依?」
「えぇ、幽霊は特定の条件をクリアする事で他人の肉体に憑依します。そうすると幽霊としての特性は殆ど失われますが肉体を得てより強力な魔物へと変化してしまいます」
「なるほど、そんなことが出来るのか」
「悪魔憑きと呼ばれる現象だね。肉体の記憶に依存するから憑りつかれた人の才能に左右されるけどその強さは中級クラスの冒険者では手に負えない程だ」
そいつは大変だな。
「まあ今回は幽霊に憑依されたんじゃなくて虫に食われたんだけどな」
丸飲みだったので死体の損傷は少ないだろうがそのままだと胃液でドロドロになってしまうな。
その事を説明したら男は再び倒れてしまった。
「死体の回収は残り浄化の聖女様だけだ、そして恐らくだがあの虫が真の階層主とみて間違いないだろう」
しかし問題は数だ。あの木が虫の繭で階層主だとだとすると各地にある吊るす木は全部虫の繭だ。その全てを倒さないといけないのか羽化した虫だけを倒せばそれで済むのかが分からない。
「まあその辺りは後で考えるか」
今は救助が先だ。ドロドロに溶かされたら蘇生術は通りそうにないし聖女が死んだら国際問題で大変なことになる。そうなる前に何とかしなければいけない。
早速北に向かって走ると目標の虫がいた。10匹ほど。
「増えてるー?!」
「一体なぜ……」
「恐らくだが最初の一匹が羽化の条件を満たしたことによってこの魔物全体の進化の制限が解除されたんじゃないかな」
「なによそれ、じゃあこの階層の全体で……」
「あの虫が生まれているだろうね」
あの虫がそこら中に湧いてると考えると嫌すぎる。さっさと全滅させよう。
「アイツの中のどれかに聖女様が入っているはずだ」
「どうするのよ」
「全部の腹掻っ捌いて死体を引きずり出す」
「うげ」
「しかし他に方法は無さそうだね、そうするとお腹は攻撃しない方がいいね」
「頭を潰すか手足を捥いで無力化だな」
子供が捕まえた虫にやる残虐行為みたいな方法だが他にない。アリスと『親愛の絆』を発動して戦闘に入る。
大きなカマ腕の攻撃をすり抜けて首を切り落とす。首を落とされた虫はビクンと痙攣して倒れた。
「まず1」
「せいっやあ!」
アリスの双剣が虫を切り刻み四肢を切り落としていく。コレで2だ。
俺達の襲撃を受けて全ての虫がこちらに向いてギチギチと顎を鳴らしている。
「イヤーキモイキモイキモイ!」
絶叫しながらクレアが魔法盾を展開して籠る。まああのデカさは俺も少しキモイと思う。
「二人は大丈夫か?」
「虫は昔から見ていますので」
「ボクは紙魚以外なら割と大丈夫だよ」
シミ?あぁ、紙を食べる虫か。実物は見たことないがこの世界にもいるんだな。
しかし数が多い、何か死体が入っているような違いは無いだろうか。
「最初の一匹は人を食べているのだからお腹が膨れているんじゃないのかな?」
「そんなことあるか?」
虫の腹を見比べていく。全員木の幹の様な真っすぐな胴体があるだけだ。
「……ん?いや一匹なんか胴回り太いのいるか?」
虫の群れの中に腹が一際膨れた奴がいる。群れの一番奥にいるそいつは俺達から離れるような動きをしていた。
「一匹だけ逃げているのがいるな」
「じゃあそいつが一番怪しいね」
あそこにたどり着くには残りの虫を切り伏せる必要がある。逃げられる前に倒さねば。
「いくぞ!」
カマを受け止めて関節に剣を突き刺す。付加した風の刃が切り刻み腕を落とす。
腕を切り落とされて狼狽える隙に股下を走り抜けてついでに肢を斬りつけていく。
アリスに至っては虫の頭を踏んで八艘飛びしている。
「足場を用意してあげよう、『土石槍』」
ソフィーが魔術で出現させた石槍が虫を突き刺す。俺も巻き込まれそうになったんだが。
石槍を足場に跳躍したアリスが聖女入りの虫に接触する。
「せいっやあ!」
高速で回転しその勢いを使って斬りつける。虫はカマを振ってアリスを攻撃すると甲高い音が響く。
「捕まえました」
アリスが食いついた。今のうちに俺も向かおう。
殺人ウサギの夏、エビの謎