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186 迷宮の朝

皐月賞なので初投稿です

 目を覚ましてテントを出ると他の冒険者達が各々準備を始めようとしているところだった。迷宮(ダンジョン)は常に一定の明るさを保っている為時間の変化が分かりづらい。なので少々寝坊しても気にしない連中が多い。


「よお『迅雷』の。よく眠れたか?」

「まあな」

「ところで……隣の柱はいつのまに出来たんだ?」

「これか?まあちょっと昨日な」

「昨日……あぁ」


 アレックス達のテントを囲んでいた石壁を解除すると冒険者も察したのか自身の準備の為に戻って行った。アリスは既に起きていて朝食を作っている。クレアは神官達と一緒に朝の祈りをしていてソフィーは……どこにも見当たらないな。


「アリス、おはよう」

「おはようございますご主人様。ソフィー様はテントでお眠りになられているかと」

「まだ寝ているのか?」

「昨晩も分厚い本を読んでいましたので」

「なんだ、いつもの事か」


 朝食の準備は既に完成間近まで出来ている。このまま起きるのを待てば折角の朝食も覚めてしまう。


「俺が起こしてこよう」

「お願いします」


 テントに入るとクー助が丸くなって横たわっていた。その腹をソフィーは枕にして眠っている。


「きゅー?」

「ようクー助。お前を枕にしている寝坊娘を起こしに来たぞ」

「きゅー……」


 何時もならこれでクー助は立ち上がってくれるのだが今日は起き上がる様子もない。よく見ればクー助の後ろ足に抱き着いている。なるほどこれじゃあ起き上がれないな。


「仕方ない……ソフィー起きろ、時間だぞ」

「うぅん……」


 顔を足に埋める。位置的にちょっと危ないな。まあクー助がオスなのかメスなのか分からないけど。


「ソフィー、早く起きろ。そこは不味い」

「……ユート?」

「おはようソフィー、朝ごはん出来てるぞ」

「んー……ちゅう」

「ちゅう?」

「おはようの、ちゅう」


 随分と寝ぼけてらっしゃるようで。


「いままでしたことないだろ」

「やー、ちゅうする」


 布団を深く被ってしまった。これを剥がして起こしても後に引く。


「うーん……仕方ない、クー助目を瞑ってくれ」

「きゅい」


 顔を前足で覆って伏せてくれる。だが隙間からチラチラ見ているのが丸わかりだ。


「ほら、ソフィー顔出して」

「んー……ちゅうは?」

「するから」


 布団から顔をするすると出す。恥ずかしいがまあ見ているのはクー助だけだ。ソフィーの頬に唇を当てる。


「はい、ちゅうしたよ」

「……むー」


 ほほを膨らませて無言で睨んでくる。どうやらご不満らしい。


「ダメか」

「ダメ」

「ダメかー」


 今度は唇にキスをする。軽く触れる程度に合わせて離すと首を腕で絡めとられた。


「うお、んむ」

「んー……」


 引き離そうと首を引こうとしたが思った以上に捕まえる力が強い。長い時間唇を合わせていたら腕が疲れたのか解いて離れてくれた。


「……んぱっ、おはようユート」

「初めから起きてただろ」

「さて、なんのことやら」

「いや絶対……まあいいや。朝食出来てるから着替えて出てくるんだぞ」

「手伝ってくれないのかい?」

「……手伝ってもいいが、朝食が遅くなるし朝から汗かくことになるぞ?」

「ボクは構わないよ」

「そこはかまえよ。それに顔真っ赤にして言ってるんじゃあカッコつかないぞ」

「それは君も一緒じゃないか」


 耳まで真っ赤にしているソフィーを見て俺も恥ずかしくなった。逃げるように外に出た。


「まったく……」

「楽しそうね?」

「うお、クレアか。朝の祈りは終わったのか?」

「ええ、まあ」

「そっか、ソフィーは今起こしたからしばらくすれば着替えて出てくるだろう」

「そうね、随分と情熱的なモーニングコールだったわね」

「なんのことやら」

「あーあ、なんだかあたしも眠くなってきちゃった」

「……また今度じゃダメか?」

「あたしはほっぺでもきちんと起きるわよ?」


 辺りを見回す、他の冒険者は朝食を終えて各々探索の準備を進めていた。まあそんなに見てはいないか。

 クレアの唇にキスをする。唇に触れた瞬間ビクッと身体を震わせる。


「これで目が覚めたか?」

「~~バカッ!」


 テントの中に入っていくクレア。恥ずかしいならお願いしなきゃいいのに……?!


「殺気?!どこから……あ」

「……」


 皆が瓦礫を集めて作った調理場から見つめるアリス。その手には包丁を持っていた。逃げ……それは死ぬ。前に出るべきだ。


「アリス」

「なんでしょうかご主人様」

「あー……忘れていたことがあったんだ」

「それは何でしょうか」

「あーっと……挨拶、朝の挨拶を忘れていたんだ」

「そんなものあったでしょうか」

「あったんだよ、今朝決めたんだ」

「それでしたら分かりました」


 そう言うとアリスは目を瞑って唇を差し出してきた。テント内や周辺ならばあまり見られていないので一瞬近付くだけでよかったが調理場ではそうはいかない。現に隣で料理を作っている冒険者はこちらチラチラ見ている。

 だがここでしなければアリスの手にある包丁がどうなるか分からない。

 えぇい、一人に見られようが十人に見られようが同じこと!


「ん……」


 唇に触れるとアリスの吐息が漏れる。頬を赤く染めたアリスを至近で見るとこの子の顔マジで美人だな。


「足りません」

「へ?」


 アリスに頭を掴まれると唇を塞がれた。隣の冒険者は料理そっちのけで俺達を見ている。おい、焦げるだろちゃんと『にゅるん』くぁwせdrftgyふじこ?!


「……ぷはっ」

「……」

「続きは夜いたしましょう」


 アリスの激しい情熱にさらされた俺はしばらく動けなかった。


最協ドラマチック

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