181 対幽霊
サイフの日なので初投稿です
白ワンピの女との戦闘が始まって5分で2パーティ分の冒険者が死亡した。正確には心臓を鷲掴みにされた者が5名。その内3名がクレアの蘇生術で復活後、再び挑んで心臓を抜かれている。
「一時撤退だ!死んだ奴を担いで1階層まで戻るぞ!」
サイさんの号令で全員が退却準備を始める。死体が一つ白ワンピの足元に転がっているが流石にアレは回収出来そうにない。泣いている神官を抱えているパーティが横を通り過ぎる。あの死体のお仲間だろうか。
「殿は任せろ」
「《迅雷》!それは我々の……」
「近接職しかいないサイさん達じゃあアレの餌食だ。俺達の方が適任だ」
今まで敵の攻撃をまともに食らったことのない回避の鬼であるアリスに『反射』での防御と隙を作ることに特化した俺、さらに魔術師と神官も抱えている。精霊系なら魔術や真聖術が有効だ。
「……分かった、ただし!生きて帰って来い!」
「了解だ」
白ワンピがスライドするように走ってくる。歩きモーション実装されて無いのか分からんが迷宮の雰囲気も相まってホラーゲームの化け物だ。
戦闘で階段から移動してしまっているので俺たち以外のパーティはまだこの階層に数名残っている。
「全員が戻るまでここで食い止める。可能なら階段とは逆側に引っ張っていきたいが」
「畏まりました」
「や、やってやるわよ」
「対策は出来ているのかい?」
「もちろん」
先ほどまでの戦闘を見ていて気付いたこと、それは物理攻撃の殆ど無効化している事だ。攻撃が当たった所で僅かに怯む程度でダメージは通って無さそうだ。
魔術も物理攻撃と同じ結果だ。物理よりは怯む時間は長かったが。
「真聖術の浄化が大分苦しんでいるように見えた!クレアは連続で唱えてくれ!」
「分かったわ!」
「アリスは攻撃しなくていい、相手の攻撃を誘発して足を止めるんだ」
「お任せ下さい」
「ソフィーは魔術で白ワンピを攻撃してくれ」
「ダメージが通っているようには見えなかったけど?」
「だが剣で攻撃するより怯んでいる、俺は状況に合わせて盾役と攻撃役を切り替える」
回避に専念するとアリスは本当に何も当たらない。以前アリスの回避能力を調べる為に模擬戦闘を行った際、剣での攻撃に加えて盾で手元が見えない様にして背中に放った『瞬間爆破』を発動する前に回避されたことがある。何故分かったのかと聞いたら。
「ご主人様の目を見ていたらワタシの背後を見ていましたので」
視線で攻撃の予測を行っているみたいだ。試しにやってみたが全く分からなかった。
白ワンピの女がアリスに向かって攻撃をしている隙をついて背後に回り込んで攻撃する。
「ふんっ!はっ!」
剣で背中を攻撃するが、やはり手ごたえが無い。思い返しても攻撃が当たっていたのは手や腕だ。
「やっぱりコイツ、魔素体か!」
精霊系には大きく分けて2つの系統が存在する。魔素体と物質体である。
精霊系とは魔素の塊が迷宮の性質によって魔物化したものだ。身体を構成する魔素の全てが核心であるため、魔素が霧散すれば死ぬ。その代わり物理的な攻撃は全くと言っていいほど通らない。
一方で物質体がどういったものかというと、魔素体として完全に固定する前に物体に潜り込んで肉体としたものだ。『赤竜火山』であった溶岩人形がいい例だろう。
「ならば魔術は効くはずだ。『火球』!」
物理的な攻撃は効かないが魔素を利用した魔術は核心の魔素に強く作用してダメージを与えることが出来る。こっちを見た白ワンピの女の顔面に火球をぶつけた。
「こっちもいくわよ!浄化!」
顔面を火で炙られて悶絶している隙にクレアが浄化の光を浴びせる。魔素体系の代表格である幽霊に特化した真聖術の数少ない攻撃術である。
キャアアアアアアアアアア
悲鳴にも似た声を上げながら白ワンピが徐々に透明になっていく。しばらくすると完全に消えてしまった。
「やったか……?」
「いいえ、まだ邪悪な気配がするわ」
「となると逃げたと考えるのが妥当か」
撃破か退却かは分からないがとにかく危機的状況は脱したようだ。サイさん達と合流するために階段に向かう。
「そういえばまだ一人死んだままだったよな?復活させよう」
「死んでからまだそこまで経過していないから、特に問題なく生き返ると思う……けど」
「なあ、死体は何処だい?」
ソフィーの言葉であたりを見回す、あの白ワンピの足元に転がっていた死体が何処にも見当たらない。
蹴飛ばした記憶はない。というか鎧を纏った成人男性なんて重くて蹴飛ばせない。運べるとしたら筋肉隆々のマッチョマンであるサイさん率いる《鋼の肉体》位だろう
「俺達が足止めしていた時に回収したのかもしれない。一旦戻って作戦会議だな」
幾らホラー系の階層とはいえ魔物化するには時間が掛かる。戻って聞けば分かる事だ。直ぐに階段途中になる広場で野営の準備をしている集団を見つけた。俺達が近付くとその事に気付いた冒険者が集まってきた。その中に先ほど抱えられていた神官がいた。
「あの!アレックス……死んだ冒険者の身体は何処に?!」
「あれ?回収したんじゃなかったのか?」
俺の言葉に神官が階段を駆け下りていき、仲間であろう冒険者が付いて行った。
「消えた死体とはミステリー小説みたいになってきたな」
あまねくand始発点youで感情ぐちゃぐちゃ