18 鍛冶師
節分過ぎたので初投稿です
思わぬ珍客に全員がたじろぐ。当の本人はカウンターの上に横たわる剣を見て号泣しているが。
「なあ、兄ちゃん達のお友達か?」
「冗談言うな、こんな面白いヤツと知り合った記憶はない」
「あの、どちら様でしょうか……?」
アリスが訪ねる。女の子は涙を拭うとボロボロの剣を持ち、カウンターの上に仁王立ちした。
「オレは超古代文明ポンパルの技術を復活させた超技術国ベーレヌスの超鍛冶師のヴニュ!このスーパーアルティメットエクスソードの生みの親だ!」
「自己紹介だけなのに情報量が多い」
「とりあえずカウンターから降りてくんねえかい」
「えっと、個性的なお名前ですね」
その個性的は剣に対する感想なのか彼女自身の名前に対する感想なのか。
ヴニュと名乗る少女はカウンターから飛び降りるとずかずかと俺のもとによって来た。
「おめえかオレの剣をこんな惨たらしい姿にしたのは!」
「あー、君がこの剣の制作者?あそこの樽にあったけど」
「おうさ!生まれ故郷じゃあ少しは名が売れていたがここは異境の地、まずはオレの武器の出来を見てもらおうって魂胆だったが……うぅ、スーパーアルティメットエクスソード……」
なんだか悪いことした気がしてくるが、武器である以上いつか壊れる物だ。まあヒュージスライムを斬りつけたり、廊下の壁ごと力任せに斬りかかっていたが。
「それはすまない事をした。だけど君の作った剣のおかげで俺たちは生き延びれた」
「オレの剣のおかげ……?」
「あぁ、あの樽の様な粗悪な剣ではすぐに折れて使い物にならなかっただろう」
「そうですね。まさに運命の出会いだったのでしょう」
「確かにこの剣はまだ未熟ながら芯がしっかり作られていた、他の剣だったら5回も斬ったら折れてるだろうな」
「お、おう……そうだろそうだろ」
なぜかおっちゃんも一緒に持ち上げてきたけどおかげで彼女も満更ではなさそうだ。
「お嬢ちゃんの剣はダメになっちまったが、見方を変えれば剣としての使命を全うしたとも言える。なにせこの兄ちゃん達の命を守ったのだからな」
「そうだな、まさしく命の恩人ってやつだな」
「本当にありがとうございます」
やんややんやと彼女を褒め称えていくと、褐色の肌に燃えるような赤みが出てきた、SNSでよく見るひたすら褒めて赤面する女の子みたいになってきた。
「し、しょうがねえなあ!そこまで言うなら特別に作ってやるぜ!新しいスーパーアルティメットエクスソードをよお!」
「いえーい!……ん?」
「良かったな、兄ちゃん!」
「大変喜ばしいです」
「オレの寛大さに喜ぶと良い!」
なんだかおかしな事になってきた。別にお得意の鍛冶師が欲しかったわけじゃあないが。
「ところでお嬢ちゃん、お前さんいい腕を持っているがどこか鍛冶師に弟子入りしてたのか?」
「あん?オレに師匠なんかいねえよ!しいて言うならオヤジの鍛冶を見て覚えたんだ!」
話を聞くと子供のころから両親の鍛冶仕事を見てきた彼女は鍛冶屋を継いでいくと思っていたが、父親に反対されて大喧嘩の後、家を出て冒険者兼鍛冶師として修行の旅をしているらしい。
「オヤジを超える鍛冶師になって鼻を明かしてやるんだ」
「いい話じゃないか。よっしゃ、お嬢ちゃんが良ければウチと契約している鍛冶屋に修行しにいかないか?」
「いいのか?!」
「簡単に乗るなよ、おっちゃんの事だしどうせ条件があるんだろ?」
「おう、お嬢ちゃんの腕前は独り立ちしたばかりの鍛冶師よりはいいが一流とは言えねえ、だが鍛えれば一流鍛冶師になれると俺は確信している。そうなった暁にはぜひウチの店に専属で武器を卸してほしいんだ」
「あ……?どういうこった?」
「つまり君が作った武器をこのおっちゃんに売ってほしいって」
「んだよそういうことか!いいぞ、オレは武器を作ることはできるけど勘定は興味ねえ!」
「それでよく家業を継ぐって言ったな」
「オヤジたちの武器を欲しいヤツに渡したら勝手に置いていったからな、そういうもんじゃあねえのか?」
そういうものでは無いと思う。
「よっしゃ決まりだな!改めてオレの名前はヴニュ、ヴニュ・ムガイだ!おっさんは名前なんていうんだ」
「おっさ……俺はテンチョーだ」
「よろしくなテンチョー!おぉ!そういえばお前らの名前も聞いてなかったな!」
「結人だ、こっちはアリス」
「よろしくお願いします」
「ユートにアリスか、じゃあお前にはこいつをやろう」
ヴニュが背負っていた棒状の包みを解いて俺に見せる、って剣?
「スーパーアルティメットエクスソードの双子剣、その名もスーパーウルトラカリバーンだ!」
名前だっさ、しかし見た目はスーパー何某ソードと同じである。柄の巻革がぐちゃぐちゃなのも初めて見た時と一緒だ。
おっちゃんに渡すと「とりあえず革の巻き方からだな」と言いながら手早く巻き直してくれた。
「お嬢ちゃん、今持ってる武器はこれしかないのかい?」
「今はこれしかないぜ、だけど明日までまってくれたら一本作ってくるぜ!」
「じゃあナイフでいいから作って明日持ってきてくれ、修行先の鍛冶師にどの程度の腕前か教える必要があるからな」
「わかった!明日だな!」
ヴニュは話を聞くともうここには用はないとばかりに走っていった、忙しい奴だ。と思ったらすぐに戻ってきた。
「おいユート、スーパーウルトラカリバーンとスーパーアルティメットエクスソードは双子剣だ。この二振りは2つで1つな事を忘れるなよ、じゃあな!」
なにか言う前にいなくなってしまった。なんだか変な謎かけみたいだな。
「ところで兄ちゃん達、装備どうするんだい?」
あ、そういえば装備を買うためにここに来たんだった。
グバ楽しい